僕の目指した陰の実力者
僕はスライムウィングで吹雪の空を飛びながら考えていた。
マクシミリアンとの戦闘を終えたのはつい先ほど。収容所をアトミックレインで跡形もなく消し飛ばしたとき、僕はふと思ったのだ。
――本当にこれでよかったのだろうか。
これが、僕が目指した陰の実力者なのだろうか。
これまでの陰の実力者ムーブを思い出す。僕は、僕が思う陰の実力者を演じてきた。そのはずだった……。
だけど、なぜだろう。どこか物足りないと感じてしまうのは。
何が足りないのだろうか。
それとも、どこかでズレてしまったのだろうか。
いやまさか、これがマンネリ化というやつなのだろうか。
「うーむ」
原因は分からない。
だけど、たった一つはっきりしていることがあるとすれば、僕は今物足りなさを感じているということだ。
そもそも昔の僕は、前世の僕は、どんな陰の実力者を目指していたのだろう。そう思い返してみた。そして分かったことがある。
何でもよかったのだ。僕は、陰の実力者っぽい事であれば、それが何であれよかったのだ。
だから僕には、明確な陰の実力者像というものがないのだ。
目指すべき陰の実力者のカタチが存在しないのだ。
ただ漠然とした陰の実力者っぽい行動をしているだけなのだ。
もしかしたらこれが、僕が感じている物足りなさの原因なのかもしれない。
「……このままでいいのかな」
この感情が一時的なものなのか、それともこの先ずっと続くものなのか。それすら分からない。
だけど、この感情を抱えたままでは陰の実力者として心から楽しめることはないだろう。
「何とかしなきゃ……」
陰の実力者にとって本当に大切なモノは何なのか整理して考えるのだ。余計な装飾を捨て去って陰の実力者の本質を見極めるのだ。その先に、きっと答えがあるはずだ。
だから僕は――モブになろう。
僕にとって幸運なことにオリアナ王国はまだまだ不穏な雰囲気だ。
そこでモブの視点に立って考えるのだ。
モブから見た陰の実力者とはどのような存在なのか。
僕はそこで、何をなすべきなのかを……。
そんなふうに、僕は超久しぶりに頭を使って考えていた。
全神経を思考に集中していたせいで接近するそれに気づかなかった。
「へぶっ!?」
ビタッと、僕の顔に突然何かが張り付いた。
僕はその何かを顔から剥がして首を傾げる。
「紙だ……吹雪で飛ばされたのかな」
何か書かれている。
雪で少し滲んだ字を僕は指でなぞりながら読んでみた。
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僕は紙を握りしめガッツポーズした。
「これだ!!」




