平凡な少年の正体は――!?
ドエム派に占拠されたオリアナ王国の裏路地で、僕は下っ端兵士たちに追い詰められていた。
「怪しい奴め。殺せ」
そう言って剣を抜く下っ端兵士に、僕は頭を下げて許しを請う。
「い、命だけは、命だけは助けてくださいッ――!」
「――死ね」
しかし僕の願いは無視されて、剣が振り下ろされる。
僕は溜息を吐いて、その剣を蹴り飛ばした。
キンッ、と。
甲高い音を立てて半ばで折れた剣が飛んでいった。
「――なッ!?」
「そこは『怪しい奴め、捕らえろ!』って言ってほしいんだよね」
呆然とする下っ端兵士たちに僕は言う。
「なッ、貴様何を言って――!?」
「僕は内乱に巻き込まれた一般市民になりたいだけなんだ……」
無実の罪で捕らえられた平凡な少年。
だが彼を捕らえた反乱軍では、夜な夜な兵士が失踪する不可解な事件が起きる。一人、また一人と消えていき、最後に残ったのは幹部と平凡な少年だけだった。
果たして彼の正体は――どう? 面白くない?
「こいつ、普通じゃねぇぞ……」
僕を囲む下っ端兵士たちが一斉に剣を抜く。
「君たちで10組目だ。いい加減飽きてきたなぁ」
僕がそう呟くと、兵士たちの中から上司っぽい人が前に出てきた。
「王都で最近起こっている同志たちの暗殺事件は貴様の仕業か? こんなガキが、まさかな……まぁいい、念のため捕らえて調べ――」
「もう遅いよ。僕がなりたかったのは『平凡』な少年なんだ」
そのまま、僕はスライムソードで男の首を撥ねた。
首だけになった彼の視線が虚空を彷徨い、月明かりが差し込む路地裏に赤い血が舞う。
「き、貴様ッ!? こ、殺せ――ッ!?」
「11組目に期待かな……」
僕はスライムソードを適当に振って、下っ端兵士たちを処理していった。
これはこれで暗殺者っぽくていいんだけどね、
サクッと処理を終えて、血の匂いが立ち込める中、僕は自分の服を確認する。
大丈夫、返り血は浴びてない。
今回も失敗だったけど、成功の手掛かりは掴んだ気がする。
現在王都を占拠している人たちがいて、彼らの同志が暗殺される事件が起こっているらしい。
多分、だいたい僕の仕業だと思うけど。
つまり、スパイ容疑というか暗殺者疑惑で捕らえられる方向性がベストかなぁ。あくまで冤罪のモブっぽい感じで。
それならあえて返り血浴びる選択もあったか。いや、でもさすがに露骨すぎるよなぁ。
悩みながら裏路地を出ようとすると、近づいてくる複数の気配を感じた。
音や魔力で距離と人数を把握する……七人、兵士かな。
きっと彼らの仲間だ。
「あ、いいこと思いついた」
僕は路地裏の前で尻もちをついて、そのまま彼らが到着するまで待つ。
そして――。
「し、死体が、路地裏に死体が……!」
兵士たちの姿が見えると、僕は路地裏を指さして震える声で言った。
涙目になって細かいモブアピールも忘れない。
「何!? まさかまた奴が――」
慌てて路地裏に駆け込んでいく兵士たち。
「まただ! また殺られたッ!」
「クソッ、捕まえたら絶対に殺してやる!」
「おい、貴様! 犯人を見ていないか!?」
兵士の一人が、腰が抜けたふりをした僕を問い詰める。
「ぼ、僕は何も……何も見てません……」
プルプルとビブラートをかけて僕は言う。
「貴様、この国の人間じゃないな?」
兵士の目が鋭くなった。
「は、はい。ぼくはミドガル王国の学生です……」
「ミドガル王国の学生が、この時期にわざわざオリアナ王国の王都になぁ……」
「ち、知人が心配で……本当です、信じてくださいッ!」
兵士は鋭い目で僕を睨んだ。
「まぁいい。もう一つ聞くが――こんな深夜に出歩いて何をするつもりだった?」
「よ、夜風に当たろうと……」
「夜風に当たろうとした? 今、このオリアナ王国の王都で、深夜に夜風に当たろうとする人間がいると思うか?」
「ほ、本当です! まさか、僕を疑っているのですか!? ぼ、僕にはこんな、こんなひどいことできません!」
「ふん……」
兵士はジロリと僕を一瞥し、路地裏の奥へ視線を移した。
「9人の兵士が、いずれもたった一太刀で殺られている……確かに貴様にできるかは疑わしいが……剣を見せろ」
「は、はい……」
僕は自分の剣を差しだす。
僕の腰にはモブ用のノーマルソードが差してあるのだ。
「安物だな……使われた痕跡もない」
「し、信じてくれましたか……?」
「確かに貴様が殺った可能性は低いだろう」
「よ、よかった……」
「だが、疑いが完全に晴れたわけではないし、そもそも怪しいことに変わりはない」
「そ、そんな……!」
「おい、こいつを捕らえろ!」
「し、信じてください、お願いします! 僕は善良かつ平凡な一般市民なんです!」
よし、モブっぽいけど微妙に怪しいから捕まるルート入った!
僕は心の中で勝利のガッツポーズをしながら、兵士たちに縛られて連れていかれたのだった。