2話・ツンデレな男の子、鈍感な女の子
ピ~ン~ポ~ン♪
部屋に呼び鈴の音が響く。その音に私はビクッと反応する。
「ん···誰だろう、こんな朝早く?」
私は準備を中断して玄関に向かい、ドアの覗き穴から外を見る。
「藍川君?」
相手を確認しドアをガチャッと開ける。藍川もそれに気付き、
笑みな顔で「よう、おはよう星乃!」と挨拶する。
この男の子は藍川省吾
私のクラスの同級生だ。
「どうしたの、こんな朝から?」
「おいおい、忘れてたのかよ。来週行われる行事をっ!」
「来週って『クラス魔法対抗戦』の事?」
「覚えてるなら、何故こんな所でのんびりしてやがる!
クラス代表で集まって、朝に訓練をするって言っただろう!」
藍川君の顔が激おこになり、両腕をブンブンと振り
私に抗議する。
「ほら、行くぞ!」
そう言うとやや強引に私の腕を掴む。
「ち、ちょっと待ってよ。まだカバンも部屋に置いてるし、
髪も整えてないし、それに戸締まりのチェックもしてない」
「そんなの後々、今は朝の訓練の方が大事だ!」
その強引な態度に、私はひと息の溜め息を洩らす。
「はあ~そんな強引な態度をいつまでも続けていたら
成美ちゃんに嫌われるよ···」
「な、何でそこで緑原の名前が出てくるんだよ、
べ、別にあんな奴···嫌われようが俺は···構わねぇし!!」
私の腕から手を離し、誰にもわかるような
露骨なジェスチャーで慌てふためき、必死に弁解している。
「ふん···緑原の事はどうでもいいが、き、嫌われたくはないからな。
じゅ、準備してこいよ···待ってるから」
焦った態度も少し落ち着き、コホンっと咳をし、
手をちょんちょんと上下に振る。
「おはよう~紗季ちゃん」
寮を出てすぐの所に少女が立っている。
その少女が私達に気付き、右手を上げこっちに手を振る。
「おはよう、成美ちゃん」
この子はさっきの会話に出てきた藍川君の思い人の女の子で
名前は緑原成美
私がこの学園に入ってすぐできた親友だ。
「星乃も緑原もそこで、もたもたしない!
午前の授業が始まる前に特訓したいんだから急ぐぞ!」
成美ちゃんの顔を照れてチラチラと見ては、誤魔化す為か
視線の多くを私に向けている。
「ねね、藍川君っていつも紗季ちゃんに親しいよね。
今も藍川君の視線、私は避けられてるのに紗季ちゃんの事は
ジィ~ッと見てるし、もしかして···藍川君って、
紗季ちゃんの事を好きなのかな?」
成美は紗季の耳にそっと口を近づけ、真面目な顔で
ひそひそと話かけてくる。
お~い、藍川君。君の最愛の娘が壮絶な勘違いをしてるぞ。
あ、成美さん、そのヒュ~ヒュ~ってのやめて。
藍川君、いくら成美ちゃんを見れないからって、私を見すぎ。
そのせいで成美ちゃん完全に貴方の事、蚊帳の外だよ。
あ、成美さん肘で腹の脇をトントンするのやめて。
本当の事を言うのは簡単だけど、それじゃ藍川君の為にならないし···
ここは話の流れに乗っておくとするか。
だって、その方が面白――こほん、藍川君の為だ。
「もう成美ちゃん、変な事を言わないの···!
ほら、藍川君も待ってるし、行くよ!」
私は溜め息に似た言葉を吐き、成美ちゃんの手を取って
藍川君の方に走り出す。
「あ、照れてる、照れてる♪」
成美ちゃんの壮絶な勘違いを余所に、私達3人は
学園に足を揃え向かうのあった。