全部アメリカ人のせい
僕とクリスティーナが慌てて廊下に出ると、廊下の先から血塗れの人々が押し寄せていた。
彼らの顔には血の気がなく、まるで死人のようだ。
僕はそれをよく知っている――ゾンビである。
「扉を閉めるんだ!」
僕はクリスティーナの手を引いて部屋の中に連れ戻し扉を閉めた。
これで一安心、ゾンビは扉を開けられないのだ!
ふふふ、もし日本がゾンビで溢れたらどうしようか、前世でひたすら考えていた僕にぬかりはない。
「手伝って! 家具を扉の前に運ぶのよ!!」
「いやいや、ゾンビは扉を開けれないからだいじょ――」
ガチャッ、と。
音がして振り返った瞬間、ゾンビが扉を開けて顔を出していた。
「ッ――ホアッ!」
僕は音速の後ろ回し蹴りでゾンビの顔面を吹き飛ばし、扉を閉めてドアノブをガッチリ掴んだ。
「か、か、家具を早く!」
ゾンビが扉を開けるなんてルール違反だ!!
クリスティーナが部屋中の家具を集めてバリケードを作る。
ドアノブも家具で固定して、これで一安心――バキッ!
「うえぇぇぇぇぇえええ!?」
なんということだ。
扉からゾンビの手が突き出てきた。
「くっ……長くは持たないわね」
扉を破壊するゾンビなんてルール違反だ!
「いやいやいや、なんで、どうして……」
「驚くのも無理ないわ。奴らは人間よりも力が強く、足も速い。おまけに人間だった頃の知識も少し残っているのよ」
「そ、そんな……」
僕はようやく気付いた。
奴らはゾンビではない――スーパーゾンビなのだ!
説明しよう、スーパーゾンビとは。
かつてゾンビは、不死身である代わりに足が遅く知能も低い雑魚だった。
でもそれだとアメリカ人がマシンガンやロケットランチャーでHAHAHAしたら一掃できてしまう。
ホラー映画が無双映画になってしまうのだ。
そこで登場したのがゾンビが強化されたスーパーゾンビである!
彼らは俊敏で、力も強く、そしてわずかながら知能もあり、集団でアメリカ人に襲いかかるのだ!
マシンガンやロケットランチャーをぶっ放すアメリカ人もスーパーゾンビの集団には苦戦した。
しかし、アメリカ人も進化して人間離れした能力を手に入れてゆき――。
「ど、どうしてこんなことに……」
「全てドエム派の連中のせいよ。あいつらは勝利祈願とか言って、街の人々に赤い飴玉を配っていったの。それを食べた人たちは、次の日にああなってしまった」
「君は食べなかったんだ」
「私はミツゴシ商会の飴しか食べないの。『戦う女性は内からキレイ、スペシャルビューティードロップDX』一粒一万ゼニーよ」
「なるほどスペシャルビューティーだね」
原価10ゼニーだな。
「奴らの力は強いわ。掴まれたら魔剣士でも振り払うのは難しいから、集団に囲まれたら終わりよ」
話している間にも、ガンガンと扉が殴られて穴がどんどん広がっていく。
穴の向こうには、軽く30体以上のゾンビが見える。
こんなとき、モブは何をすればいいんだろう。「こんな所にいられるか!」と叫んで一人で逃げ出すのは……もう少し先のイベントだな。
とにかく、ここにいたらモブ的には破滅エンドだ。
「早く逃げないと」
「そうね……ミツゴシ商会のオリアナ王国支店を目指しましょう」
「ミツゴシ商会? どうして」
「ミツゴシ商会が住民の保護をしているらしいわ。本当かどうかも分からないし、もう全滅しているかもしれないけれど……」
「でも、行くしかない。そうだろ」
「そうね」
ミツゴシ商会なら大丈夫でしょ。
でも、この様子だと反ドエム派が街に入ったら大惨事になるな。
噛まれたら感染するのは分かり切っているのだ。
「窓の下はまだ奴らが少ないわ。飛び降りるわよ」
クリスティーナは窓に足をかけて振り返る。
「シドくんは王都ブシン流の7部だったかしら」
「最近6部になったよ」
「6部かぁ……で、でも蹴り技は鋭かったし、きっとすぐに上のクラスになれるよ」
クリスティーナは一瞬顔を曇らせてから誤魔化すように微笑んだ。
まぁ、王都ブシン流の6部はクラスの底辺だから仕方ない。
「私は2部だから、先導するね!」
一年で2部はかなりすごい、少なくともモブじゃない。
僕はクリスティーナに続いて飛び降りた。