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家族戦争  作者: 南波英人
2/2

侵食

お風呂から出てもお姉ちゃんは帰ってきてなかった。


早かったけど、お母さんと実花におやすみと伝えて部屋に向かった。


お父さんにも伝えようと書斎に行ったけど中にはいなかった。


友達から借りた漫画読んでいるうちにお姉ちゃんは帰ってくると思ったけど、読み終わっても帰って来なかった。


しょうがないから昔から持っている漫画も読んでみた。


内容も覚えているせいか、ただペラペラとページをめくっているうちに眠りに落ちてしまった。


「ねぇ、どちらと同盟を結ぶか決めた?」


部屋の中はまだ暗い。


暗闇の中からお姉ちゃんの声が聞こえるけど姿は見えない。


「お姉ちゃん?」


眠気がもう一度夢の中に引きずりこもうとしているみたいに頭がクラクラする。


「ねぇ、どちらと同盟を結ぶか決めた?」


先ほどと変わらない質問が聞こえる。


僕だってこんなイタズラ早くやめて欲しかったけど、こんなに眠いんじゃ文句もうまく言えない。


どっちでもいいや。明日文句をいえばいい。


眠くてたまらない。


「お母さんにするから眠らせてよ」


「・・・分かった」


やっぱり暗闇の中から声が聞こえたけど、それっきり物音は聞こえなくなった。


(夢だったのかな)


僕はまた眠りに落ちていった。


「いい加減起きなさい!いつまで寝ているの!」


「もう少しだけ・・・」


「何言っているの!8時すぎてるのよ」


8時。8時っていつも起きる時間より40分も遅い!


血の気が引くとともに頭が覚醒していく。


「本当に8時?」


「お母さんは嘘なんて言いません。あなたが起こさなくてもいいって言うから起こすのやめたのに。全然ダメじゃない」


3ヶ月間は一人で起きられたんだから、全然ダメというのは間違いだと文句を言いたいけど言ったらもっと怒られる。


僕は急いで着替えを済ませて学校までの時間配分を考えた。


「ご飯どうするの?」


「少し食べていくよ」


食べないっていったら、お母さんの説教が長くなる。


僕なりの妥協案だ。牛乳とサラダ少しだけ食べよう。


リビングには誰もいなかった。


お姉ちゃんも実花もお父さんも、出かけてしまったらしい。


「ごちそうさま。行ってきます」


急いで食事を終わらせ学校に向かった。


頭の中から昨日お姉ちゃんとした会話はすっぽりと抜け落ちた。


今、頭の中を占めるのはどうやって遅刻しないで学校に行けるか、遅刻しても怒られない言い訳を考えるので必死だった。



「和己、急いでいるみたいだけど乗っていく?」


友達の雄一に声をかけられたのは,学校まで残り1kmで信号待ちしている時だった。


呼吸するので必死で声が出せない。僕は頭を立てに振って乗りたいとアピールした。


「寝坊したの?」


運転している雄一のお母さんに小さい声だったけどありがとうございますと伝え、車に乗り込む。


「寝坊した」


僕の息を整えようとする呼吸音が車の中に響く。


それが面白いのか雄一は笑ったけど、雄一のお母さんが雄一を叱った。


「あんたが笑う資格はないでしょ。寝坊してお母さんに送らせて。次寝坊したら乗せないからね」


雄一は笑うのをやめごめんなさいといったけど、お母さんに見えないように僕に笑いかけた。


うちのお母さん甘いから大丈夫っていっているみたいだった。


呼吸が少し整ったぐらいに学校近くでおりる。


雄一のお母さんに再度ありがとうございましたと伝えて車を降りた。


雄一も僕の真似をしてありがとうございましたとカタコトのように言った。


「雄一ふざけないの!和己君も次から気をつけなさいね。今回は和己君のお母さんに内緒にしてあげるから」


雄一のお母さんはそういうとUターンして去っていった。


ここからなら十分間に合う。


額に出てきた汗を袖で拭いながら、雄一と並んで学校へ向かった。


「助かったよ。遅刻するどころだった」


「いいって。俺も遅刻するところだったし。

それに、あの時もお母さんに説教受けてたから和己が乗ってくれてよかったぐらいだよ」


ところで漫画面白かったと聞かれて持ってくるを忘れた事を思い出した。


「ごめん。忘れちゃった。今日帰ってから持ってくよ」


「面白かったから夜ふかしして読んで遅刻したんだ?」


雄一はそういうと自分のおすすめは必ず人気が出るからなと自慢げにしていた。


「違うって漫画のせいじゃなくて、お姉ちゃんが・・・」


「お姉ちゃんが何?喧嘩でもしたの?」


雄一は笑うだろうか?お姉ちゃんの「家族戦争」というイタズラが不安で寝付けなかったことを。


「ちょっとだまんないで、早く話してよ。どうせお姉ちゃんのおやつ食べて喧嘩だと思うけど」


でも、笑ってくれたほうが僕も安心できるかもしれない。


「違うよ。昨日お姉ちゃんにイタズラされたんだよ。家族で戦争するって。


急にそんなこと言われてさぁ。それに朝早く僕の部屋に来て、お父さんとお母さんどっちと同盟組むかとか聞いてくるんだよ。寝不足にもなるよ」


笑うと思って僕は言い終わると同時に笑おうとした。馬鹿だな、馬鹿だよと。


でも、雄一の反応は僕の想像とは違うものだった。


「そうか。和己んち家族戦争始めるなら、漫画戦争終わってからいいよ。頑張れよ。俺んち家族戦争でじいちゃん戦死したし。気を付けろよ」


何を言っているのか分からないから何も言えなかった。


なんで家族戦争のこと知っているの?


家族戦争でじいちゃん死んだってどういうこと?


「そろそろ時間やばそうだから、急ごうぜ。


負けた方が今日の給食のプリン勝った方に渡すこと」


言い終わると同時に雄一は走り出した。


ふざけて言ったのかそれとも本当に家族戦争というものが存在しているのか、


走り出した雄一の後ろ姿からは分からなかった。


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