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【閑話】デルタの過去【陰実ゲーム化記念!!】

 3DアニメーションRPG『陰の実力者になりたくて!マスターオブガーデン』(カゲマス)11月29日にサービス開始になります!!


 私自身も、七陰たちの活躍をボリューム満点のストーリーで描いた『七陰列伝』では、全てのストーリーを監修させていただき、さらに本編を追体験するメインストーリーでは、私の書き下ろしシナリオも追加していただきました。


 現在、事前登録受付中です!


 原作では語られなかったストーリーが盛り沢山なので、ぜひぜひ遊んでいただけたら嬉しいです!


 基本無料なので誰でもお楽しみいただけますよ!!



 ゲームのオリジナルストーリーは七陰列伝ということで、今回は七陰デルタの過去を書いてみました!


 

 デルタはご機嫌だった。


 今日はシャドウと大量の盗賊を狩ったのだ。


 力こそパワー。


 強さこそ正義。


 狩りは生きる糧を得ると同時に、己の力を誇示する場所でもある。


「ボス!! 今日のデルタの狩りはどうだったのです!?」


「あーうん、よかったんじゃない」


 漆黒のロングコートを纏ったシャドウは、盗賊の死体から財布を回収しながら言った。


「やったのです!! ボスに認めてもらえたのです!」


 デルタにとってシャドウとの狩りは最高の舞台。


 己より上位の存在に認めてもらえることは獣人にとって誉であり、群れでの立場を強くする為に必要なことだった。


 それが獣人の価値観なのだ。


「あ、この死体どうする?」


 シャドウが指したのは、獣人の死体だった。


「誰なのです?」


「デルタの兄さん。もう忘れたの?」


 デルタは首を傾げて思い出す。


 そう言えば、何か不快なことを話してきた雑魚がいたような気がする。


「一応、埋葬とかしとく? 獣人のやり方とか知らないけど」


「いらないのです!」


「そ、ならいいけど」


 そう言って、シャドウは再び財布漁りを始めた。


「むー」


 獣人の死体を見ていると、なぜか不快なことを思い出してしまった。


 それはずっと昔、彼女がサラと呼ばれていた頃の記憶。


「どうしたの?」


「なんでもないのです!!」


 せっかくご機嫌だったのに。


 デルタはシャドウの背中に飛びついてマーキングを始めた。


「ちょ、離れて!」


「嫌なのです!」


「待て! 犬臭くなる!」


「臭くないのです!」


 シャドウの匂いを纏うことで、昔の記憶が少しずつ薄れていく。デルタには、そんな気がした。



 ◇



 暗く狭い小屋の中。


「サラ……起きていますか?」


 母が自分を呼ぶ声を聞いて、サラは跳び起きた。


「サラはここにいる!」


 小屋の奥には母が病で伏せていた。


「ゴホッ……お水を、汲んできてください」


 母は辛そうに咳き込みながら言った。


「分かった! 汲んでくる!!」


 デルタは母の為に小屋を出て水場まで急いだ。


 外は朝日が眩しく、地平線まで草原が続いている。水場に辿り着くころには、デルタの足は朝露で濡れていた。


 水場には澄んだ水が輝いていた。


 サラはしゃがんで水を汲もうとしてふと気づいた。


「しまった! 水桶忘れた!」


 彼女は取りに戻ろうと駆け出した。


 その時、彼女の足を誰かが払った。


「痛い!?」


 サラは地面に転がった。


「おいアホのサラ、急に転がってどうしたんだ!?」


「ハハハ、また水桶を忘れたのか?」


 そこにいたのは、サラより少し年上の二人の少年。


「ラル兄と、レン兄……」


 サラの耳がペタッと折れた。


「お前は本当に役立たずだな。家事もできないのか」


「狩りの訓練もしないくせにこれじゃ、何のために生きてるか分からねぇな」


「だ、誰かが母さんの世話しないと……! だからサラは訓練にいけない!」


「口答えするんじゃねぇよ!!」


 ラルの拳がサラの頬を殴った。


 幼いとはいえ、獣人の拳だ。サラは草原の上を何度もバウンドした。


「う……ぅ……」


 サラの唇の端から血が滲む。


 ゆっくりと起き上がると、二人の兄は意外そうな顔をした。


「あれ、本気で殴ったんだけどな」


「変な所当たったんじゃねぇのか?」


 そう言いながら、二人はサラの前まで歩いてきた。


「おいサラ、よく聞け。あの女の世話をしても無駄だ。もう狩りもできない。子供もたった三人しか生んでないのにこれじゃ、期待外れだ」


「あいつは群れのお荷物なんだよ。だから親父も見捨てたんだ」


「どうして……どうしてそんなに酷い事言う! ラル兄と、レン兄と、サラの、たった一人の母さんなのに!」


