35話・デートその3 Wデート開始
私は由唏ちゃんとの会話を済ませ、早急に神代君達の所に戻る。
「どうでした?来てくれるって言ってくれました?」
「はい、無事に承諾を得られました!準備次第、ここに来るそうです!」
「本当ですか!それは良かった!」
洸は承諾を得られたと聞いて安堵感に浸る。それから数十分、
準備を速攻で終えた由唏が、紗季達との待ち合わせ場所にやって来た······。
「お待たせしました~!お姉様~っ!」
「ちょ、ウプッ!?」
私を見つけた由唏ちゃんが全開で飛び付き、ギュッと激しいハグをしてくる。
「星乃さん、その娘がさっき話していた、デートのお相手ですか?」
「はい!食堂で会ったから顔は知っていますよね?ほら、由唏ちゃん!いつまでも
私にくっついていないで、二人に挨拶、挨拶!」
私から中々離れない由唏ちゃんに、鳥飼君達への挨拶を促す。
「え~と、私の名前は栖堂由唏って言います!お姉様の頼みで呼ばれました、
今日1日よろしくです!」
「僕は鳥飼洸、こっちは神代堊亜。しがない相手で申し訳ないけど、
こちらこそよろしくね、栖堂さん!」
「はい、よろしくです!」
お互いに自己紹介と挨拶を交わす。
「洸のお相手は由唏ちゃんだったんだ?ボクはてっきり、
成美ちゃんだと思ってたのに?」
「本当ならそうだったんですけど、成美ちゃんの急な用事で断られちゃって···。
それで代理に由唏ちゃんにお願いしてみたら、快く引き受けてくれたんです」
「当然です!お姉様の頼みを断るなんて、そんな勿体ない事···私はしませんよ!」
由唏は紗季に抱き付きながら、ドヤ顔で堊亜達に嬉しそうに語る。
「それより由唏ちゃん、いつまで紗季ちゃんに抱き付いてるの?
いい加減、離れてよ!」
未だに紗季から抱き付いて離れない由唏に対し、堊亜は頬を膨らませながら、
激おこな顔をしている。
「神代君の言う通りいい加減、離れてなさい。由唏ちゃんは鳥飼君でしょう!」
由唏ちゃんを強引に引き剥がすと、渋々とした表情で私から離れた。
「それより、お姉様···!」
「ど、どうしたの?突然と真面目な顔になって?」
「そのスカート···すこ~し、短過ぎやしませんかね~?」
由唏は紗季の短いスカートをジト目で、穴が空くほど凝視している。
「ねぇ~!鳥飼様もそう思いませんか~?」
「ええ!な、何でそこで僕に振るのっ!?」
由唏にいきなり意見を求められ、洸は思わず紗季のスカートに目が行ってしまう。
それにふと気付くと、洸の顔がみるみると真っ赤になっていく。
「もう、お姉様ったら!いくらデートだからって、気合い入り過ぎですよ~っ!」
まだジト目をやめずにスカートを凝視してくる由唏を見て、適当という直感に
頼ったから、デートに合わないスカートを選んでしまったのではないかと、
紗季の頭の中が困苦する。
「や、やっぱり···こんな短いスカート···私には全然、似合わないかな?」
「いいえ、そんな事はありません!むしろ、似合い過ぎだから問題なんです!
ねぇ~鳥飼様!紗季お姉様のこのスカート、もの凄く!似合ってますよね~!」
「ちょ!だ、だから!何でそこで僕に振ってくるのー!」
再び、由唏にスカートの感想を求められた洸の顔が、
さっきより真っ赤に染まっていく。
「鳥飼様はこんななのに、肝心のデート相手の神代ちゃんは···?」
「~♪」
「何か、パンフみたいなのに熱心だ···はは」
由唏は、スカートの話題にまったく乗ってこない神代の子どもっぽいさに、
思わず乾いたニガ笑いが口から洩れる。
「あはは···まあ、立ち話はここまでにして···コホン、さて···それではみなさん!
