11話・デートでデート
「もう、洸ったら。出来るって言ってるのに!」
いや、全然出来てなかったよ!
この場にいる全生徒が心の中で叫ぶ。
「ま、いいか。それより紗季ちゃん、週末に用事ある?」
「週末?いいえ、特に用事と呼べるものは無かったと思うけど···」
「本当、じゃあさ!日曜日にボクとお出掛けしない?」
「お出掛け?神代君とですか?」
「うん!駄目···かな?」
「別にいいですよ、さっきも言ったけど多分、暇だと思うし」
「やった~約束だよ!ああ、楽しみだな~♪」
堊亜は紗季からいい返事が貰え、ぴょんぴょんと
紗季の周りを飛び回り、子どもの様な笑顔で喜んでいる。
はは、神代君。あんなに喜んで、私とお出掛けするのが、
そんなに嬉しいのかな?んん、気のせいか?さっきより
周りの声がトーンアップしたような?
そう思った、私の耳に1つの単語が聞こえてきた。
『デート』
はっ!そうだよ!これ、どう考えてもそのお誘いだよね!
私の人生でその単語とは無縁の出会いだったから、
まったく気が付かなかったよ。でも、勘違いで本当に
ただのお出掛けなのかも?私が相手だしなぁ、その方が可能性高いか···。
「紗季ちゃんとデートかぁ、えへへ~嬉しいな~♪」
はうっ!デートでデートだった!
堊亜がこの単語を口にした瞬間、女子生徒達の
喜色の声が高くなり、様々な感情の声が飛び交っている。
「実はね、紗季ちゃんと一緒に行きたい場所があって、
今度のデートでそこに連れて行ってあげたいんだ♪」
再び、堊亜の口からこの単語が出てきた。
デートで間違え無いのが、これで決定した。
紗季は平常心を保ちながら堊亜と会話する。
「私を連れて行きたい場所ですか?」
「うん、でも当日まで内緒かな♪日曜までのお楽しみにしててよ!」
「それは楽しみです、一体どんな場所なのかな?」
私は神代君の顔を見て、本当に楽しみになってきた。
そんな気持ちになっている時、鳥飼君が保健室から帰ってきた。
「緑原さん、無事に保健室に連れていったよ」
「鳥飼君、ありがとうございます」
「いや、元々この堊亜のせいだし、その言葉は不要だよ星乃さん」
キ~ンコ~ンカ~ンコ~ン~♪
今日最後の授業を伝えるベルが鳴る。
「もうそんな時間なんだ?まだ紗季ちゃんと
いっぱい、お喋りしていたかったなぁ」
「ほら、行くぞ堊亜。ここにいたら星乃さんに迷惑がかかる」
「わかってるって、名残惜しいけどボク達もう戻るね。
じゃあ紗季ちゃん、日曜のデート楽しんじゃおうね~バイバイ~♪」
屈託の無い可愛い表情の笑顔で
ブンブンと手を振り、教室を後にする。
「ちょ、デートってなんだよ!おい、堊亜~!」
デートと言う単語に洸は驚きの表情を見せ、
慌てて堊亜の後を追って行く。
「何か、嵐のような時間だったな······デートか」
2人が去って行った方向を見て、困窮とも憂いとも取れる
言葉が洩れる。
「あ!そう言えば、デートの待ち合わせ場所、
神代君に聞くの忘れてた···」