狼と七匹の子山羊
────「坊やたち、あけておくれ。おかあさんだよ。みんなに、いいものをもってきてやったよ」
けれども、その声がしゃがれていましたので、子ヤギたちには、すぐオオカミだということがわかりました────
やっとポピュラーな話が出てきました。
言わずと知れた、オオカミが子ヤギを食おうとして努力して、成功するもお腹に石詰められて死ぬ話です。
ある日お腹を空かせた狼が、留守番中の子やぎ達に、ドア越しに母と偽って声を掛けますが、声でバレます。
「お母さん以外の誰かが来てもドアを開けてはいけないよ」、との母からのお達しを、子やぎ達はしっかり守っているのです。
狼はチョークを食べて声を変え(グリム兄弟の生きてる頃に、チョークを食べると綺麗な声になるという民間療法があったようです)再挑戦しますが、今度は黒い手でバレる。
狼はめげずにパン屋と粉屋を脅し、練り粉と小麦粉を手に塗って色を変え、再アプローチ。
白い手と高い声を聞いて、不用意に扉を開けた子を捕まえて丸呑みにしますが、時計の中に隠れた末っ子だけ見つからずに無事でした。
末っ子は帰宅した母やぎに今日の出来事を報告します。
母やぎは焦らず、満腹で寝ている狼を探しだし、鋏で腹を切り開き、丸呑みされてた子やぎ達を救出します。
ついでに、報復として、狼の腹に石を詰めて縫い合わせます。
起きた狼が「お腹からがらごろ音がする」というのを陰で見守り、最終的に喉が渇いたため井戸から水を飲もうとした狼がお腹の重みで井戸に落ちて死ぬ。
子やぎ達は「狼が死んだ!」と喜びながら井戸の周りで踊り出す。そんな話。
大抵、こういう童話には教訓がございます。この物語の場合は、子供は不用意にドアを開けてはいけない、悪い大人は子供を騙そうと変装するという至極シンプルな教訓です。
実は、グリム童話集に編纂される前にこの物語は日本に渡っております。
日本に来た宣教師がこの物語を印刷機で印刷するんですね。
ですのでもしかすると、天正遣欧少年使節の子供達は、狼と七匹の子やぎの話を知っていたかもしれません。すいません、まだ裏付けは取れていませんけれど。
わかりやすい筋立ても相まって、明治以降も比較的早めに日本で知られることになったグリム童話の一つになります。
何故か日本では当初「八つ山羊」というタイトルでした。
お母さん山羊を勘定に入れているのだと思います。
象徴学とかでは石って重要なのです。石をパンに変えるのが神様だったり、石から人間作ったり。あと魂宿るとかっていいますよね。
お腹の中に石を詰めるっていうのは、身代わりという意味もありそうです。あと単純に報復。
腹に石を詰める類話をちょっと探したんですけど、日本だと大分県あたりでそっくりなお話があるみたいです。
母親の留守中に山姥がきて、三人姉妹の妹二人を丸呑みにした。
逃げた姉が母と戻ると山姥が寝ていたので腹を切って妹を救出。
腹には代わりに石を詰め、山姥は水を飲もうとして泉に落ちて死んだ、という。
此方は登場人物全員女というのと、姉が逃げ切れるというのが独特なお話ですが、類似があって面白いですね。