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過去と現在と未来を繋ぐその先


 扉を抜けたそこは、濃密な魔力が渦巻くファンタジーな空間だった。


 壁一面に刻まれた古代文字が魔力で輝いている。


 部屋の中心にあるのは古びた祭殿。


 幻想的な光によって照らされたそこに、漆黒の魔力が集まっていく。


 時間潰しの諜報員プレイが、思わぬ当たりを引いたようだ。


「シャドウ様、気を付けてくださいッ」


「――なるほど、そういうことか」


 こういう時は、とりあえず意味深に。


「ここをご存じなのですか!?」


「全てが繋がった……現在と過去、そして未来が……」


「なッ――この一瞬で、全てを!?」


「――集う」


 祭壇に集う魔力は密度を増していき、部屋全体を漆黒が染める。


 僕はイプシロンを庇い前に出た。


 イプシロンだと少し、きついかもね。


「シャドウ様!?」


 そして魔力が集束し、爆ぜる。


「――くぅッ! なんて魔力!?」


 僕は魔力で障壁を展開し爆発を防ぐ。


「なるほど……これがあの……」


 僅かに障壁が揺らぐ。 


「へぇ……」


 僕は小さく呟いた。


 間違いない、この気配はボスキャラだ。


 そして、漆黒の魔力が収まったそこに、鎖に繋がれた一人の女性の姿があった。


「まさか、彼女は――!」


 長い白銀の髪に、真紅の瞳。


 その美しい顔立ちにはどこか陰があり、四肢は鎖に繋がれている。


「――人の英雄フレイヤ!?」


 なるほどそういうストーリーね。


「久遠の時を越えて……蘇るか」


 僕はイプシロンのアドリブに乗っかる。


 この瞬発力が大切なのだ。


「し、しかしなぜこんな所に」


「歴史を辿れば、全ては必然」


「歴史を辿る……まさか……」


 フレイヤ(仮)は漆黒の魔力を纏いながら、真紅の瞳で僕らを見据える。


 その瞳に、理性の光はなかった。


「……闇に堕ちたか、英雄よ」


 漆黒の魔力と理性を失った瞳は闇落ちパターンで間違いないのだ。


「怨恨の先に、何を見る……」


 僕はそれっぽい言葉で鎖に繋がれた彼女に問いかける。


「アアアァァァ……」


 彼女は呻いた。


 繋がれた鎖が引かれて音をたてる。


「悔恨か、それとも……」


 僕はコツコツと音をたてて祭壇に歩み寄る。


「ァァァァァアアアアアアアッ」


 そして、僕は祭壇の脇に立ち彼女を見下ろす。


「――復讐か」


「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」


「シャドウ様ッ!?」


 フレイヤ(仮)の手が、僕の首に伸びる。


 しかし――ガチャッ、と音が鳴り寸前で止まる。


 彼女の手を拘束する鎖に刻まれた古代文字が輝いていた。


「――よかろう」


 僕はスライムソードを抜き、祭壇の上に掲げた。


「亡霊の身で何を成すか……見せてみよ」


 そしてスライムソードを振り下ろし、彼女を拘束する鎖を断ち切った。


「ゥゥゥウウウアアアアアアアアアッ!!」


 解放した瞬間、フレイヤ(仮)の剣が僕を襲う。


 その剣は、見惚れるほど美しい。


 しかし、理性がない。


 理性のない剣は、つまらない。


 僕は剣を避け、そのまま彼女の背後に立った。


 そして、彼女の首にスライムソードを添えて囁く。


「ここで――潰えるか」


 フレイヤ(仮)の動きが止まった。彼女は剣を振り切った姿勢のまま、微動だにしなかった。


「理性を失って尚、刀身の魔力に気づいたか。貴様の魂ごと消滅させる、この刀身に……」


 僕らはしばらくそのまま停止した。


 僕は彼女の首に刀を添え、彼女は剣を振り切ったままだ。


 雰囲気づくりには、この間が大切なのだ。


「貴様には、為すべき事があるだろう……」


 雰囲気が作れたことを確認し、僕は彼女の首に添えていた刀を下ろした。


 すると彼女が振り返って僕を見た。


「わ……たし……は……」


 彼女は口を動かして何かを言ったが、途中から言葉になっていなかった。


 その瞳に、少しだけ理性の光を感じた。


 そのまま、彼女は黒い魔力を霧散させ消えていく。


「行け……過去と、現在と、未来を繋ぐその先に……」


 フレイヤ(仮)の気配が消失した。


 理性を取り戻したらぜひ再戦したい。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 適当に言ったアドリブが、実はこの世界に深いかかわりのあるワードだったなんて!?
[一言] 超高度な事をしつつ雰囲気で的確に喋ってんじゃねぇ! 超技術による知覚、厨二経験からくる展開予測、主人公補正のどれで当ててきてるのか分からんw
[一言] 面白すぎて、眠れないのがやばいですね。夜な夜な笑ってる自分が怖い。
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