私の愛しい旦那さまと、大好きな親友は
ねえ、君は気づかないんだね
どれだけ彼らに愛されてるか
僕がずっと君を見ていることも
すべてを見えてる気になっている君に、吐き気がするよ
それでも、あぁ、愛してる
それは、あられもないほど真っ赤な糸だった。
ふと覗いた拍子に見えた、違うクラスの女の子。真っ黒な色気のないおかっぱ頭の(誤解しないでほしい。べつにおかっぱがキライなわけじゃないの。むしろスキだけど彼女のおかっぱはびっくりするほど色気が無かっただけ)、真っ黒な黒縁眼鏡をかけたその子は教室の隅で丸くなるように本を読んでいた。誰も目に止めない彼女に、けれど私は釘付けになった。
よく、おかしなものを見た。
例えば頭から斧が生えた血みどろの女が跨るブリキの象。地面を泳ぐ人魚に水面を歩む狸。
意味がないようでいて、意味があるもの。
私だけに見えていた。
ちょうどその頃、運命の赤い糸が流行っていた。運命の恋人同士は赤い糸で小指同士が繋がっていると。運命の元ネタは足首だそうだが、まぁ、それはいいのよ。
私にはそれらしき糸が見えた。ただ、赤い糸だけは見なかった。青だったり銀だったり紫だったり。あるとしても朱や橙がせいぜいだった。
同じ糸で結ばれたカップルがいた。
それぞれ違う糸に結ばれている同士のご夫婦がいた。
同じ糸で結ばれたカップルは結婚した。
違う糸に結ばれているご夫婦は、それぞれ同じ糸で結ばれている人と出会うとすぐさま離婚し再婚した。三人の子供は彼女らの祖父母が引き取った。つまるところこのご夫婦は私の両親で、三人のうちちょうど真ん中の子供が私だ。
誰にだって糸が繋がっていた。切ることはできない。だから、教室はいつも糸だらけで、色が溢れていた。
そんな中、彼女から出ている糸はぎょっとするほど赤かった。
他を圧して余りある、赤。
興味を持った。
彼女とは親友になった。引っ込み思案でアルマジロのように殻に閉じ籠る彼女は、しかし一度心を開けば随分打ち解けてくれた。
キラキラと目を輝かせ世界を見つめる彼女は、次第に私の中で大切なものとなっていった。
彼女と結ばれているのは一体どんな人なのだろう。
ふと気になった私は彼女の糸を辿り、
彼と出会った。
自分の意思とは関係無しにどんどん惹き込まれていった。砂に足を取られるように、渦に吸い込まれるように、
恋に落ちるように。
彼と結婚し、幸せだった。
幸せすぎて、忘れていた。
彼が本来、誰と結ばれているのかを。
十年ぶりに会う彼女は別人のようになっていた。
総髪にした髪は背を覆いメッシュが入りウェーブがかっていて。
怜悧とも精悍ともいえる顔立ちはどこか物憂げで。
スラリと伸びた背丈。ちょうど彼の頭一つか一つ半ほど上程度。
凛とした雰囲気の、実に色気のある美女になっていた。
心臓が嫌な音を立てた。
何もかも変わった彼女。それでもこちらを見る眼差しと赤い糸は相変わらずで。
たまらなかった。劣等感と嫉妬で潰れそうだった。酒がなければやってられなかった。
そして酔い潰れた。
私に糸は無い。誰とも繋がっていない。どんなに絡めても、絡めても、
誰とも繋がれない。
彼女が私を好きだと言うの。でもそれは私が彼の糸を身体に巻きつけているからだというのに