これからWデート、開始しますっ!」
私はその場の雰囲気を変える為、少し大きめな声でデート開始宣言を発する。
「おお!デート開始だ~!」
「はい!お姉様っ!」
「はは···おう!」
紗季の声に堊亜と由唏も、同じ様な声の大きさで返し、
洸も恥ずかしそうな表情ではあるが同じく、3人の掛け声に賛同する。
「エヘヘ、じゃ~紗季ちゃん···はいっ!」
そう言うと堊亜は紗季に右手を差し出す。
「どうしたんです?握手ですか?」
私はその意味がよくわからず、自分の右手を取り敢えず、
神代君の前に差し出す。
「違うよ!手を繋ごうって言ってるの!」
「はっ!手を繋ぐっ!?こう···ですか?」
私は照れながら、改めて左手をゆっくり差し出す。
すると、神代君の右手が私の左手を掴み···いや!右手が左手を絡めてきたっ!?
はうっ!?こ、この繋ぎ方は、世間で語られる手繋ぎ···
『恋人繋ぎ』というやつじゃないですかっ!?
「えへへ···こんな事、始めてやったよ♪紗季ちゃん、もし嫌だったら
遠慮しないで言ってね!その時は普通の繋ぎに戻すから!」
繋いだ手が強く握られ、堊亜は紗季の顔をお日様の様で
笑顔で見ている。
「恥ずかしいけど、嫌じゃありませんよ!ただ、びっくりしたけどね···」
「えへへ、ボクもちょっと恥ずかしいかも···でも嬉しい気持ちが勝っちゃうな♪」
照れながら、頬を紅に染めて微笑んでいる紗季に堊亜も、舌を小さく
チロっと出して、照れ笑いで返す。
「ぐぬぬ···お姉様のあの表情、まさに青春女子の顔をしています!」
「僕も、堊亜があんなに積極的にしてるのは、始めて見るかもしれないな···」
由唏は怨嗟の視線、洸は吃驚した表情で、紗季と堊亜を
後ろから見つめている。
「ねね、紗季ちゃん!あそこの店に面白い物が飾ってあるよ!
ほらほら!行ってみようよ!」
「あ、神代君!そんな風に走ったら、転んじゃいますよ!」
「だいじょ―あべっ!?」
言った傍から足を躓き、思いっきり顔から転ぶ。それに慌てた紗季が、
堊亜の所に急いで駆け寄って行く。
「もう、だから言ったんですよ!」
「えへへ···ゴメン、つい興奮しちゃって···イタッ!」
「ほら、こんなに擦りむいちゃって···」
『この者に祝福の光を···ヒールッ!』
私は神代君に手を当てて、呪文を唱えた。ヒールの淡い光が神代君を包み、
転けて擦りむいた箇所が治っていく。
「うわ~紗季ちゃんヒールが使えるんだ?」
「はい、強化後に何となく唱えてみたら、使えちゃいました!」
私達の少し後ろから付いて来ていた鳥飼君達も神代君が転けた事に驚き、
駆け寄って来る。
「おい、大丈夫か···って、その呪文はヒール?凄いね星乃さん···ヒール系って、
割と覚えにくい魔法なのに!」
「私のお姉様ですよ、ヒールなんて使えて当然です!
洸は紗季がヒールを使える事に感嘆し、由唏は自分の事の様に
ドヤ顔で鼻を高くし、ふんぞり返っている。
「はい、これでよしっと!」
「凄い!転んでケガをした擦り傷が、どんどん治っていくよ!」
擦り傷が治ってふさがっていくのを見て、堊亜がお日様のような
笑顔で喜んでいる。
「無事、ケガも治った事ですし···さて、行きますか!」
「え、どこに?」
「神代君、あの店に行きたかったんでしょう?」
私は神代君が行こうとしていた、お店の方に視線を送る。
「さあ、神代君···手を出して♪」
「あ、うんっ!」
紗季は堊亜に微笑みながら、そっと手を差し出す。
差し出された紗季の手を、堊亜が満面の笑みで返し掴んで握った。