蛙の王様
───するとカエルはこたえました。着物も、真珠も、宝石も、金のかんむりも、そんなものは、なんにもほしくありません。そのかわり、もしあなたがわたしをかわいがってくださろうというのなら、わたしをあなたのおともだちにしてください───
グリムの中でも有名なお話の一つ。
改訂版でも、「蛙の王様」は必ずグリム童話の巻頭を飾る話です。
「むかしむかし、まだどんな人の望みでも、思いどおりにかなったころのことです。」という美しい書き出しが特徴的です。
王様の末娘は大変可愛らしく、城近くの森の菩提樹脇の泉で黄金のまりを投げて遊ぶのが大好きでした、ある日、金のまりを泉に落としたお姫様が泣いていたところ、泉から醜い蛙が出てきます。
蛙は、『金のまりを池から取ってきたら友達になって、夕食を並んで食べて、王女の金のお皿と杯を使って食べさせてください。その後貴女のベッドで一緒に寝かせてください』という提案を持ちかけ、お姫様はその提案に乗ります。
願いは叶えられ、お姫様は金のまりを取り戻しますが、内心醜い蛙と仲良くするなんてまっぴら。
しかし父王に「約束は」反故にしてはいけないというお叱りを受けて渋々言うとおりにして、蛙を食卓に乗せ、食事をシェアします。
お姫様はその後蛙と寝室へ行くのですが、調子に乗った蛙が、一緒のベッドで寝かせてくれないと父王に言いつけると脅すので、お姫様はブチ切れ、蛙をひっつかんで壁にシュートします。
すると不思議なことに呪いが解け、蛙はイケメン王子の姿に変わり、お姫様は喜んでお嫁に行く。
急に登場した王子の忠臣ハインリヒも鉄の胸輪から解放されます。そんなあらすじです。
阿呆か暴虐か変態な王様が多いグリム童話には珍しく、父王が正論を言っております。お姫様は素直にわがままで子供らしく、王子はド変態。
なぜ壁に蛙をパァンすると呪いが解けるかというのが一番の疑問になるでしょう。
教育上よろしくないということで、蛙にキスをするという内容に変えている本もございます。
個人的には、他のグリム童話の中で、蛙にキスすると呪いが解けたりする話があって混同しますので、原作重視でいきたいところ。
恐らく話全体を通して「約束は守らねばならない」という教訓があるのですが、他に「貞操を守るべき」というのがあるのかもしれません。
蛙の姿だからまだ童話らしいですけれど、結婚できるような「大人の男に」「嫁入り前の娘」が言いくるめられ、「夕食を共にし」「寝所まで共にする」訳ですから。現代ならばもれなく事案です。
「約束は守らねばならないけれど、約束をダシにして調子付く男もいるからそこは流されちゃ駄目だよ」とでもいうか。
お断りしたお姫様の選択は正解だったからこそ呪いが解けたように思います。
また、踏みつける行為には魔を調伏する力があるので、そちらの民俗学とかも関わってくるのやもしれません。
あと、グリムの他の話で、富をもたらす蛙をたたき殺したら不幸が訪れる。逆に不幸をもたらす蛙を殺して幸せになるなどというものもあるので、個人的な見解で、叩きつけたら蛙部分が死んだ→呪いは解けたんじゃないかと。難しい。
グリム童話には蛙がたびたび登場します。蛙にキスする話も蛙を叩き殺して不幸や幸せが訪れる話など。身近な存在だったようですね。
鉄のハインリヒは王子が蛙になった悲しみで胸が破裂しないように鉄の胸輪をしていた忠義者の家来です。物語進行に全く関わりありませんが、元蛙の王子が国へ帰るための馬車に同乗します。
そして道中、呪いが解けた喜びによって鉄輪の方が三度破裂します。胸に三つ輪をはめていたんですね。パチンパチンと爆ぜる鉄の胸輪の音が祝砲のごとく鳴り響いて物語は幕を閉じるのです。
ハインリヒはこのように、エンディングを幸せなものに飾るだけの役目なのですが、正直、変態王子には過ぎた部下だなと思います。