様々な要因が組み合わさった自然現象か、それ以外の超常現象である可能性が高い
オリアナ王国の王城で、モードレッドは報告を聞いていた。
「ドエムが消息を絶ったらしいな」
「は、はい……」
雪のように白い髪をオールバックにまとめたモードレッドの向かいに、ディアボロス教団の連絡員が立っている。
彼の足は震えていた。
「何があった」
「さ、昨日、深夜にシャドウガーデンの襲撃を受けました。少人数によるものであったと思われます」
「思われる、か」
「そ、その、姿を確認したわけではありませんので」
「なるほどな。被害は?」
「多くの幹部を失いましたが、教団に補充の人員を要請いたしましたので、も、問題ございません」
「易々と侵入を許し幹部を暗殺されて置きながら問題ないとは、価値観の相違だな。シャドウガーデン側の被害は? 一人ぐらいは仕留めたのだろう」
「そ、それが……我々の実力に恐れをなして早々に逃げ出したので……」
「それは『目的を達成し素早く撤収した』とも言えるな」
「わ、我々に、恐れをなして逃げ帰ったのだと、げ、現場を検証し、結論を出しました」
連絡員の顔から血の気が引いていく。
彼はただ「そう報告しろ」と命じられただけなのだ。
「興味深い検証だ。それで、ドエムはシャドウガーデンに攫われたのか」
「そ、その、それが……わかっておりません」
「わかっていない?」
「は、はい。シャドウガーデンが逃げ出した後、ドエム様は現場の指揮を執っておられました。そ、その最中、突然……いなくなりました」
「突然いなくなった……?」
モードレッドの瞳が怪訝そうに瞬く。
「は、はい。我々の目の前で、こう、突然いなくなりました。消え去ったのです」
「人が、突然消え去るものだと思うか?」
「い、いえ……」
「そうだろう。もちろん現場の検証とやらはやったんだろうな」
「は、はい……」
「それで?」
「それで、その……えっと、検証の結果をお知りになりたいのでしょうか?」
「それ以外にあるか? 私が馬鹿なのか、それともお前が馬鹿なのか。どっちだ? もしかして互いに馬鹿だと思っているのか?」
モードレッドに睨まれた連絡員は、視線をさ迷わせて滝のような冷や汗を流した。
「い、い、いえ、決してそのような。け、検証の結果、古代のアーティファクト、もしくは、なんらかの魔法か魔物を使った犯行、もしくは様々な要因が組み合わさった自然現象か、それ以外の超常現象である可能性が高いとの結論が出た次第です……ッ」
モードレッドは眉間にしわを寄せて聞いた。
「……つまり何も分からなかったと?」
「は、はい……い、いえ、いえ、あらゆる可能性を考慮し、慎重に出した結論です。す、す、全ての可能性を網羅しております……ッ」
「だろうな。極めて興味深い検証だった。褒美に私の見解を聞かせてやろう」
「モ、モードレッド様の見解ですか……?」
「数名で行われた最初の襲撃はシャドウガーデンの罠だったのだよ」
「罠……ですか?」
「そうだ。襲撃に目を向けさせて、拉致の実行犯を潜り込ませたのだ。シャドウガーデンの中でも選び抜かれた精鋭だ。『七陰』か、あるいはシャドウか……」
「だ、だとしたらやはりシャドウガーデンの仕業でしょうか」
「間違いないだろう。シャドウガーデンには変装を得意とする者もいる。潜り込んだ実行犯が変装し……まさかドエムに変装していたのか」
モードレッドは何かに気づいたかのようにハッと顔を上げた。
「ドエムに変装し、皆がいる前で消えて見せる。まるで超常現象のように。そうすれば、シャドウガーデンの犯行だとは気づかれない」
「ま、まさか……しかし、どうやって消えたというのですか」
「何かしら仕掛けがあるだろうな……こればかりは、現場を見ない事には分からん。だが、ドエムを消すよりも変装した自分を消した方が簡単だ。そうだろう?」
「た、確かに……」
「まぁ、確かなことは分からん。現実として、ドエムは消え去り王都は包囲された。シャドウガーデンも潜り込んでいるのだろうな……」
モードレッドはクツクツと嗤った。
「ど、どういたしましょう……計画に齟齬が生じてきておりますが」
「さぁな。計画より面白くなったのではないか。ドエムの失踪が知られるところとなれば、続々と反ドエム派が集まってくるだろうな」
「さ、早急に対処する必要がございますね」
「いや、必要ない。もっと集めさせればいいのだ。こうなった以上、オリアナ王国は終わらせる。その前に、ゴミはまとめて処分しておいたほうがいいだろう」
「ま、まさか、アレを使うおつもりですか」
モードレッドは何も言わずに微笑んだ。
そして――連絡員の首を刎ねた。
血飛沫が舞い、首のない肉体が床に転がる。
「シャドウガーデンよ――その力、見せてみろ」