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家族戦争  作者: 南波英人
1/2

開戦

「由紀、和己。ご飯出来たから降りてきなさい」


「今行くよ」


宿題で出た算数の問題があと2問だけなのに。


けど降りるまでお母さんは呼ぶのをやめないから、仕方がないけど諦めることにした。


「由紀、和己。早く降りてきなさい」


「今行くから待って」


「由紀聞こえてたら返事しなさい。由紀。由紀!」


お姉ちゃんは返事をしないからお母さんがお姉ちゃんの名前を何度も呼ぶ。


お姉ちゃんの部屋のドアをノックする。


「お姉ちゃん。ご飯出来たみたいだから降りようよ」


返事がないから開けるよと声を掛けてドアを開けた。


さっきまでいたと思ったけど、お姉ちゃんの姿はなかった。


仕方がないから一人で一階のリビングに向かった。


「お姉ちゃんいなかったよ」


妹の実花と一緒に料理をテーブルに運んでいるお母さんに伝えた。


「本当に?」


お母さんはどこに行ったのかしらと携帯を取りにいったので僕は実花と一緒に料理を運ぶのを手伝う事にした。


「お姉ちゃんどこ行ったの?」


「僕も知らないよ。あっ実花、それ重いから僕が運ぶよ。実花はお醤油運んで」


実花は小学生1年になり家のお手伝いを進んでするようになった。


お手伝いはいいことだけど、体が小さいから危うくてみてられない。


でも、やるなっていうと怪獣みたいに泣く


僕は実花のお手伝いを「お手伝い」しなくちゃいけないからすごく疲れる。


早く一人でお手伝い出来るようになって欲しい。


お父さんがいつも座っている所に料理はない。


どうやら、お父さんは今日帰ってくるのが遅いのだろう。


(珍しいなぁ)


実花がこぼした醤油を袖で拭いでいたけど見なかったことにしよう。


僕はお母さんとお姉ちゃんが来るのを席について待った。


実花も席について袖の匂いを嗅いで手でこすっていた。


「お姉ちゃん。ちょっと出かけているみたい。部活の話し合いだって」


お母さんはそういうとお姉ちゃんの料理にラップをかけた。


僕はご飯を炊飯ジャーに戻しに向かった。


「実花ダメじゃない。お醤油こぼしたら布巾でふかなくちゃ」


実花の袖に気づいたお母さんは実花を叱っている声が聞こえた。


多分言われると思ったので濡れた布巾を持っていった。


お母さんに渡すと実花の袖を濡れた布巾で叩きながらお醤油は洗濯しないと取れないことを実花に教えていた。


実花は怒られているのに笑顔だ。


多分、洗濯の仕方を教えてもらっているとでも思っているみたいだ。


「実花、次からは気を付けてね」


お母さんは少し疲れたようにいった。


3人しかいないと少し寂しいけど夕食を始める事にした。


「今日ね。数のお勉強したの。すごい大きい数も言えるようになったよ。国語で漢字もたくさん習ったよ」


実花は学校であったことをたくさんしゃべる。


僕とお母さんは相槌をうちながらご飯を食べた。


お母さんは実花をひとつひとつ褒めているけど、僕は実花の言っている事がぐちゃぐちゃで良くわからなかった。


(算数の話かと思ったら国語の話になったり。お母さん良く理解出来るなぁ)


僕が食べ終わっても実花のおしゃべりは終わらない。


そのおしゃべりに付き合っているお母さんも食べるのが遅かった。


「ご馳走様。宿題残っているから部屋に戻るね。何かあったら呼んで」


食器を片付けて部屋に向かう時、お姉ちゃんが帰ってきた。


なんだが疲れているらしい。ただいまといった声はどんよりとしていた。


部屋に入る時、お父さんが書斎から出てきた。


「お父さん?帰ってきてたんだ?ご飯食べちゃったよ」


お父さんは曖昧な返事をして書斎に戻っていった。


(お父さんも疲れているのかな?)


心配だったけど、宿題を終わらせる事を優先することにした。


実花は宿題も楽しそうにやるけど、僕は正直いってつまらない。


それは分からないという訳じゃなく、担任の佐々木先生が宿題をやらないと長々としゃべる説教が嫌だからやっているだけだ。


担任が佐々木先生になる前は楽しかったけど、今はただ義務でただやっているだけだ。


達成感のない最後の問題が解けた時、お姉ちゃんが丁度部屋に戻ってきたらしい。ドアが締まる音が聞こえた。


でも、すぐに僕の部屋に来た。


「和己、今大丈夫?」


「宿題終わったからいいよ。お姉ちゃんこそ大丈夫?何か疲れているみたいだけど」


「あぁ、ちょっとね。一緒に部活に入った友達が凹んでたから慰めにいってたの」


そんなことよりとお姉ちゃんはその話を無理やり終わらせた。


(友達が悩んでいる事をそんなことよりって酷いなぁ)