 サラは震えながらも、歯を食いしばって言った。


「……お前は本当にアホだな」


 返ってきたのは冷たい言葉だった。


「弱い奴に価値はない。群れの掟だろ?」


「弱いから……? 群れの掟……?」


「そんなことも忘れたのか。こんなのが妹だったとは」


「だって、母さんなのに……」


「もう俺たちの母じゃねぇよ」


「え……?」


「あれ、言ってなかったか。俺たちは実力を認められて、群れのナンバー3の家に養子になったんだ」


「そうそう。今はピット家のラル様と、ピット家のレン様だ」


「そんな……だって母さんは……」


「あんな弱い女、知らねーよ」


「次に会った時、気安く兄と呼んだらぶっ殺すからな。覚えとけよ」


 二人は嘲笑いながら去っていった。


 しばらく呆然と、サラは立ち竦んだ。


「そうだ……水桶……」


 涙を拭いて、サラはトボトボと小屋に戻った。



 ◇



 サラは笑顔で小屋の戸を開けた。


「母さん! 水桶忘れた!」


「まったく、あなたって子は……」


 母は優しい笑顔で待っていた。


「てへへ……!」


「ほら、そこにありますよ」


「うん!」


 サラは小屋の奥にあった水桶を持った。


「サラ……その顔、どうしたんですか?」


「え?」


 サラの頬は、殴られて赤く腫れていた。


「こ……転んだ! てへへ!」


 母は誤魔化すように笑うサラの顔をじっと見つめる。


「……ラルとレンにやられたのですか?」


「う……違う!」


「そうなのですね。全く、あの二人は……」


「違う! 違うのに……!」


「あなたは優しい子ですね。こっちへおいで、サラ」


 尻尾を垂れたサラが母の寝床に向かうと、母は笑って彼女の頭を撫でた。


「うぅ……母さんは頭がいい。サラの嘘、全部バレる」


「サラの嘘は分かりやすいのですよ」


「サラは頭が悪い。アホのサラって、バカにされる。どうすれば母さんみたいに頭良くなる?」


「うーん、難しいですね。サラは父親似だから……」


「サラは母さんに似たかった」


「そんなこと言ってはいけません。外では、絶対にね」


 厳しい声で母は言った。


「……うん」


「いい子ね、サラ」


 母は優しくサラの頭を撫でた。


「そうだ。サラはもう少し丁寧に話した方がいいかもしれません」


「丁寧に?」


「そうよ。丁寧に話せば頭がよく見える……かもしれません」


「サラも頭がよくなる!?」


「頭がよく見える……かもしれないわ」


「分かった! どうやって話せばいい!?」


「だから、丁寧に……そうね、語尾に『です』をつけるとか」


「こうです!?」


「え、えっと、ちょっと違……」


「こうなのです!?」


「そ、そうね……それでいいわ」


「これで頭がよく見えるのです!?」


「うーん……前よりは……どうだろう」


「これからサラは母さんみたいに丁寧に話すのです!!」


「こっちへおいで、サラ」


 そう言って、母はサラの顔を抱きしめた。


「あなたはかわいい子。かわいいかわいい、私の子です」


「母さん……?」


「私のせいで、あなたに辛い思いをさせたくないのです」


「サラは辛くないのです!」


 母は首を振って赤く腫れたサラの頬に触れた。その指は、酷く痩せ細っていた。


「サラ……落ち着いて聞いて。養子に行きませんか?」


「よ、養子……?」


「もうドーベル家に話は通してあります。サラは女の子だから、ラルやレンのようにピット家には入れなかったけれど。ドーベル家も十分に大きな家ですよ」


「え……ラル兄とレン兄も母さんが……?」


「内緒ですよ。私が話を通したと知ったら、あの子たちは傷つくでしょうから」


「どうして……」


「ピット家やドーベル家には貸しがあるんですよ。母さんね、昔は凄かったんだから」


 そう言って、母は誇らしげに微笑んだ。


「違うのです! どうして……どうして家族なのに! みんな一緒だったのに!!」


「サラ……」


「ラル兄も、レン兄も、酷いのです!! 母さんに酷いこと言って!! 母さんは病気で辛いのに家に帰ってこないのです!!」


 サラは涙声で叫んだ。


「サラ、聞いてください。これは仕方がないのです」


「仕方なくないのです!!」


「群れの掟ですから。私はもう狩りにも出れません。それに、ラルとレンとサラはまだ子供。狩りに出ても足手まといにしかなりません」


「父さんは……?」


「あの人は群れの長ですから。他にもたくさん、面倒を見ないといけない家があります。私が子を産めたなら援助してくれたでしょう。ですが、私はもう子を産めませんから……だからこの家は、餌をとってこれる人がいないのです。今は他の家から恵んでもらっていますが、それをいつまでも続けるわけにはいきません」


