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こわいことを知りたくて旅にでかけた男の話

─────と、こんどは、あとからあとから、たくさんの人間が落ちてきました。そいつらは死人の骨を九つと、されこうべを二つ持ってきて、九柱戯をはじめました。若者もやってみたくなって、「どうだね、おれもいれてくれないかい」と尋ねました。────





グリムのマジキチ話の一つ。サイコパスと馬鹿が重なって最強になってる男の話です。



昔々、農民の父親長男次男の三人家族がおりました。


二人兄弟のうち兄は分別を持っておりますが、弟は間抜けで、「ぞっとする」ということが何かわかりません。

兄は内心弟を馬鹿にしてますし、お百姓の父も諦めてます。


「お前も男なんだから、自分で食ってけるようにしような、なんか覚えるとかして」と言われれば「うん、じゃあぞっとするってなんなのか覚えたいよ。俺怖いとかよくわかんないんだ」と、返す始末。


ぞっとしたいならさせてやろうと、お化けの真似をして脅かそうとしたお坊さんを物理攻撃して、階段から突き落としたため、弟は父親から勘当され、銀貨50ターレルを手切れ金に怖いことを知るため旅に出ます。


この50ターレル、どれぐらいの価値基準かなかなか難しいところですが、牝牛を上手く売れば7ターレルです。


財産分けしたわけなので大金は大金なのですが、お百姓さんが出せるレベルの金額でしょう。

特に乳製品と肉の高い日本の物価に当てはめると齟齬が出ます。


しかし、ターレル銀貨と、それより価値あるターレル金貨もあるので、50ターレルだけではいくらか見当がつきません。




とにかく本当にこの男、死の恐怖とか嫌悪感とかがわからないようです。


「ぞっとしたいもんだぞっとしたいもんだ」といいながら旅する男は、死刑台を通りかかればその下でたき火をして夜を明かします。


ついでに寒い中吊りたてほやほやでぶら下がってる七人の首吊り死体が可哀想なので全員下ろして暖めてやります。


その際死人の服は燃えますが、「気をつけろよお前!」と声を掛けるだけ。

死人が無口なのに怒って、理不尽にも再び吊り直します。お前が怖いよ。



流浪の途中で、宿屋の主人から、「呪われた悪魔の住むお城の魔法を解く為に三日寝ずの番をするとぞっとするってことわかるかも笑」「そんな勇気のある人には褒美に絶世の美女なお姫様くれるってよ、お城には宝物も沢山あるらしいよ、まあ王様チャレンジした若者皆死んでるけど笑」とRPGばりの耳寄りな情報を貰います。


「怖そう」なので早速王様の元に馳せ参じ、チャレンジ宣誓したところ、生き物以外の何かを持ち込みOKだというので、たびびとの服とどうのつるぎではなく、火と旋盤と小刀付き細工台をいただきます。


一日めはトランプに誘ってくる化け猫を騙して細工台に固定してたたき殺し、その後大量発生して火を消そうとしてくる黒猫黒犬にぶち切れて切りかかり、十二時まで某ペンギンのクレイアニメのごとく動くベッドを乗り回します。


次の日王様が城を訪れて、男が生きてるのをみてびっくり。


二日目は、煙突から上半身と下半身が別々に落ちてきて途中合体した人間達が死人の骨と骸骨で九柱戯(ボーリング的なゲーム)をはじめたので、交ぜてもらいたくなって、されこうべを旋盤で丸く削り、十二時まで賭けボーリングしてちょっと負けます。


三日目の夜は、夜更けに六人の男が棺桶を担いできたのですが、何故だか男は「きっと中身は数日前に死んだ従兄弟だろう」と思い死人を棺桶から引きずり出し、寒そうだからと火に当てさせ自分とベッドに寝かせて暖めて生き返らせます。


生き返った死人が起き上がると、恩知らずにも「やい、きさまを絞め殺してやる!」と怒鳴るので、そいつを再び棺桶にぶち込みます。その死体は本当に従兄弟だったのでしょうか?


その後白く長い髭を生やした大男に鍛冶場で力比べを挑まれましたが、斧を振り下ろして大男の髭を金敷きに食い込ませ、動けぬ大男をそこらへんにあった鉄の棒でリンチして降参させます。


大男は地下室へ男を案内し、そこにあった金貨の詰まった箱を「一つは貧乏人に、一つは王様に、一つは貴方にあげましょう」と説明されているうちに十二時になったので大男は消え失せます。


そんな鬼神を泣かしめる活躍の末、男は見事お城の呪いを解いて王様になることができたのでした。



さて、男と結婚したお姫様は、王様になってなお「ぞっとしたいもんだ」が口癖の旦那に業を煮やし、男の寝ているベッドにドジョウの入った桶をぶちまけ、見事男に「うわあぞっとする!」と言わせることに成功したのです。そんな話。



馬鹿は風邪引かないと似たような感じで、馬鹿は死なないというよりは、ある種のノセボ効果が働いているように思います。


プラシーボ効果の反対で、信じなければ効果は出ない。

恐ろしいものを怖がらなければ、恐ろしいものは手出しができない、というような。


あと、力技って割と通じるということかもしれません。


主人公のごり押し力技に対し、この話には魔術的表現がたくさんあります。


死人を暖めるとか、12時の鐘でみんな消えるとか。



この話のサイコパス感はグリム童話でも随一のものです。


ここまで死の概念すらわからなさそうなキャラクターは現代においても斬新だと思います。

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