10話・ハーレム?
「えへへ~来ちゃった♪」
「神代君?」
「ごめんね、星乃さん。いきなり訪ねて来て」
トコトコと私に走ってきた神代君の後ろから
ゆっくり鳥飼君も歩いてくる。
「どうしたんですか、2人が私を訪ねて来るなんて?
あ、もしかして『あれ』を返せって来たんじゃ?言っときますけど、
あれは絶対に返しませんよ!」
何故ならば、『貰った物は私の物』という格言が私的ルールにありますから!
私はそう心の中で叫声を上げ訴える。
「はは···安心して。この身に誓って、そんな事は言わないから」
「じゃあ、何をしに?」
「紗季ちゃんとお話したくて、遊びに来ちゃった♪」
紗季の問いに堊亜が笑顔で答える。
「お話···ですか?」
「うん。さっき食堂で紗季ちゃんとお話したのが何か凄く楽しくて、
またお話したいなぁって···それで、えへへ~遊びに来ちゃった♪」
堊亜は舌をてへって小さく出し、
つい恵愛したくなるような表情を見せる。
その姿を余所に、紗季は目を細め首を傾げて考える···。
あれ~?、おかしいな···。
食堂での会話って『お呼びじゃないからお願い帰って~』って感じの
会話しかしてないよね?
挙げ句の果て、ほぼボッタクリの対価交換をしてしまう始末だしなぁ···。
それが何故、楽しかったになるのだ?
「はっ!」
まさか···やっぱり、マジックアイテムを返して貰おうとここに来たんじゃっ!
きっと、そうだよ!じゃないと会って数分の人とこんなに
親しい笑顔で会話しないよね!
危ない危ない、この可愛い微笑みに騙される所だった~!
おのれ···絶対!このアイテムは返さんぞ!取り敢えず、
返却誘導をされないように、うまく相手の会話に乗って様子を見ようかな。
私は心の中で煩悶しながら問答を繰り返した結果、
明後日の方向に答えを導き出す···。
「そ、そうなんですか?それは私も嬉しいです!
でも、残念ですけど···私とお話しても、
何も面白くなんてないですよ?」
「そんな事ないよ~!紗季ちゃんとのお喋り、
ボクは楽しいよ~♪」
その微笑んだ顔はまさにお菓子系の笑顔で、
私もその笑顔についつい釣られ、頬が緩み紅に染まる。
さっきの問答は一体、何だったのかと言うくらいに···。
そこにさっきからこの3人のやり取りを黙って
見守っていた者が口を挟む。
「ち、ちょっといいかな···紗季ちゃん···」
「えっ?あっ!何、成美ちゃん?」
「その御二人様···どう見てもAクラスの
鳥飼様と神代ちゃんだよね?」
「うん、そうだけど?それが何か?」
「それが何か?じゃなぁぁぁああ~いっ!!」
成美は咆哮の如く紗季に向かって叫ぶ。
「ど、どうしたのそんな大声を出して?」
「出したくもなるわよ!その御二人様の事、
どんなお方達か知ってるの?」
「さぁ?だって、さっき出会ったばかりだよ、
そんなの知る訳がないでしょう?」
私は、成美の問いに知らないと答える。
「はあ、紗季ちゃんって本当、流行系に弱いよね。
いい?よく聞いてね。その御二人様は
今、もっともS級に近い人物と称賛されていて、
実力もそうだけど、ルックスも平均の群を抜いて良いし、
その相思相愛なる仲睦まじい姿も織りなって、天上様達、
S級四天王と並んで絶対的、人気を誇っている御二人様なのよっ!」
何これ、成美ちゃん···めっさ喋るんですけど···。
もう、藍川君の事···見れないんですけど···。
「そ、そうなんだ···へえ、凄いんだね2人共···」
「軽い!言葉が軽すぎだよ、紗季ちゃん!」
紗季に必死に力説している成美の肩を、
誰かの手がトントンと叩く。
「ねぇ~君って、紗季ちゃんのお友達?」
「はうっ!神代ちゃん!」
叩かれた肩の方に成美が首を向けると、堊亜の顔がそこにあった。
「はいっ!私は緑原成美って名前で、紗季ちゃんとは友達以上、
親友の間柄であります!」
成美はそれもう、美しくも完璧な敬礼をして堊亜に即答で語る。
「じゃ、ボクとも親友って事だ~。えへへ~よろしくね、成美ちゃん♪」
「はうっ!私が···神代ちゃんと親友ですと!それに名前で呼んで······
ふにゃあぁ······ガク···」
奇妙な声を出したかと思ったら、その場に倒れ込もうとする。
私は慌てて、成美ちゃんの背中に腕を回して抱き止める。
「だ、大丈夫?成美ちゃん?」
「ふにゃにゃ···」
「駄目だ···完全に気絶している···」
しょうがいない、保健室に運ぶか。でも私が運ぶにしてもこれは重過―
コホン、危ない危ない···乙女に禁句の言葉を使う所だった。
仕方ない···誰かに運んで貰うか···おお!ちょうどいいのがいるじゃないっ!