「サラは……サラは母さんの子なのです」


「いつまでもサラは私の子よ。でも……考えておいて」


「嫌なのです……」


「サラ……」


 サラはギュッと母に抱き着いた。


「サラは母さんの子なのです。ラル兄も、レン兄も、酷いのです」


「ありがとう、サラ。でも、ラルやレンを悪く言わないで」


「どうして……」


「あの子たちも、かわいい私の子だから」


「サラよりもかわいい子なのです?」


「いいえ、サラが一番よ」


 母は小さく笑った。


「やったのです!」


「ラルやレンはまだ幼く、群れでの立場がない。弱い私が親であることは、あの子たちにとって恥なのです」


「だから、母さんを悪く言うのです……?」


「あの子たちも、必死なんですよ。それに、あの子たちはもう私より強いから……」


「強ければいいのですか?」


「それが、群れの掟よ」


「そうなのですか……」


「だからお願い、サラ。ラルやレンを悪く言わないで。みんな仲良く元気でいてくれることが、私にとって一番の幸せなのです」


「みんな仲良く……分かったのです」


「いい子ね、サラ」


 そう言って、母は痩せ細った指でサラの涙を拭いた。


「母さん……どうすればいいのです?」


「どうすれば?」


「どうすれば、前みたいに暮らせるのです」


「それは……」


「どうすれば、バカにされないようになるのです? どうすれば、母さんが辛い思いをしなくていいのです?」


「サラ……ごめんね」


「どうして、謝るのです?」


「それは……母さんにも分かりません。でも、ラルやレンやサラが大きくなって、自分の手で獲物を狩ってこれるようになれば」


「獲物を狩れるようになればいいのです?」


「そうね。それから、うーんと強くなれば」


「強くなればいいのですね。そしたら、ラル兄とレン兄も戻って来るのです?」


「それは……戻って来るといいわね……」


 その声は小さかった。


「母さんのお病気も治るのです?」


「そうね……治るかもしれないですね」


 そう言って、母は悲しそうに微笑んだ。


「分かったのです! サラは強くなって、獲物を狩ってこれるようになるのです!」


「焦っちゃダメですよ、サラ。大きくなったら……ゴホッ……ゲホッ」


「母さん!?」


「だ、大丈夫よ……!」


 咳き込んだ母の背を、サラは必死で擦った。


 肋骨の浮き出た背中は、サラの心を焦らせた。


「早くしないと……」


「……サラ?」


「な、なんでもないのです! もう大丈夫なのです?」


「ええ、もう大丈夫ですよ。ありがとう」


「よかったのです! それじゃ、サラはもう行くのです」


 サラは踵を返して駆け出した。


「待ちなさい、サラ!」


 母は小屋を出るサラを呼び止める。


「な、なんなのです?」


「……どこへ行くつもりなの?」


 問われたサラは耳を伏せて俯いた。


「……み、水を汲みに行くのです」


「水桶を忘れているわよ」


「う……うっかりなのです!」


 サラは慌てて水桶を持った。


「そ、それじゃ、水を汲んでくるのです」


「行ってらっしゃい、サラ」


 母は心配そうに、サラの背中を見送った。



 ◇



 ――夜。


 母が寝るのを待って、サラは小屋からこっそり抜け出した。


 地平線まで続くはずの草原は、ただ暗く墨で塗り潰されたようだった。


 それでも、サラの目には遥か先まで見通すことができる。


「あっちに、いるのです」


 鼻をスンスンと鳴らす。


「あっちにも」


 耳をピコピコと動かす。


「あっちにも。沢山いるのです」


 目も、鼻も、耳も。


 サラは家族で誰よりも鋭かった。


「獲物を狩れるようになればいいのです」


 しかし、サラはまだ幼く狩りに連れていってもらえない。特に女は、男よりずっと後に狩りに出るのが通例だった。


