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台座を蹴っちゃダメ

 隠密班として城の内部に潜入したゴルドーは、ラギッタ伯爵の財宝を捜索していた。


「ここにはないな。クイントン、そっちはどうだ?」


「こっちもない。ということは――上の倉庫か」


 ゴルドーとクイントンは廊下の突き当り、上へと続く階段を松明で照らした。


「さっさと見つけろ! 外の連中が全滅したら次はワシらの番だぞ」


 ツルピカーノが焦りの表情で叱責する。


「ツルピカーノさん、大丈夫ですよ。まだ時間はあります」


 ゴルドーは宥めるように言って階段を上っていった。


 クイントンやツルピカーノたちも後に続き、彼らは倉庫らしき扉を見つけた。


「な、なんだ貴様ら!」


「邪魔だ」


「悪いな、死んでくれや」


 侵入者に気づいた衛兵が剣を抜くが、ゴルドーとクイントンの二人が速やかに無力化する。


「どうする、鍵がないぞ」


「問題ない、斬る」


 ゴルドーは金色の魔力を纏い、頑丈な鉄の扉を切り裂く。


 そして、倉庫の中を松明で照らした。


「なんだ、これは――」


 だがそこにあったのは彼らが期待したような財宝ではなかった。


 それは、生物の部位のようだった。


「これは……指なのか?」


 干からびた黒いモノ。


 先端に鋭く長い爪がある。


 だが人の指にしてはあまりに巨大で、ゴルドーの腕より大きいかもしれない。


 その化物のような指が、広い倉庫の中で台座に固定されていた。


「財宝は……財宝はどこだ! こんな気味の悪い物いらんぞッ」


 ツルピカーノは台座を蹴り飛ばし、倉庫の中を歩き回る。


「ワシの財宝は!? どこにあるのだ!?」


「ツルピカーノさん、声が大きいです……」


「うるさい!! 貴様らはワシの言う通り財宝を見つけていればいいのだ!! 探せ、財宝はどこに――ッ」


 突然、ツルピカーノの動きが止まった。


 ツルピカーノの太い腹から、干からびた化物の爪が突き出ていた。


「――なッ! ツルピカーノさん!!」


「クソがッ!!」


 奴隷であるゴルドーとクイントンは、意思とは関係なくツルピカーノを守るよう動く。


 しかし、ツルピカーノは口から血を吹きそのまま絶命した。


 ゴルドーとクイントンは動きを止めて、ツルピカーノの死体と黒い指を見下ろした。黒い指はツルピカーノを貫いたまま、その血を飲み干すかのように吸っていた。


「なんだ、こいつは……」


「わからん。だが、手を出さないほうがいい……退くぞ!」


 ツルピカーノは死んだ。財宝は見つからない。


 彼らがここに居る理由はもうないのだ。


「悪いが、これを見た以上逃がすわけにはいかん」


 その時、彼らの背後から低い声が響いた。


「何者だ!?」


「貴様は――ラギッタ伯爵!?」


「ほう、私を知っているのか……」


 そこにいたのはこの城の城主、ラギッタ伯爵だった。


 一見するとどこにでもいる中年の貴族である。しかし背筋は伸び、無駄な肉が付いていない。眼光は鋭く、クイントンとゴルドーの動作を把握している。


「クイントン、気を付けろ」


「ゴルドー、分かっている」


 彼らは慎重に距離を取る。しかし出口はラギッタ伯爵の背後だ。


「面倒な仕事を増やしてくれたものだ。あとは教団に渡すだけだったというのに……」


「教団……? どういうことだ。この指はいったい何なんだ」


「フッ……これは間違いなく、貴様らの探していた財宝だ」


「これが財宝だと……?」


「価値が分かる者にとってはな。さて、お喋りは終わりにしよう」


 ラギッタ伯爵は腰の剣を抜いた。それは、使い込まれた実戦用の剣。舞剣士用のものではない。


「――ディアボロスの贄となれ」


 そして、一陣の風が吹いた。


「ガハッ!?」


「グァァッ!」


 クイントンとゴルドーの体から血が噴き出す。


 二人は膝を突いた。


「ほう――まだ生きているか」


 ラギッタ伯爵の目にも止まらぬ一撃を受けた二人だったが、彼らはかろうじて反応していたのだ。


 ゴルドーは危険を察知し後ろに跳び、クイントンは勘で身を引いた。


 それが、彼らの命を繋ぎ止めた。


 だが、生き残ったのはその二人だけであった。彼らと共に潜入していた隠密班は、残らず肉塊と化していた。


「ク、クイントンッ……無事か」


「な、なんとかな……」


 だが、二人の傷は深い。


 立ち上がり剣を構えるも、次は防げそうにない。


「少し見くびっていたか――いや、私の腕が落ちたか。どちらにせよ、次で終わりだ」


 ラギッタ伯爵が再び剣を構え、二人の顔が歪んだ。


「くそ、せっかく奴隷から解放されたのに……」


「道場も悪くねぇって思ってたんだがよ……」


 その時、外で膨大な魔力が爆発した。


「何ッ――!」


「なんだこれはッ――!!」


「なんて魔力だッ――!?」


 小さな窓から夜空を見上げる。


 そこにあったのは、巨大な黒い薔薇だった。


「これは、薔薇……?」


「魔力の薔薇だ、凄まじい魔力が凝縮されているッ……」


「な――そんな『黒き薔薇』だとッ!? バカな、何故だ――!?」


 ゴルドーとクイントンの驚愕をかき消すほど、ラギッタ伯爵は狼狽していた。


 目を見開き『黒き薔薇』を凝視する伯爵の姿は尋常ではなかった。


「あり得ない! なぜだ、鍵はまだ――」


 そして、夜空に浮かぶ黒き薔薇が砕けた。


 砕けた薔薇は花弁となって舞い落ち、ゴルドーとクイントンの元へも降ってくる。


 花弁は二人の右手に触れて溶け、そこに黒い花弁の痣を残す。


「なんだこれは――」


「傷が、癒えていく――」


 花弁に触れた二人から魔力が溢れ出し、重傷がたちまち癒えていった。


「力が溢れる……」


「この力は、いったい……」


 ゴルドーとクイントンから、陽炎のように黒き魔力が吹き出る。


「こ、これが伝説の『黒き薔薇』の力ッ――!! これほどの魔力ッ、ここで始末するしかッ!!」


 焦燥に駆られた伯爵が、二人に襲いかかった。

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