ならずもの
─────ところがですよ、ふたりがあんまり腹いっぱい食べ過ぎたせいか、それとも高慢ちきになってしまったのか、その辺のところはよくわかりませんけれど、とにかく、二人とも歩いて帰るのが嫌になってしまったのです。────
グリム童話理不尽話。
それはくるみの熟れる頃、雄鶏と雌鶏の夫婦がくるみを食べに山に行きます。
二匹はくるみをたらふく賞味しますが、帰り道が億劫で歩きたくない。理由は不明です。
歩きたくない二匹はとりあえずくるみの殻で馬車を作りますが、じゃあ誰が車を引けっていうんだよと喧嘩している時、「俺の山で断り無しにくるみ食べやがって!」とカモが突如飛び出してきてバトル開始。
雄鶏がカモにのしかかり、蹴爪で引っかき回し、返り討ちにしたので、カモは降参しますが、罰として馬車に繋げて走らされます。
鳥類が鳥類を使役する珍しい話。
途中で「町の門の前の仕立て屋の宿にいたんだけど、ビールを飲んで遅くなっちゃったんで、車に乗せてください。道が汚いんで!」とヒッチハイクしてる縫い針と留め針に追いかけられます。
どういうことなの。
鶏夫婦は、「まあこの方達細いから場所取らないしいいか、でも足踏まないでね」と拾って乗せてやり、宿屋へ行きます。
さて、カモが疲れてよろよろしてきたころに宿屋に着きましたが、宿屋の主人は動物と無機物とくるみの馬車という珍妙なメンバーを断ろうとします。
しかし雄鶏雌鶏が「雌鶏が生んだ卵あげる!」「このカモもあげちゃう!卵生むよ!」とこぞってアピールしたので泊めてあげることにするのです。
雄鶏雌鶏は大宴会の末、朝早く生んだ卵を2匹で食べて、殻を暖炉に捨て、針達をクッションとタオルに刺し、お代を払わずとんずらします。
雄鶏夫婦の次に起きてきた主人は、まず暖炉に火を起こそうとすると捨てた殻が弾けて目に当たり、びっくりしてタオルを使えば刺さっていた針でミミズ腫れができ、散々だとクッション腰を下ろした瞬間またもや刺さった針にぶすりと攻撃され飛び上がるという散々な目に遭います。
オチが「こういうお客様と関わるとろくなことないですよね」というあんまりなもの。
もしかして実際にあった話なのかもしれない。雄鶏雌鶏が人間だとしたら、他人の敷地でくるみを奪い、止めに入ったカモを誘拐して宿屋へプレゼントした末一緒に来た人を二人置いて食い逃げする悪党です。
自分の生んだ卵自分らで食べてるんですよね。人間で考えたら怖い。
でも、宿屋の主人が酷い目に遭う場面が、トムとジェリーのように大変賑やかですので、子供受けはするのではないかと思います。話をねだられた大人は微妙な顔すると思いますが。