 だが、それでは間に合わない。


 サラは暗い草原に足を踏み出した。


 その足は震えている。


 二人の兄に殴られた時よりずっと、怖かった。


 兄たちは既に狩りの訓練を受けているが、サラは訓練さえまだ受けていない。


 狩りの知識なんて何一つなかった。


「強くなるのです……」


 サラは震える脚で草原を進んだ。


 しばらく進むと立ち止まり、目と鼻と耳で周囲を探る。


 そしてまたしばらく進み、周囲を探る。


 それを繰り返して、サラは群れの集落よりずっと遠くまで進んだ。


 すぐ近くを魔物の群れが通っても、サラは息を潜めてやり過ごした。


「かくれんぼは、得意なのです」


 群れの子供たちは、誰一人としてサラを見つけられなかった。大人達でもサラを見つけるのは難しかった。


 その技術は、魔物にも通用した。


 脚の震えは止まっていた。


 この草原で自分を見つけられる存在はいない。その自信が、彼女に余裕を与えた。


「沢山いるのはダメなのです」


 目と鼻と耳で、獲物を選別する。


 目を凝らせば暗闇のはるか先まで見通せる。鼻を鳴らせば風が微かなにおいを運んでくる。耳をすませば足音や息遣いまで届いてくる。


 その全てを、彼女は理解した。


 なぜか理解できた。


「あれなのです」


 それは、草に潜む一匹の大豹。


 草原の強者であり、リスクが高く普通はまず狙わない。


 しかしサラには分かった。


 あの豹は弱っている、弱者だと。


 風下からゆっくりと近づいていく。


 近づくにつれて、死臭が濃く漂ってくる。やはり、間違いない。


 こいつは――母と同じ匂いがする。


 その瞬間、サラの集中が途切れた。


 自分が今、何を考えていたのか。それを理解して、彼女は愕然とした。


「ち……違うのです!」


 何も違わない。


 母の死と大豹の死を重ねて、弱者だと見下したのだ。


「違うのです!!」


 我を忘れて、彼女は叫んだ。


「グルルるるるるる――」


 気が付くと、目の前に大豹がいた。


「あぁ……」


 鋭い牙と、大きく開いた顎が、サラに迫っていた。


「あぁぁぁ……」


 サラは思った。


 ――なんて、弱いんだろう。



 ◇



 サラは夜明け前の草原に立っていた。


 朝日が遠くの空を染めている。


 足元には、息絶えた大豹が倒れていた。


「あぁ……」


 サラは泣いていた。


 全身を血で濡らし、小さな声で泣いていた。


 彼女の体には傷一つない。


 これは、全て返り血だ。


「うあぁぁぁぁぁ……」


 彼女は理解した。


 理解してしまったのだ。


 この草原で、弱いということがどれほど罪なのかを。



 【後編へ続く!?】

 今回はデルタの過去前編です!

 楽しんでいただけたでしょうか!?


 ゲームはこの数百倍のボリュームがありますので、ぜひ遊んでみてください!!


 デルタの過去後編は書籍5巻が12月28日に発売しますので、その前後にお届けできるかと思います!!


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 皆様の評価が励みになりますので、どうかよろしくお願いします!



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こちらはもう更新しないのかな… ここまで面白い作品はそうそうないから完結まで行ってほしかったけど…
面白かったです。 ですが、webの更新はもうないんですかね……? いつまでも楽しみに待ってます!!
面白かった、だけどこっちの更新まだ!?
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