その胆力に圧倒された――ッ
書籍二巻発売でしました!
二巻にはWEB3章~4章をまとめて、五つのストーリーを加筆しました!
デルタと主人公の貴重な出会い!!
ベータとイプシロンの真偽対決!
そしてベータ直筆のシャドウ様戦記と、残り二つのストーリーは書籍でのお楽しみ!
イプシロンは主の一挙手一投足を見つめていた。
彼女の頬は桜色に染まり、瞳はキラキラと輝いている。
「さすがです、シャドウ様……!」
陳腐なセリフだ、とイプシロンは思った。
歴史を紐解いた主の知識量、そこから導かれた深い洞察、そして英雄の魂をも動かした戦闘力。
それらを形容する言葉として、イプシロンのセリフはあまりに陳腐である。
しかし仮に、イプシロンの語彙力を全て注ぎ込み、最高の修飾でセリフを飾ったとしても、主の為した行いに相応しい言葉を用意することはできなかっただろう。
ならば、余計な言葉はいらない。
ただ、想いを率直に言葉にする。
それがイプシロンにとって最高の敬意と称賛の表現なのだ。
「行け……過去と、現在と、未来を繋ぐその先に……」
消えた英雄フレイヤに主が語り掛ける。
その何気ない振る舞いすら洗練され美しい。
過去、現在、そして未来……その言葉にいったいどれほどの意味が込められているのだろう。
主の言葉の計り知れない重みに、イプシロンは圧倒されていた。
「イプシロン、無事か?」
「はいぃ! シャドウ様のおかげで傷一つありません! もちろんこの身は全てシャドウ様に捧げ――」
「フレイヤか……悪くない剣筋だった」
「シャドウ様の方が百万倍すごいです! あのフレイヤの剣を避けた無駄のない洗練された動きは悠久の時を感じました! そして直後に放った世界を断ち切るような果てしない最高の一太刀は、あの英雄フレイヤを完全に圧倒し今世紀最大の衝撃と共に――」
「そろそろ戦後処理も落ち着いただろう。彼女の周囲も静かになった」
「――世界の歴史に刻まれ語り継がれるでしょう! 彼女とは、まさか……」
彼女の存在は、イプシロンもこの城に潜入した時に気づいた。
『災厄の魔女』アウロラ。その指の一本がこの地に封じられているのだ。
この地はかつて英雄フレイヤが消息を絶ったとされる場所であった。それに『災厄の魔女』アウロラも関係していたのかもしれない。
しかしこれは、歴史を紐解いた主にしか理解できない領域の話だ。
「友達に会いに行こうと思う」
「――なッ!?」
主の言葉にイプシロンは戦慄した。
あの『災厄の魔女』を……いや、魔人ディアボロスを友達と言ってのける主の胆力に圧倒された――ッ。
主は魔人ディアボロスすらも友達扱い……。
イプシロンはゴクリと唾を飲み込んだ。
「さて、行こうか」
「お供いたします!」
イプシロンは先に進む主の背中を熱い眼差しで追いかけた。