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陰の実力者になりたくて! 作者:あかさたな
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路地裏で一服

「ふむ……」

 そう言ったきり思案に耽るシャドウの姿をガンマは見つめていた。彼女の青い瞳はどこか不安そうに揺れている。

 ふと、ガンマの目尻から一筋の涙がこぼれ落ちた。あの懐かしい青紫の魔力を見てから、ガンマは昔のことを思い出していた。

 ガンマの生は青紫の光から始まった。

 彼がいなければガンマは腐った肉塊のまま死に絶えていた。家族に捨てられ、国を追われ、全てを失い、苦痛と恐怖と絶望の淵にいた彼女を救ったのは、あの青紫の光を放つ少年だった。その光をガンマは一生忘れないだろう。それは、ガンマにとって命の光だった。

 青紫の光には命がこめられている。いつかアルファが言った。

 理屈ではなく、本能の部分でガンマはそれに同意した。

 あの光は決して表面的な傷を癒やすだけのものではなく、もっと深く人の生命を癒しているのだ。

 ガンマは青紫の光に触れて、自身の中にある枷が外れたような感覚を味わった。抑え込まれていた大切な何かが解放され、本当の自分を取り戻したような気がしたのだ。

 あの日、ガンマは生まれ変わった。

 ガンマという名を与えられたとき、彼女は新たな生を彼に捧げることを決めた。

 しかしその想いとは裏腹に、彼女は七陰で最低辺の立場にいた。後から来た新人に追い抜かれ、幾度も敗れ、地を這い、屈辱を重ねた。いつしかガンマはどれほど努力しても決して勝てないことを悟っていた。

 ガンマは苦悩した。自分の存在価値は何なのか。このまま足手まといになり無様な姿を晒ぐらいなら、消えてしまった方がいい。

 そう覚悟を決めたその日、なぜか彼はガンマを呼び出した。そして『陰の叡智』を語ったのだ。

 武力ではなく、知力で戦う道。

 ガンマはただがむしゃらに『陰の叡智』に飛びついた。

 生き残る道はこれしか無いと、文字通り命を懸けて『陰の叡智』を再現した。

 後にして思えば、彼に何もかも見透かされていたのだろう。ガンマの苦悩も、進むべき道も、全てわかった上で彼は『陰の叡智』を語ったのだ。

 その時ガンマが感じたのは切なさだった。

 決して届かない場所にいる彼が、ただ切なかった。

 彼にとってガンマは必要なのだろうか。

 そう考えた時、ガンマは涙が溢れてくる。

 だから涙を拭いて頑張るのだ。

 もっと大きく、もっと強く、シャドウガーデンを彼に相応しい組織へと成長させたとき、きっと……この思いは満たされるのだろう。

「なるほど、そういうことか」

 彼の声が、ガンマを現実に引き戻した。

「心当たりがある。一度、探ってみる」

 全てを見透かしたような彼の声に、ガンマは胸が締め付けられた。

 今回もまた何の役にも立てないかもしれない。

 彼はいつもほんの僅かな情報から答えにたどり着いてしまう。ガンマが部下を総動員して得られなかった手がかりを、いとも簡単に見つけてしまう。

 だが、ガンマは諦めない。

 いつか、彼に認められる日を……もう諦めないと決めたのだ。

「ニュー、来なさい」

 ガンマは彼をここまで案内したダークブラウンの髪の女性を呼んだ。

「この子はニュー。13番目のナンバーズです」

「ほう」

 彼は目を細めてニューを見た。その鋭い瞳で、ニューの力量は何もかも見抜かれているのだろう。

「まだ入って日が浅いですが、その実力はアルファ様も認めています。雑用や連絡員として自由にお使いください」

「ニューです。よろしくお願いいたします」

 ニューの声は緊張で少し震えていた。

「用ができたら呼ぶ」

「はっ」

 首を垂れてニューは下がった。

「さて、そろそろ帰るか」

 彼はそう言って立ち上がる。

「あ、そうだ。チョコ買いたいんだけど。一番安いやつ、友達割引でさらに安くなったらいいな」

「最高級のチョコをすぐ用意しなさい」

「あの……それって、いくらぐらい?」

「友達割引で10割引きでございます」

「10割引き……タダじゃん、ラッキー! あ、なら3人分欲しいな」

「かしこまりました」

 一般人のシド・カゲノーになりきる彼を、ガンマは微笑ましく思った。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



「ヤバイって、門限間に合わねーぞ!」

「シド君が遅いからですよ!」

「悪かったって、チョコレートあげたじゃん」

 僕ら3人はすっかり日の落ちた王都を走っていた。

 確かに僕が遅かったのも理由の一つだが、ヒョロとジャガがお姉さんの事をしつこく聞いてきたせいもある。ニューだっけ、まぁ色々とはぐらかして答えておいた。

 しかしだ。

 まさか本当にアレクシアが無差別通り魔殺人犯になるとは思わなかった。デルタじゃないとしたら、アレクシアしかいない。あいつついにやりやがったか、と僕は話を聞いたとき確信した。

 王女という恵まれた立場にありながら、何が彼女をそうさせたのか……。

 女心は謎である。

 でもまぁ、無差別通り魔殺人犯になることは別にそう悪い生き方じゃないと僕は思う。そういう人生があったっていいじゃない。

 でも、シャドウガーデンの名を騙るなら話は別だ。

 残念だけど、僕はそれを許すつもりはない。

 その時。

「なぁ、何か聞こえなかったか?」

「自分は何も」

 前を走るヒョロとジャガが話す。

 2人にはちゃんと聞き取れなかったようだが、僕ははっきりとその音を聞き取っていた。

 それは剣と剣がぶつかる音。

 遠くで、誰かが戦っているのだ。

 僕は足を止めた。

「おい、どうした」

「門限過ぎちゃいますよ!」

 少し遅れてヒョロとジャガが止まる。

 僕は路地裏を指差して言う。

「ウンコしてくる」

 ヒョロとジャガは『マジかこいつ』という顔をした。

「今ここでしないと僕は走りながら垂れ流すことになる」

「それは、たしかに大事だな」

「門限か尊厳かの問題ですね」

 2人は真剣な顔になった。

「僕を置いて先に行け。誰にも見られたくないんだ……」

「ッ! 分かった、お前が野グソして遅れたことは誰にも話さねぇ!」

「シド君の選択は、誰が何と言おうと正しかった……自分はそう思います!」

「もうもたないッ、早く……早く行ってくれッ!」

「シドッ……お前のことは忘れねぇ!」

「シド君ッ……たとえ野グソしてもずっと友達ですよ!」

「行け、行くんだああぁぁぁぁぁあ!!」

 2人は踵を返して走り出した。

 僕はその後ろ姿を見送って路地裏に入り、しばらくして戦いの音がする方へ向かった。

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