19話・女子生徒の談笑
ふう、昨日は酷い目にあったな···。
成美ちゃんの勘違いも何とか無事に解けたし···今日こそ平穏な生活をおくるぞ!
私は小さな微笑みを浮かべ拳をグッと握る。
ピ~ン~ポ~ン~♪
「お、来たみたい。さて···行きますか···」
場所は、早朝の特訓場···。
朝の特訓も終わり、休憩室にあるシャワー室でシャワーを浴びた後、
濡れた髪をいつもの魔法で乾かし、私は成美ちゃんの待つ休憩室に戻る。
「今日も特訓疲れたね、紗季ちゃん···」
「うん、成美ちゃんも特訓お疲れ様···」
疲れた体をお互いの言葉で労りながら、2人で談笑する。
「昨日はゴメンね!私の心に眠る羨望と嫉妬の本能が
つい、雄叫びをあげちゃって···へへ」
「はは···本当、無事に勘違いが解けて良かったよ···」
いや~マジで、成美ちゃんの勘違いを解く方が朝の特訓より何十倍も
キツかったからなぁ···。でも、ごめんね成美ちゃん···。
正確に言うとその勘違い···半分だけなんだ。結局あの後、
今里君にアーンしちゃったし···それに間接キッスも···。
まあ、流石にこんなイベント、この年齢でドキマキは
全然しなかったけどね···本当だよ。
「それより、今里君···だっけ?どんな人物なの?」
「さあ?」
「さあって、もしかして何も会話らしい事していないの!?」
「いや···したよ。会話は」
「へえ、紗季ちゃんもやるね。で、どんな会話をしたの?」
「どんな会話って···甘味の事で盛り上がったとか···かな?」
いや~今里君、中々の良い甘味情報を持ってたよなぁ···。
まさか、あんな場所にあの甘味様が隠れているなんて、
本当ビックリな発見だったよ!
「へ?甘味···それだけ?他は、他はどんな事を話したの!」
「他にねぇ···他は何か話したっけ?」
私が思い出せず首を傾け考えていると成美ちゃんが目を丸くして
こちらをジト目で見てくる。
「ええ!?甘味の事しか話していないの!」
「うんまあ、でも···他に聞く事なんて特になかったし···」
「聞く事が無い訳ないでしょうが!あんなイケメンさんに!」
成美はタンっとテーブルを叩き、紗季の顔の前に人差し指をピッと付き出す。
紗季は頬を少し膨らませ成美に聞き返す。
「じ、じゃあ···どんな会話をすれば良かったの?」
「色々あるじゃない!例えば···何の魔法を使えるかとか、実家はどことか、
家族は何人とか、どんなタイプが好みかとか、恋人はいるかとか、いないなら
好きな人はいるのかとか、ほら···聞く事がいっぱいじゃない!」
「ほら···じゃないよ!初めて話す人にそんなプライベートな事、聞ける訳ないでしょう!」
「ち、つまらん」
成美は聞こえない様に小さな舌打ちをし、紗季をジト目で見る。
「ちょ、成美ちゃん!昨日、あんなに私に怨嗟の念を向けてきた同じ人物とは
思えない態度だよそれ!」
「あれはあれ、今は今よ!」
「はは···これは酷い···」
成美ちゃんの理不尽な言葉に、私は静かに嘆息を洩らす。
学園廊下···。
「お待たせ藍川君。じゃ、教室に行こうか♪」
「お前達···いつも遅いが、休憩室で一体何をしているんだ···?」
「何って、普通に世間話のお喋りをかな?」
「人を待たせておいて、普通に世間話って···
何十分も待たされている俺の身になってくれよ···」
藍川は待たされ過ぎて、表情から疲れが見えるのがわかるくらい
肩を落としてこちらを見る。
「え、何を言ってるの藍川君?女子のお喋りとして、この程度の時間くらいじゃ、
時間経過カウントは取られないんだぞ?」
「カウントは取られないって···このチームには『男子』もいるって事を···
忘れていませんかね···?」
「そっか、そうだよね···ごめん藍川君、全然気が付かないで···
今度から気を付けるから···本当にごめんね藍川君!」
私は藍川君の台詞に悪気もない言葉で返す。
藍川はその紗季の言葉に吐露を呟く。
その会話を聞いた成美が落胆し、申し訳ない顔で謝る。
「い、いや···そんな顔するな!俺も言い過ぎた!
それに女子のお喋りタイムくらい、気長に待てないようじゃ男が廃るよな、
うんうん!だ、だから···気にするな、緑原!」
はは···藍川君、速攻で自分の意見を覆したな···流石、惚れた弱みは
何とやらか···だね。
「さ、さあ···みんな揃った事だし、教室に急ごうぜ!」
話を切り上げたい藍川は慌てて教室を指を差し、
わき目も振らず走っていく···。
「こら、廊下は走っちゃ駄目だよ~!もう、しょうがないな。
紗季ちゃん、私達も行こうか!」
成美は藍川に注意の言葉を投げ掛け、紗季に微笑んでくる。