18話・勘違いだって!
「はは···あはは···ご、ゴメン紗季ちゃん。何かお邪魔しちゃったね···。
私は退散するので、どうぞ恋人の如く、ごゆっくりとイチャついてて下さい♪」
「はう、恋人!?」
成美ちゃんの表情は物凄く笑顔なのだが、瞳の奥は怨嗟の念を滲ませている。
「じゃ、モテない私はここでグッバイです!」
「ちょっと、待って!勘違い、勘違いだって!」
ヤバい!成美さんって、恋バナは拡散してナンボの人だ!絶対、この現状を
面白おかしく拡散される~!そう思った私は慌てて、立ち去ろうとする
成美ちゃんの腕をガッシリと掴んだ。
「ちゃんと聞いて、勘違いってわかるから!」
「はあ···ねえ、紗季ちゃん。今の決定的現場のどこをどう見たら
勘違いって事になるの?」
ジト目で紗季を睨み、成美の口から嘆息が洩れる。
「そんな顔しない!ちゃんと説明するから!
きっと、成美ちゃんの勘違いも解けるから!ね、ねねっ!」
「説明ね···しょうがない。一応、その説明とやらを聞いてあげるよ」
未だにジト目を止めてくれない成美に、紗季は必死に説明を続ける。
そして······。
「···と言う訳、どう?わかってくれた?」
「う~む···割愛していうとこんな感じ?お互いがお互いに自分達のパフェを
食べさせ合いをします!···そういう事だよね?」
「ま、まあ···随分割愛された気もするけど···概ね、合ってるよ」
私は苦笑いで、成美ちゃんの言葉に肯定する。すると、静かな空間に
嘆息を吐く音が響きわたる。
「はあ···ねえ、紗季ちゃん···世間でそのような行為を何て言うのか···知ってる?」
「さ、さあ···?な、何だろう?」
「そっかそっか、知らないのか♪じゃあ···教えてあげる!」
そう言った後、静かに目を閉じ、顔を上に向け天を仰ぐ。数秒が経つと、
成美はゆっくりと顔を紗季の方に向けた。そして口を開くと、
苦悶のこもった言葉を発する!
『このリア充どもがぁっ!全員纏めて爆ぜろやぁ~~っ!』
「···って言うのよ、覚えておいてね~♪」
「はう!?全然、勘違いが解けてなかった~っ!」
勘違いへの言い訳を必死に吐き続けたにも関わらず、成美ちゃんの表情は
今現在も口角は上がって微笑んではいるが、瞳の奥は全然笑ってない。
はあ、これは困窮だな···このままじゃ、面白おかしく所か嗟嘆のこもった
情報を拡散されるのは間違いないぞ···。
さて、どうやったら勘違いとわかってくれるのかと
思考をぐるぐると回していると···
「お~い星乃さん、早く食べないとパフェが溶けちゃうよ~!
後、早くオレにも星乃さんのパフェ食べさせてよ~♪」
ぐあぁっ!成美ちゃんの怨嗟が、更に燃え上がるような発言の種火が、
今里君から飛んで来た!
「ちょっと今里君!その台詞は今は言っちゃ駄目なやつ~!」
今里君の発言に心の叫声がつい口からだだ洩れてしまう。
その瞬間、私は横から滲み出る負のオーラを実質に感じとり、
恐る恐る視線をその横に動かす···。
そこには怨嗟の念を通り越した能面のような表情で目を細めて笑っている?
いや、憤怒している?どちらともわからない表情で成美ちゃんが私を見ている。
そして静かに口を開き、今の思いの全てを吐露する。
「あは···あはは···イチャイチャを2人で楽しみながらさ···いつまでも
食べさせ合いをしてさ···お互いに間接キスを···堪能すればいいじゃない!」
イチャイチャって、今里君とは会ったばかりですよ!
いつまでもって、ひとくちしか食べさせ合わないよ!
それに間接キスって、そう言えばそうなるじゃん!私が心の中で
困惑と恥嘆している間、先ほどと変わらない表情?···いや、憤怒が強くなった?
成美ちゃんが続けて言葉を洩らす。
「ふふふ···どうせ私は恋愛の愚民ですよ!恋の敗残者ですよ!
ち、畜生···紗季ちゃんなんて、紗季ちゃんなんて···」
成美ちゃんの拳がふるふると震え、涙目が見開く。
「紗季ちゃんなんてっ!充実世界の荒波に飲まれて沈んじゃえぇぇ~~~っ!!」
成美は心の底から嫉妬とも羨望とも取れる声で咆哮し、脱兎の如く速さで、
その場から去っていく。
遠くなっていく哀愁漂う成美の背中を、紗季は茫然自失で見ている。
「やれやれ···まあ、後で頑張って勘違いを解くとしますか。
さて···それよりパフェ、パフェ!」
成美ちゃんの『恋バナ口軽発動』が気になる所だが···
今は甘味への情熱の方が勝つ!
私は頭を切り替えて、溶けかかっているパフェを早く食べるべく、
今里君のいる場所に速攻で戻る。