表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
188/206

イプシロンの隠し味

 イプシロンはカイとオメガを連れて闇の中を駆けていた。主は「先に行く」と言って先行している。


 作戦はシンプルな夜襲である。


 闇夜に紛れてドエム派を強襲し、深刻な被害を与えようというのだ。


 国王派とドエム派、まともに戦えばドエム派が勝利するだろうとイプシロンは思っている。


 しかし、この戦いはまともではない。


 国王派の裏にはシャドウガーデンがいて、ドエム派の裏には教団がいる。


 これはシャドウガーデンと教団の代理戦争に近いのだ。


 シャドウガーデンの個々の強さを考えれば、少数精鋭による夜襲は合理的な選択だ。


 こちらの戦力は七陰一人にナンバーズ二人、さらに主もいる。


 敵兵の数によっては、一夜にして壊滅してもおかしくはないだろう。


 だが、国王派の背後にシャドウガーデンがいるように、ドエム派の背後にも教団がいる。


 彼女たちはこれから、教団の戦力が集中する野営地に夜襲をかけるのだ。


 油断はできない。


 主の存在がなければ、決して選択しない作戦だった。


「我々の仕事は主様のサポートよ。潜入したら各自指揮官を狙い混乱させなさい」


 カイとオメガは無言で頷く。


「主様が見ている前で失敗は許さないから。私に恥をかかせないで」


 イプシロンの口調はキツイが、いつもの事なのでカイとオメガは黙って頷く。


「ちなみに私が仕留めた雪ウサギを主様は美味しいって言ってくれたんだから」


 イプシロンはなぜか全く関係ないことを話し出すが、いつもの事なのでカイとオメガは黙って頷く。


「当然よね。だって隠し味は愛……なんてね」


 勝手に照れて赤面するイプシロンだったが、いつもの事なのでカイとオメガは黙って頷いた。


 そして、彼女たちの前に敵軍の野営地が見えてきた。






 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇






 ここはドエム派の野営地。


 国王派の軍はまだ遠い。


「ふぁ~~ぁ」


 気の抜けた欠伸をして、見張りの兵士は目を擦った。


 ――その時。


「……ん?」


 背後を何か通ったような気がして兵士は振り返る。


「気のせいか」


 だがそこには何もいない。


 兵士は再び目を擦って見張りを続けた。


「……ん?」


 しばらくして、彼は辺りを見回した。


 小さな悲鳴のような声が聞こえた気がしたのだ。


 だが辺りは松明の小さな灯りが輝いているだけ。


 静かな夜だ。


 近くの天幕には大隊の中佐が眠っている。


 ふと兵士が松明を掲げると、天幕はその灯りで闇から浮かび上がる。


「……え?」


 白い天幕に、血痕が飛び散っていた。


 彼は慌てて天幕に駆け込んだ。


「ち、中佐! ご無事ですか!? な――ッ」


 そこに、無残に首を刈られた中佐の死体が転がっていた。


 天幕内は血飛沫で赤く染まっているが、争った形跡はない。


 一瞬で、その首を刈り取ったのだ。


「て、て、て…てて……ッ」


 兵士の声が震えていた。


 敵の侵入に気づかなかった、見張りの失態なのだ。


 彼は何もないところで転び、そして這いずりながら天幕の外に出て息を吸い込んだ。


 そして叫ぶ。


「て、てて……て、てててて敵襲――ッ!! て、敵襲――ッ!! 敵襲――ッ!!」


 一瞬で、周囲が慌ただしくなった。


 彼は天幕から逃げるように這いずって、壊れたように叫び続けた。


 そして、ふと隣の天幕を見る。


「あ、あぁ……そ、そんな……そんな……ッ」


 そこも、血飛沫で赤く染まっていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
[一言] ホラー映画かな?
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