僅かな食料DX
「扉を閉めろ!」
僕らが店内に入るとすぐに、スキンヘッドのおっさんが扉を閉めて鍵をかけた。
ドン、ドン、と外から扉が叩かれるが、その振動は意外なほど小さい。
「さすがミツゴシ商会。頑丈な扉ね」
「そうだな。素材が違うのか、扉に仕掛けがあるのか、やけに頑丈だ。魔剣士じゃねぇと壊せねぇぜ」
スキンヘッドのおっさんが言う。
「ったく、ひでぇ匂いだ。もう二度と扉は開けねぇぞ。俺はマルガリだ。魔剣士で傭兵をやってる。あんたらは?」
「私はクリスティーナ。こっちはシド君。私たちはミドガル魔剣士学園の生徒よ」
「ミドガル王国の学生がなぜオリアナ王国に?」
「母の実家がオリアナ王国なの。その関係でちょっとね。シド君は旅行らしいわ」
「こんな時期に旅行かよ」
「はは……」
僕は愛想笑いでごまかした。
「ミツゴシ商会が住民を保護してるって聞いたんだけど……」
クリスティーナは店内を見回した。
住民らしき人々が数十名いるが、ミツゴシ商会の従業員らしき人物は見当たらない。
「住民を連れて昨夜脱出したらしい。俺たちが来た時にはもぬけの殻だった」
「遅かったってわけね……」
「残念だが、俺たちだけで何とかするしかねぇんだ」
「そんなこと無いわ。近いうちに反ドエム派が助けに来てくれるはずよ」
「だといいがな……」
マルガリは吐き捨てるように言った。
「助けに来てくれないっていうの?」
「町の人間がどれだけ化物になったと思う? 外の兵士の数よりよっぽど多いだろうぜ」
「……そうでしょうね」
「外の連中が中の様子を知っていたら、絶対に攻め入っては来ないだろうな。俺なら逆に閉じ込めて、化物たちが飢え死にするのを待つ。城壁は俺らを閉じ込める檻になっちまったんだよ」
クリスティーナの表情が険しくなった。
マルガリの考察はとても現実的で、冷静に現状を判断していると僕も思う。
「つまり……化物たちが飢え死ぬまでここで待つか、自力で脱出するしかないわけね」
「そうなるな。すぐに救助がくると信じてる連中もいるようだが、望みは薄いと思うぜ」
マルガリは現実的な傭兵の判断で、憐れむように住民を見渡していた。
「問題は山積みだが、とりあえず戦力になりそうでよかった。もし何かあったら、俺たち三人で戦うことになるだろう」
「魔剣士は私たちだけってこと?」
「いいや。戦闘経験があるのが、俺たち三人だけだ。魔剣士どころか兵役経験者もいねぇよ」
「……何かあったら全員は守りきれないわよ」
クリスティーナが声を潜めて言った。
「わかってる。それでも、できることをやるしかねぇんだ」
「……そうね」
「ひとまず、ここで籠城するつもりだ。俺がここのまとめ役をやっている。お前達も俺の指示に従ってくれ」
「わかったわ」
「頼んだぞ。早速だが、どうにかしねぇといけねぇ事がある。これから籠城するのに必要な物が何か、わかるか?」
「水と、食料。あと薪ね」
「そうだ。水は屋根の雪を溶かせばいい。薪もしばらくは大丈夫だ。だが、食料が……」
「だ、だ、だからこいつらを入れるのは反対だったんだッ!!」
マルガリの話を遮って、住民の一人が声を荒げた。
「し、食料が少ないんだぞ! 見殺しにすればよかったんだよ!!」
「食料は絶対にやらねぇからな!!」
「そうだそうだ! これは俺たちの食糧だ!!」
声を荒げているのは数名だが、ほかの住民の視線も好意的には見えなかった。
「こいつらは魔剣士学園の生徒だ!! 何かあったら戦うのは俺たち三人だぞ!!」
マルガリが低い声で恫喝する。
「ぅ……」
さすが傭兵の迫力である。
住民たちは俯いて大人しくなった。
「悪いな。皆、自分の事で精一杯なんだ」
「気にしてないわ」
「おおよその事は分かってくれたと思うが、食料が足りねぇ」
「ミツゴシ商会の商品があるんじゃないの?」
「価値が高い商品はミツゴシ商会が回収済みだ」
「そう。具体的には何日分あるの?」
「何日分になるかわからんが、これだけだ」
マルガリは住民たちの中心にある大きな箱を開けてくれた。
非友好的な視線をビシバシ感じた。
「こ、これって……」
箱の中には、やたら豪華な包装の飴が山積みにされていた。
「ス、スペシャルビューティードロップDXがこんなに!?」
山積みにされた一粒一万ゼニーの飴を見てクリスティーナが叫んだ。
回収せずに置いていったということは、原価10ゼニー説の信憑性が非常に高くなった。
感激するクリスティーナを憐みの目で見つめて、僕はミツゴシ商会が置いていった他の商品を見渡した。