5話・ミーハー
キ~ンコ~ンカ~ンコ~ン♪
授業の終わりを告げるベルの音が教室に鳴り響く。
「は~い、この魔術の数式はちゃんと覚えておくように!
次の実技試験で実際に行ってもらいますから···では、以上!」
先生が去った後、生徒···主に女子生徒達が
転校生の周りを囲み、思い思いに質問タイムに入っている。
「ねね、刀夜君はどこから転校してきたの?」
「得意な魔法は何?」
「趣味は?」
「寮から通ってるの?それとも実家?」
「今、付き合っている人はいるの?」
「きゃ、それ聞いちゃうのぉ~♪」
物凄い早さで次々と、質問攻めをしていく。
あまりの勢いに転校生は対応できてないみたいだ。
「くそ、リア充爆ぜろ!」
それを羨ましくも、冷ややかな目で見ていた男子生徒達が
口々に怨嗟の声を吐き出している。
その男子生徒の1人が私に話かけてきた。
「ふん、少しイケメンだからって透かしやがって!」
「お、藍川君。やっと、復帰したんだ?」
「当たり前だ。何時までも気が抜けていられるか!
···って、ぐわあっ!?」
「ど、どうしたの藍川君?そんな幽霊でも見た声を出して!」
「ああああああ、れれれれ······」
藍川が震える声で指を差した先には、
女子生徒軍団の中に混じって、満面の笑みで楽しそうに
刀夜と何かを話している成美の姿があった。
「そんなっ!緑原が···緑原が···俺以外の男と···話しているだと······!?」
「いや、普通に話すでしょう!」
私の突っ込みも藍川君の耳には届かず、どんどん藍川君の顔が青くなり、
表情に精気が無くなると白くなり、そして机にスローモーションで倒れる。
「はうっ!さっきより酷い状態にっ!?」
私はやれやれと、藍川君の聞きたいだろう事を
聞いてあげる為に、席に戻った成美ちゃんに近寄る。
「どうしたの?紗季ちゃん、何か用?」
「うん、あのさ···転校生とはどんな話をしたの?」
「おやおや、紗季ちゃんも気になるの刀夜君の事?」
成美ちゃんがニヤニヤとした表情で私の顔を見てくる。
いや、私が気になるんじゃなく藍川君がね。
このままじゃ藍川君の魂がいつ昇天するか、
わかったもんじゃないし。
その辺の所を私が聞いて、藍川君の誤解を解いてあげなきゃ。
「う、うん、実はそうなんだ···はは。それで、成美ちゃんは?
成美ちゃんはあの転校生の事···気になってるの?
今さっき、「も」って言ってたからさ?」
「そうだね···うへへ~うん、気になっちゃうかも♪」
あ、艶っぽい笑顔。藍川君、これは諦めろのパターンか···。
「へ、へえ~どんな所が気になるの?」
心は藍川君の事で煩悶しているが、顔を上手く笑顔に調整し
質問を続ける。
「だって、この時期にこの学園への転校だよ?凄く気になっちゃうよね~。
多分、転校の理由って、刀夜君のヒザに怪我ってやつだよ!」
「成美ちゃん···それを言うなら、スネに傷だよ···」
よかったね、藍川君。成美ちゃん···ただのミーハーだったよ。
そして、上手く藍川君の誤解も解け、数時間が経った昼休み時間···。
私はテーブルに項垂れて、さっきの成美ちゃんの言葉を
ふと思い出している。
確かに、この時期に転校なんて···何かありそうだとは
思っちゃうよね~女子的には···。
ま、私はそんな女子心より、食事の方が大事なので
転校生の事から食事に、頭を切り変えさせて貰うわ♪
何故ならば······
「今日はこの学園で一番人気のデザートメニュー!
プリンアラモードSPをやっと···やっと、食べる事が
出来る日なのだからっ!」
【プリンアラモードSP】
特製と呼ばれる最高級の材料をふんだんに使っており、
まさにSPの名に偽り無しと思わせる逸品だ。
赤字覚悟の逸品なので、月にたった1日しか作られず、
更に数も限定5個と決まっている。
その為、予約の競り合いが激しく、無事にそれを突破した者だけが
初めて食べられる品なのである。
「そして、そのプリンアラモードSPが今、私の目の前にっ!
···ではでは、いっただきま~す!」
「嗚呼!それってあの限定のプリンアラモードSPだよね?
ねね、ひとくち頂戴♪」
突然と私の横に沸いて出た人物が、キラキラした瞳で
私と、プリンアラモードを交互に見ている。
「寝言は寝て言うものですよ」
私は優しくニコッとした表情で、少し威圧感を含む声を出し
その人物に問いただす。
それが通じたのか、相手の表情がシュンっとなり、
目に涙が溜まりウルウルとなっていく。
う、何だこの子···可愛い。
私の前に現れた人物は子どもと言ってもいい
可愛い顔立ち、身長をしており、その姿で
頂戴をしてくるものだから、流石の私もたじろぐってもんだ。
しかし、待ちに待って手に入れた限定もの、
それを可愛いと言うだけの身も知らない人物に
分けやるほど私の心は博愛じゃない。
自分の心と葛藤していると
少し奥の方から新たな声が聞こえる。
「堊亜、また人様にご迷惑をかけているな!」
少し呆れ顔をしたその声の人物が、私達に近づいてくる。