貴様は俺を怒らせた……
僕は無法都市方面のルートを徹底的に警備して地下施設に戻った。
そろそろユキメも帰ってくるはずだ。
彼女は馬車に金貨をたんまり載せてくるだろう。
それを待って地下金庫の金貨を回収して撤収する。あとは信用崩壊が起こる様子を高みの見物していればいいのだ。
そしてジョン・スミスは高層ホテルから王都を見下ろしながら足を組んで呟くのだ。「計画通りだな。崩壊が始まったか……」と。そして最高級ワインを口に含み、テーブルの上の金貨の山を横目に意味深に微笑む――。
かっこいい。
僕はそんな妄想をしながら地下施設の通路を進んだ。
しかしやけに静かだな。
作業員は全て撤収したけど、まだ警備の人が残っているはずなのに。
暇すぎて寝ちゃったかな。まぁ僕が頑張りすぎて誰もここまでたどり着けなかったからね。
「ふふふ……」
僕は白い歯を見せながら軽い足取りで進みそして金庫の前まできて足を止めた。
「あれ……?」
金庫、開いてるんだけど……?
それも鍵で開けられた様子ではない。無理やりこじ開けられたような……。
「そ、そんな、まさかね……」
僕の警備は万全だったはずだ。
無法都市方面からは鼠一匹も通していないのだ。
足が震える。
手も震える。
冷汗が吹き出る。
「だ、だだだだ、大丈夫だよきっと……」
そして僕は半開きの金庫の扉を開けた。
中は――空っぽだった。
あの、高く積み上げられた黄金の山が、跡形もなく消え去っていた。
「う、うそだ……」
膝から力が抜けて、僕はその場に崩れ落ちた。
「なんで、どうして……」
僕の金貨が……。
「は、はっはは、夢か……いや、ドッキリだな……僕は『陰の実力者』になるんだ……」
僕はプルプル震える手で崩れたオールバックヘアーを整えて立ち上がる。
大丈夫、きっと大丈夫。
ユキメが何か理由があって持ち出したのかもしれない。
仮に誰かに奪われたとしても大量の金貨を持ち出すには時間がかかる。よほど手際が良くなければそう遠くには行けないはずだ。
僕はガクガク状態の膝で金庫を出た。
そして近づいてくる二つの気配を感じ平静を装った。
「――ジョン様!!」
僕の名を呼んでかけてくる二人のセクシー美女。
ユキメの側近の、ナツとカナだ。
ただ事ではない様子の二人に僕は問いかける。
「何があった?」
何かあったでしょ、何かあったに違いない、なんたって金庫がきれいさっぱり空になっているのだから。
「ユキメ様が――ユキメ様が、月丹に捕らわれましたッ!」
「何……だと……?」
ユキメが……月丹に……そうか!
頭の中で全てがつながり、僕はクツクツと嗤った。
「ジョン様……?」
「つまりは、そういうことか……」
怪訝そうなナツとカナに、僕は金庫の扉を開いて見せた。
「こ、これは――ッ!」
「ま、まさか奴が――!! でもちょっと早すぎるような……」
驚愕に目を見開く二人。
「奴の居場所は分かるか」
「は、はい……!」
「なら問題ない。すぐ取り返す」
そして僕は二人の間を通り抜けて、魔力を爆発させ大気を震わせる。
「す、すごい魔力ッ!?」
「こ、これがジョン・スミスの本当の実力!?」
さらに鋼糸を操りシュシュシュシュシュと空気を切り裂き美しき光の線を描く。
「月丹よ……貴様は俺を怒らせた……!」
さぁ、報復の始まりだ――。