7話・デザートへの思い
洸達が去って、しばらく経った数分後······。
やっと、紗季の心が復活する。
冷静になり、ふとっテーブルの上にある物を見る。
「······何これ?何故、私の目の前に
マジックアイテムが3個も!?」
目の前に置かれたマジックアイテムを眺め、
ヤってしまった感を全開に感じている。
これ1つの値段で、プリンアラモードの価値を
どれだけ越えるんだろ?それが3個もあるんですよ。
じゃあ、返す?いや、対価は払った、ならばこれは私の物だ。
だが、少ない私の道徳心が抵抗の声を上げている。
これは等価値としては駄目じゃね?···っと。
自分の心と押し問答をしていると遠くから
聞き覚えのある声が聞こえてきた。
私は慌てて、カプセルをポケットにしまい
指輪と髪止めは装備する。
すると頭の中に『装備者登録完了。以降、装備者の許可無く
装備者の変更を不可能に設定』と響いてくる。
何、今の声?そう考えていると···
「何だ?ボケ~とした奴がいると思ったら、朝叩きのめした
Fクラスの生徒じゃねえか!」
食堂中に響く大きな声の正体は
特訓場で絡んできたEクラスの男子生徒だ。
「なあなあ、アイツどうしている?あの意気がった癖に、
あっさりと情けなく叩き伸されちゃったあの男は?
本当、あれは恥ずかしかったよな。アハハハハッ!!」
こいつ、男の癖に口数の多い奴だなあ。はあ···自信過剰な性格が
とことん過剰したんだろうな···。
「で、用はそれだけなの?だったらもういいかな?今···食事中なんで」
「はあん、食事中······ああっ!それは限定のプリンアラモードSPじゃあねえか!
Fクラス風情がそんないい物を食べやがって!
俺が代わりに食べてやるから、それを寄越しやがれっ!」
『プチンッ!』
何かが切れる音を感じたと同時に、静かにポケットから
カプセルを取り出して口に入れ飲み込む。
そして、指輪を嵌めた拳に魔力全開の
炎のオーラを纏わせて、獅子の咆哮が如く叫ぶ。
「誰がぁ···寄越すかぁあああっ!アホかぁぁああああっ!!!」
拳は凄まじい轟音を鳴らして思いっきり、Eクラスの男子生徒を殴り飛ばす!
私の拳が相手の頬にめり込み、顔が歪んだのを見た瞬間、
相手が壁に叩きつけられ、意識を飛ばし気絶する。
「たっく···何故あんた如きに、やっと手に入れた限定プリンアラモードを
ただであげなきゃいけないのよ!1年前から出直せってんだっ!!」
壁の方で完全に伸びているEクラス男子生徒を能面の表情で見つつ、
自分の手をパンパンと払い叩き、ゆっくりと右手を前に出し、
立てた親指をくいっと下に向ける。
壁に叩きつけた轟音のせいで、Fクラスが使う食事スペースに
人集りが出来ている。
しばらくすると、その騒ぎを聞き付けた生徒会が
食堂に駆けつけて来た。
「···これは一体、どういう事だね?」
私の制服に付いているクラスを表す刺繍の紋章を見た途端、
少し見下し感のある声で質問してくる。
「この生徒が私からプリンアラモードを奪おうとしたので
それを阻止しただけですけど?」
「それだけの事で···この惨事なのか!」
壁にめり込んで気絶しているEクラスの男子生徒を見て、
生徒会が呆れた表情で呟く。
それに対し私は、イラっとした態度で言い返す。
「それだけの事?あなた···今、それだけの事って言いました?」
「だってそうだろう!たかが、デザートを取られそうだったからって
ここまで叩きのめすなんて、誰が見てもやり過ぎだろうが!」
「ほう···なら、後ろにいる女子生徒に聞いてみてはいかがですか?
これはやり過ぎかって?」
「いいだろう。なあ、君達···これは流石にやり過ぎだと思うよな?
たかが、デザート如きで!」
その悪びれもない生徒会の言葉に紗季同様、
イラっとした女子生徒達が生徒会に対して、
次々と否定の言葉を口にする。
「はあ、たかがデザート如きですって···」
「何···とち狂った事を言ってるのこいつ···」
「だから、生徒会は会長以外バカって言われるのよ!」
「女の子の至福の時を邪魔したんだ。万死に値するだろ!」
生徒会は肯定の言葉が返ってくると思っていたのか、
女子生徒達の散々な否定の声を聞いてたじろいている。
「何かさ、さっきから聞いてれば、私が責められているけど
それは何故なのかな?」
「それは···君が···この生徒に暴力を···」
「だから!こいつが私の大事な物を強奪しようとしたからでしょう!」
「デザートを取られるくらいで強奪は言い過ぎじゃ···」
「あなた、それ本気で言っているの?強奪に小さいも大きいもないっ!
あなたの価値観で決めないでくれませんかっ!」
私の魂の叫びに合わせ、女子生徒達も口々に
生徒会の心ない言葉に次々と文句を叫ぶ。
「橘君、状況はどんな感じだい?」
突然、女子生徒の声を割るかのように、誰かの声が聞こえてきた。
その声に反応したのか野次馬の真ん中がさっと開き、
そこからゆっくりと人物が現れ、こちらに近づいてきた。
「何やら騒がしいね···一体、何があったんだい?」
「せ、生徒会長!」
橘と呼ばれた生徒会が切望の眼差しで
その人物の名を口にする。