14話・鮎美
「何故、こうなった···」
今、私はEクラスの鮎美と呼ばれていた女子生徒と対峙している。
「さあ、素直に白状しなさい!貴方如きが···Fクラスが、斉藤君に
勝てる訳ないじゃない!一体、どんな卑怯な手を使ったのよ!」
「はあ、本当に面倒な事になった···」
時は数十分前······。
「さあ、準備は良いか2人とも!」
「うん···こっちはいつでもいいよ、藍川君」
「こっちもオーケーだよ、バッチこい!」
私達はいつも通りの準備運動を終え、特訓体勢に入る。
「じゃあ、行くぜ!風よ!巻きお――」
「ここに星乃紗季って生徒は居るかしら!」
藍川の叫びに割って入る声が特訓場に響く。
その声のする方向を見ると、1人の人物が立っていた。
「あいつは昨日、俺達の特訓の邪魔をしたEクラスの
女子生徒じゃないか?」
藍川の言う通り、そこに立っているのはEクラスの鮎美と
呼ばれていた女子生徒だった。
「何だ!また俺達の特訓の邪魔をしに来たのか?」
「そんな事しませんよ。だって、無駄ですもの」
「む、無駄だと、この~!」
藍川は頭から湯気が出そうなくらい、顔を真っ赤にして怒っている。
それを特に気にするでもなく、鮎美は話を続ける。
「そんな事より星乃紗季を私の前に出しなさい!ここに居るのは
わかっているんですよ!」
鮎美は捲し立てる様に自分勝手な台詞を言い、紗季を探しているのか
キョロキョロと周りを見ている。
そしてその目が、紗季と成美にロックオンし、交互に見始める。
「貴方達のどちらが星乃紗季かしら?」
「「紗季ちゃんはこっちですっ!」」
同時に指を差し、シンクロした声が特訓場に響く。
「ちょっ、紗季ちゃん!何言ってるの?」
何言ってるのって、面倒事の回避に決まっているじゃん。
慌てる成美を尻目に、紗季は自分拒否の言葉を続ける。
「ほら、紗季ちゃん。あの子も呼んでるし、
行った方がいいじゃない?」
私は成美ちゃんの背中を両手で押して鮎美に近づける。
「もう、紗季ちゃんの悪い癖が出てるよ!
いい加減にしなさい!」
紗季は成美から、結構に痛い拳骨を頭に受ける。
「うう···ゴメン。反省」
頭に出来たタンコブを撫でながら涙目で反省する。
「それで、貴方が星乃紗季で良いのかしら?」
「煩いわね。ハイハイ、私が星乃紗季ですけど···それが何か!」
頭にできたタンコブを撫でながら、私は不貞腐れる声で答える。
鮎美は私が本人だとわかると顔が蔑視する様な表情に変わり、
息をスゥ-と一回吸うとこう述べる。
「さあ、素直に白状しなさい!貴方如きが···Fクラスが斉藤君に
勝てる訳ないじゃない!一体、どんな卑怯な手を使ったのよ!」
鮎美は自分が正しいと言わんばかりに、咆哮の如く
言葉を吐き出す。
「はあ、本当に面倒な事になった···」
最早、私の口からは煩悶の言葉と嘆息しか出ない。
「···と言う訳で貴方、私と勝負しなさい!」
「嫌です」
即答でお断りを申し上げた。まさか、断れるとは思わなかったのか
鮎美は慌てつつも言葉を続ける。
「い、挑まれた勝負事からお逃げになるのですか?」
「はい」
「うう、え、Fクラスはやっぱり軟弱者と言われますよ!」
「いつもの事だし」
尽く、ノーと答える紗季の言葉に、どんどん台詞が詰まっていく。
「ううう、じゃあ、私と勝負するのなら、これを進呈します。
それでどうですか!」
「なっ!?」
鮎美は、何かのチケットらしき物を胸ポケットから取り出した。
そのチケットが私の視線に入った瞬間、大きく目を見開き喫驚する。
「それは、幻のデザートSDBパフェの予約食券!」
「これでど――」
「さあさあ、勝負やりましょうか!」
私は飛ぶように足を早くして鮎美に近づき、その手にある食券をぶん取る。
ぶん取った食券を両手に持ち、それを天に掲げ狂喜乱舞する。
「コホン、試合方式はクラスハンデ戦のルールで良いかしら?」
「ええ、それで良いわよ!」
『クラスハンデ戦』
クラス代表の一対一の戦いで使われる。
勝利条件は相手がノックアウト。ドクターストップ。
そして、ダウン後カウント10で起き上がれないと勝利する。
Eクラス対Fクラスのハンデは
30分経過後Fクラスが戦闘健存ならFクラスの勝ち。
「これで契約成立ですわね。さあ、勝負を始めましょうか」
「ええ、こっちは何時でもいいわよ」
ふふ、食券は無事に手に入れたし、後はさっさと負ければ
この面倒事ともおさらばだ。
「ああ。いたいた!お~い、紗季ちゃん♪」
客席の方から聞き覚えのある声が突然と聞こえてくる。
紗季はその声の方を見ると、愛くるしく可愛いお姿の人物、
堊亜が大きく手を振っている。
「な、何故!ここに神代君が!」
神代君の登場に私が驚きの顔で困窮していると
私より驚いた表情の鮎美が言葉を洩らす。
「どういう事ですの!?神代ちゃんが貴方に話しかけて
いらっしゃいますが、まさか···まさかと思いますが、
お知り合いだなんて···言いませんよね?」
「え、え~と、そのですね···私達は···」
私が言葉が詰まっていると神代君が鮎美にこう返す。
「ボクと紗季ちゃんは大親友だよ~♪」
ツァ!親友よりランクがアップしてるだとっ!
や、やめて下さいよ~。ほら~あなたの後を付いてきた
ファンの子達もあまりの驚きで表情が固まっていらっしゃる。
「あ、あ、貴方が、神代ちゃんと大親友ですって~っ!
Fクラスの貴方如きがっ!!」
鮎美は怒と羨の2つが葛藤した表情で、拳をプルプルとさせている。
「か、神代ちゃんが、貴方のどこを気に入ったは知りませんが、
私がここで貴方を完封亡きに叩き伸めせば、目も覚めるでしょう!
そして、目が覚めた後は私と···おほほっ!」
鮎美は自分の手を口に持っていき、女王様笑いでほくそ笑む。