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趣味が悪い

 夜が明けた。


 僕らはあれから陣地に戻り仮眠をとった。


 今は朝食タイムだ。


 寒空の下、朝日で雪原が輝くその中で、僕は薪をくべて焚火をしていた。


 パチパチと火が燃える。


 コトコトと鍋が躍る。


 美味しそうな匂いが漂ってくる。


 ヴァイオレットさんはその指で雪に落書きをしていた。


 欠伸をしながら鍋が焦げないように眺めていると、ヴァイオレットさんがその指で僕のズボンをクイクイと引っ張る。


「なに?」


 クイクイ。


 ヴァイオレットさんは雪に書いた落書きを指した。


「んん?」


 落書きかと思ったら文字のようだ。


 読んで読んで、と文字の前でクネクネする。


「ふむ……」


 僕は一通り字を眺めて頷く。


 古代文字のようだ。


「なるほど……」


 わからん。


「わかった」


 きっと残りのパーツの事だろう。


 ヴァイオレットさんとは昨夜、渾身のボディランゲージで意思疎通したから大丈夫。


 オリアナ王国の王都の方を指差していたんだ。


 だからそっちに向かえば問題ない。


 僕はせっかく文字を書いてくれたヴァイオレットさんの気持ちだけを受け取って、満面のスマイルで頷いた。ヴァイオレットさんも指を曲げて頷いた。


 そして彼女は指でコロコロ転がって、雪の上の文字を消していく。消さなくても大丈夫だけどね、どうせ誰も読めないし。


 そんなことをしていると、鍋が吹いた。


「あ、やば」


 僕は慌てて鍋を火から離す。


 中が焦げていないことを確認してゆっくりとかき混ぜる。


 野菜くずと芋のスープだ。味付けは塩だけで素材の味を生かしていくスタイル。


 まあ、味はどうでもいい。


「でもたんぱく質が足りないんだよなぁ……」


 雪の上を転がったヴァイオレットさんが僕の膝の上に登ってきた。


 彼女の指はひどく冷えていた。


 僕はその指をつまんで火にかざす。ヴァイオレットさんは気持ちよさそうに温まる。


「貴重なたんぱく質……」


 焚火の上でビクッとヴァイオレットさんが停止する。


「もし仮に骨だけ残して食べたら再生できるのかな」


 プルプルとヴァイオレットさんが震える。


「できたら肉の無限ループじゃないか」


 バタバタとヴァイオレットさんが暴れ出す。


「食べないよ。お腹壊しそうだし」


 どうなるのかなって、ちょっと考えただけだ。


「冷えた指も温まったね」


 僕はヴァイオレットさんを解放した。


 ヴァイオレットさんは僕の手をぺしっと叩いて膝の上に戻った。


「肉はイプシロンに頼んだから大丈夫」


 きっとウサギでも狩ってきてくれるだろう。


 こんなときデルタがいると便利なんだよな。彼女なら最短で狩ってきてくれる。


 僕はデルタがいたらどうなったのか少し考えてみた。


 満面の笑顔でドラゴンを引きずって来るのを想像して止めた。


「やっぱ無しだな」


 僕が呟いたその時。


「シド兄様、ウサギを狩ってまいりました」


 少年兵姿のイプシロンが帰って来た。その手には白い野ウサギを持っている。


 僕はほっと息を吐いた。


「イプシロンでよかったよ、ホントに」


「は、はぃぃ?」


 イプシロンはナイフで手を切りそうになりながらも、手際よくウサギを捌いて鍋に投入した。


 そのまま鍋が煮えるのを待っていると、三人のおっさんたちがやってきた。


「よう、昨日はよく眠れたか?」


「もうすぐ鍋ができそうだな」


「おい坊主、なんだその指」


 一人のおっさんが、僕の膝の上でくつろぐヴァイオレットさんに気づいた。


 おっさんたちは僕を微妙な目で見ていた。


「うぇ、敵兵の指か」


「気持ち悪いな」


「腐る前にちゃんと捨てろよ」


 おっさんたちは僕の肩をポンポンと叩いた。


 ヴァイオレットさんの魔力が高まるのを感じた。

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― 新着の感想 ―
指が…かわいい…だとッ!?
[一言] このタイミングでヴァイオレットさん相手にも知ったかするのかwww
[一言] 自律思考する指か。 そー言えば、むかしむかし大昔、手だけの存在で主人公の少年と戯れる「てっちゃん」てゆーマンガ(少年チャンピオンだったかなぁ)があったなぁと思い出しました。
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