「和己、聞いた?お父さんとお母さんのこと」


「何を?何も聞いてないよ」


ふとお母さんがお父さんがいるのに料理を作っていなかった事。


お父さんが夕食に参加しなかった事を思い出して不安になった。


「やっぱり。聞いてないか」


お姉ちゃんはそういうとなんだが一人で考え始めた。


仲がいいと思っていたのは僕だけだったのかも知れない。


「どうしたの?お父さんとお母さん喧嘩したの?」


僕の不安をかき消すようにお姉ちゃんは自分の顔の前で手を振る。


「喧嘩?ないないそんな事。あんな見てて恥ずかしくなるくらいにラブラブなのに」


お姉ちゃんが笑うので僕も安心して笑おうとした時だった。


「でも、戦争するみたいだから、あんたはどっちと同盟を結ぶのか聞こうと思って来たの」


お姉ちゃんは僕の顔をじっと見つめる。


戦争って。さっきは仲がいいって褒めていたのにどういうことだろう?


「戦争ってどういうこと?」


そう沢山の疑問があったけどそれしか尋ねられなかった。


「戦争って習ってないの?」


お姉ちゃんは驚いたように尋ね返す。


「・・・国同士で争うことでしょ」


知ってるじゃないってお姉ちゃんは安心したように一息ついた。


ふざけているのかも知れない。


「ちなみにお姉ちゃんはお父さんと同盟組んだから。あんたがお母さんと同盟組んだら敵対するからね」


ふざけているのか聞こうとしたけど、お姉ちゃんの携帯の呼び出し音が聞こえるとお姉ちゃんは部屋に戻っていった。


話し終えたら、続きが聞けると思って待っていた。


本当は宿題が終わったら友達に借りた漫画を読もうと思っていたのに全然読む気が起きず、机の上にある教科書をただ眺めることしかできなかった。


「ごめん。さっきの友達に呼び出されっちゃったから出かけるね。どっちと同盟組むか決めたら、明日朝一で私に教えてね。明日からスタートだから」


お姉ちゃんはそういうと急いで出ていった。


お母さんと実花に出かける事を伝えたのだろう。


お母さんの気を付けてと実花の行ってらっしゃいという声が小さく聞こえた。


なんとなくお母さんの様子を見ようと下に降りると

実花の宿題を見てあげていた。


僕に気づいたお母さんが時計をちらりと見る。




「和己。お母さんお風呂に入るから実花の宿題見てあげて。呼んだら実花にお風呂来るように言ってね」


「分かった」


本当は戦争の事を聞きたかったけど、もしお母さんとお父さんが本当に喧嘩してたことを考えると聞くことができなかった。


実花の宿題はどうやら算数らしい。


可愛らしい猫やりんごを数える問題が書かれたプリントと実花がにらめっこしていた。


お母さんが書いたのだろう、メモ用紙に数え方と足し算引き算のやり方が書かれていた。


実花はお兄ちゃんには助けてもらわなくても大丈夫と問題を一生懸命に解いていた。


お姉ちゃんの言葉が頭の中でぐるぐると回る。


(お母さんとお父さんどっちと同盟組むってどういうことだろう)


もしかして離婚することを戦争って例えたのかも知れない。


そう考えるともう頭の中は離婚についてでいっぱいだ。


仲がいいっていったのも僕を心配させないためだ。


僕だけ知らなかったんだ。


実花の前だから泣きたくても泣けない。


離婚したらどっちにつくのだろう。


お父さんもお母さんも好きだからどっちも選べない。


それに兄弟別れ離れになるのも嫌だ。


何となくだった。


実花にお母さんとお父さんどっちが好きか尋ねてしまった。


「実花はどっちも好きだよ。でも明日からはお母さん」


明日から?なぜ?


「明日からお父さんは駄目なの」


問題を解くのを邪魔しないでというように僕の質問に答えない。


お風呂場の呼び出し音に気づいた実花はお風呂!と言いながら行ってしまった。


ますます頭がぐちゃぐちゃになりそうだった。


僕の知らないところで何かが起きている。


お父さんに聞いてみようか悩んでいるうちにお母さんと実花がお風呂から上がって来た。


お母さんは和己お風呂入っちゃいなさいと僕に勧める。


いつもと変わらないはずなのに「戦争」と聞いてから、いつもどおりの生活が急に壊れてしまうみたいに怖かった。


お母さんに曖昧に返事をて僕はお風呂場に向かった。


暖かい湯船にはお母さんが最近ハマっている名湯10選の入浴剤が入っていた。


どこの名湯だか分からないけど乳白色の湯船はいい匂いで少し落ち着くことが出来た。


(きっと、僕だけじゃなく実花も騙されているか、お姉ちゃんに加担しているだけだ)


お姉ちゃんが帰ってきたら文句を言ってやろう。


温泉の効能なのか不安な気持ちが落ち着き少しだけリラックスすることができたみたいだった。


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