そして戻ってこなかったパターンあるある
更新が滞っていること、心より謝罪いたします。
現在書籍版の執筆が忙しく、WEBの更新に手が回らない状況です。
書籍の方がひと段落しましたら再開いたしますので、それまでお待たせすることにはなりますが何卒よろしくお願い申し上げます。
「食品がない理由とは?」
僕の疑問にマルガリさんは苦々しい顔で答える。
「貴族連中のせいだ。俺たちが先に立てこもっていたのに、あいつら後からきて食料を独り占めにしやがった」
「おっと……」
世紀末やん。
「だから私たちが来た時に扉を開けようとしなかったのね」
マルガリさんは頷いた。
「貴族たちは今どこに?」
「上の階に立てこもってやがる。護衛もいるから手が出せねぇよ」
「自分たちだけ助かるつもりだなんて最低」
「そうだそうだー」
僕も同意しておく。
「でも、どうしてスペシャルビューティードロップDX は置いていったのかしら」
「この飴まずいからな」
まずいんだ。味見しよう。
「無礼ね。健康的な味といいなさい」
「うわ、まっず」
僕は飴を吐き出した。
こんなこともあろうかとパクっておいたのだ。
「風評被害よ。まずくないわ。選ばれしビューティーにしか理解できない高尚な味と評判なのよ」
裸の王様システムだ。
「味わうには芸術的な味覚が必要ということで」
「シドくん、わかってるじゃない」
クリスティーナは僕が吐き出した飴を拾って「洗えば大丈夫」と呟いた。
「……貴重な食料だからね」
「食料の問題はどうしようかしら」
「あんたたちも貴族だろ。上の連中と交渉して分けてもらうとかできねぇか?」
「僕はミドガル王国の貧乏男爵家だ」
「だと思ったぜ、坊主には最初から期待してないから安心しろ」
僕は感動で震えた。
これぞモブらしいモブの扱いである。
「だが嬢ちゃんは違う。見ただけで分かるぜ」
クリスティーナは高貴な主役オーラがプンプンしてる。
「私はミドガル王国の侯爵家だけど……上に誰がいるか分かる?」
「確か……イジルーワ侯爵家だったな」
「ごめんなさい」
クリスティーナは即謝罪した。
「それは、交渉は無理って意味か?」
「違う、私は理由があってオリアナ王国に来たの」
「確かに、どうして今の時期にオリアナ王国に来る必要があったのか」
僕は自分を棚に上げて聞いた。
「親戚がオリアナ王国に居て、私に縁談の話を持ってきたの」
「この時期に?」
「戦いの前に話をまとめたかったらしいわ」
つまり金か。
「私は四女だったし、オリアナ王国のイジルーワ侯爵家と深いつながりが持てるし、まぁ無事に進めば悪い話ではなかったの」
「無事に進んだ感じじゃないね」
「そ、縁談はまとまったんだけどこのゴタゴタに巻き込まれたのよ。家族が逃げ出せたのは不幸中の幸いね」
「それで、つまりクリスティーナの婚約者がイジルーワ侯爵ってことか」
「そういうこと」
「侯爵家もいろいろ大変だ」
「四女だし覚悟はできていたわ。好い人もいなかったし、相手が悪い人じゃなければそれでよかったのよ」
「上で食料がめてるけど」
「きっと悪い人じゃないの、何か理由があるはずよ! って言えればいいんだけど」
「言ってほしいな。超盛り上がりそう」
周囲の平民からビシバシ殺意の視線を感じている。
「やめとくわ。イジルーワ侯爵は私に気があるみたいだし交渉はできると思う」
「さすが、実は一目見た瞬間に傾国の美女だと思っていたんだ、食料沢山もってきてね」
「ふふふ、ありがと。スペシャルビューティードロップDXのおかげね」
「そうだね」
「そういうわけだから、交渉してくるわ」
そして、クリスティーナは階段を上っていった。
「で、戻ってくると思います?」
僕はマルガリさんに聞いてみた。
「どうだかな、嬢ちゃんの良心を信じるしかない」
「侯爵令嬢だしね」
むしろ戻らないのが鉄板ムーブ。
「あの嬢ちゃんが坊主に惚れてるとかあればもしかすると……」
「ないない、でも念のため保険はかけておいた」
「保険?」
「傾国の美女って言っておいた」
「それで?」
「それだけ」
「……そうか」
僕たちは無言で階段を見上げた。
しばらくして――。
「キャァァァァァァアアアアアアアアアアッ!!」
クリスティーナの悲鳴が響いた。