そろそろ出番かな?
反撃が始まった。
国王派の囚人たちは魔力を纏い看守に斬りかかる。
「トリプル・トルネード・スラッシュ!!」
とか叫びながら、三回ほど宙で回転し剣を振る。
実に無駄な動きであるが、これが舞剣士の日常だから仕方がない。
しかし看守の動きも負けていない。
「スウェーバック・スピン!!」
と叫びながら上体を反らし、看守は剣を回避する。ここまではいい。
だが、なぜその場でくるくると回るのか。
確かに両者が回転しながら剣を繰り出し、回避する攻防は無駄に見ごたえがある。
演出を重視するという点では陰の実力者の道にも通じる部分があるが、やりすぎは禁物であると僕は学んだ。
「バタフライ・ステップ!!」
「デス・スパイラル!!」
技名を叫ぶのは技術点を得るために必要なことらしい。
剣道で「面、胴、小手!!」と叫ぶのと一緒だね。
僕が目指す「強さ」とは全く別の方向に進んでいて、むしろ逆に面白い。戦いに何を求めるのか、それは人それぞれ違うのだ。
彼らは彼らで真剣に戦っている。誰もふざけてなんかいない。
ただ単純な勝利ではなく、そこに美学や信念があることが戦いの中で読み取れる。
強さではなく、美しさに特化した動きの中で、互いに勝利をもぎ取ろうと懸命に戦っている。
彼らは、彼らのルールの中で戦っているのだ。
不覚にも、こういう戦いもあるのかと僕は少し感動した。
戦いは何でもありで強さこそ全て――それは確かにその通りだ。僕が目指す強さもその中にある。
だけど、だからといって、彼らのこの戦いを否定していい理由にはならない。
僕は久しぶりに、自分以外の誰かの戦いを手に汗握りながら見守っていた。
がんばれ!!
どっちもがんばれ!!
いいぞ、そこだ、金玉に蹴り入れろ!!
違う、回るな、金蹴りだ!!
あああ、もういい、そこで目潰しだ!!
だから回ってんじゃねぇ、何でやらねぇんだよ!!
噛みつけ、頸動脈を食い千切れ!!
うあぁ、もう、もどかしい……だがそれがいい。
もしかしたら金蹴りや目潰しは反則なのかな。でも美しくやればセーフでしょ。
大晦日にテレビで格闘技を楽しんでいた幼い自分を思い出す。あの頃はまだまだ未熟だったものだ。
そういえば、もうそろそろ今年も終わりだな……。
そんなことを考えていると、形勢はかなり国王派が有利になったようだ。
看守たちは多くが倒れている。大きな傷はないが、体力の限界のようだ。
そりゃ疲れるわな。
そして国王派の人たちも、そんな彼らに止めを刺そうとはしない。
なんだろう、やっぱりそこには僕の知らない信念があるみたいだ。
騎士道とか、武士道とか、どれもよくわかんないけど、彼らには舞剣士の「道」があるのだ。
舞剣士同士の戦いで、人はあまり死なない。
もしかしたら舞剣士は戦いにおいて僕らのはるか先にいるのかもしれない。
世界中の争いがこんな風になれば、それはきっと人類にとって幸せなことなのだ。
僕にとっては不幸だけどね。
僕はもっと原始的な暴力で全てが解決する世界が大好きなのだ。僕にとって、この世界は少し平和すぎる。
そして決着がついたようだ。
「俺たちの勝ちだ! 道を開けてもらうぞ」
「ち、ちくしょう……」
「勝ったのね、よかった……」
クララもほっと息を吐いた。
うん、これでハッピーエンドかな。あれ、でもここで終わると僕の出番少なくない?
あ、でも収容所編はこれで終わりだけど収容所出た後にまだいろいろありそうだし……。
僕が強引に出番を作りに行こうか悩んでいると、一人の男が動いた。
「本当に、余計なことばかりしてくれる……」
国王派の彼はそう呟き、突然味方に斬りかかったのだ。
背中を切られた中年の男が倒れる。
「バット!! バット、お願いしっかりして……!」
クララが叫び、倒れた男に駆け寄った。
「グイン!! あなた、何をして……」
そして、突然味方に斬りかかったグインに問いかける。
「目障りだったんですよ。私の邪魔をするこの男も、そしてあなたもね」
「グイン、何を言っているの……」
「つまり、こういうことですよ」
そう言って、グインはクララの首に剣を当てる。
「私はあなたのような小娘に命を預ける気なんてないんですよ」
「そ、そんな、グイン、あなたは私を信頼していると言ってくれたのに……」
「嘘に決まっているでしょう。あなたには人の上に立つだけの能力がない。みんな、陰であなたの事をバカにしていましたよ。部下の顔色を窺ってばかりの風見鶏だってね」
クララの顔が泣きそうに歪んだ。
グインはそんな彼女を嘲笑し、僕はそろそろ出番かなと準備した。
――その時。
「よくやったグイン」
そう言って現れたのは、灰色の髪の美青年――マクシミリアンだった。