「藍川君!出番ですよっ!」
私は藍川君の方向に顔を向ける。
そこには、最早生きているの?···ってくらいの真っ青な顔をした
藍川君が机に塞ぎ込んでいた。
そうだった!この状況の生配信をその目で見ていたんだった!
あれ···生きているよね、死んでいないよね?
私がそうこう考えていると神代君が言葉を洩らす。
「もし、良かったらボクが運んでいこうか?
だって、ボク達は親友だし、困っていたらお互い様だよ!」
「えっ!」
私はドヤ顔で任せろっと息巻いている神代君を見て、
いや、無理だろ···と思ったが口を噤む。
「いや、堊亜じゃ無理だろ!身長差を考えろ···」
鳥飼君が私のつっこみを代弁する。
「え~そんな事ない、出来るよ!」
明らかに成美より身長が低い堊亜が洸に向かって
豪語している。
う~ん、神代君ってもしかして見かけ騙しで、
実は力が強いのかな?
そう思った私は神代君を目を凝らして見る。
「ん~!はあっ!んんん~~やあっ!」
堊亜は何度も成美を持ち上げようとするが、
成美の体は1センチも上がらない。
はは······見かけ通りだったよ、神代君···。
···って言うか、さっきから神代君の両手が
成美ちゃんの胸を下の方から掴んで
持ち上げようとしているせいで、ちょっと見た目が
変にドキドキな構図になってしまっている···。
いや···神代君の身長じゃ、そこが両手のベスト位置なんだろうけどさ。
成美ちゃん···本当、気絶してて良かった、
これ···意識があったら恥ずかしさで、悶絶死してるって。
後、藍川君も···。
それを見ていた周りの女子生徒達も
照れたり、手で顔を隠したり(指の隙間から見ているが)
キャー!キャー!言っている。普通はセクハラなんだろうけど、
可愛いは正義か、誰もそんな目で見ていない。
ま、私が見ても子どもが一生懸命って姿にしか見えないもんね。
ただ、男子生徒達は怨嗟の念でそれを見ているが···。
「こら、いい加減にしろ!」
業を煮やした洸が、
堊亜を羽交い締めにして持ち上げる。
「ちょ、何するんだよ洸。後もうちょっとで、持ち上がるのに!」
「嘘を付け!緑原さん、微動だにしていなかったじゃないか!
それに緑原さんの胸を···」
言葉の語尾が聞こえないように口が濁る。
「と、とにかく。僕が緑原さんを保健室に連れて行くから!」
そう言うと緑原をさっとお姫様抱っこで持ち上げる。
それを見た堊亜が不満そうに何か言おうとすると、
洸の鋭い視線がそれを黙らせる。
「じゃ、紗季さん。済まないけど、堊亜の世話をよろしくね」
紗季に微笑みを見せ、保健室に足を向けて
洸は歩いて行った。
やっとこさ10話目か···。先は長いなぁ···遠い目