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ついにこの日が来た!

 ついにこの日が来た。


 偽札工場を作ったあの地下施設、今はもう工場は停止して残った僅かな作業員が撤収作業をしている。


 偽札工場はもう、役目を終えたのだ。


「ジョンはん、これを見てくんなまし」


 僕はジョン・スミスの姿で、ユキメに促されるまま大きな鉄の扉を開けた。


 そこに、天井高くまで積み上げられた大量の金貨が現れた。


「素晴らしい……」


「偽札のほとんどは換金を終えんした。十分でありんしょう」


 地下の最奥、ここは姉さんが捕らわれた牢屋を改修し巨大な金庫にしたものだ。


 僕は光り輝く数え切れない量の金貨に胸がいっぱいになった。


 この偽札工場はまだバレていない。


 大商会連合もミツゴシ商会も無法都市までは辿り着いたようだったが、そこから先は僕が学校をサボって昼夜問わず見張りをした。


 そして無法都市からこの地下施設への流れを完全に断ち切ることに成功したのだ。


 ミツゴシ商会のみんなも頑張っていた。だけど彼女たちはやりすぎて大商会連合と敵対してしまったのだ。


 海千山千の大商会相手にチート知識だけの彼女たちでは戦いにすらならない。


 ならば僕が『世界の商を支配する陰の大組織のボス』になろう。


 ミツゴシ商会は新たに作る『J&Y商会』に吸収されて、僕はそこで本物の『陰の実力者』になるのだ。


 彼女たちには恨まれるかもしれないが甘んじて受け入れよう。


 それもまた『陰の実力者』の道――。


「後は用意した本物の紙幣を大商会連合で換金すれば、お終いでありんす。大商会連合にこれほどの量の紙幣を換金する能力はありんせん。信用崩壊の始まりでありんす」


 ユキメは偽札を流通し換金すると同時に、本物の紙幣も回収していた。


 最後に残ったこの本物の紙幣を、大商会連合で換金することで崩壊が始まる。大商会連合に換金能力はもうほとんど残っていない。その事実が明るみになり、取り付け騒ぎが起こる。そして大商会連合は崩壊するのだ。


 取り付け騒ぎはまず間違いなくミツゴシ商会にも広がるだろう。


 大商会連合が崩壊すれば人々は当然こう思うはずだ。「ミツゴシ商会は大丈夫なのか?」と。


 そして最後の残った僕らが、この大量の資金で彼らの資本を買い漁り、『J&Y商会』を設立する。


 以上がユキメの計画らしい。


 細かいところは違うかもしれないけど。だいたいこんな計画だったんじゃないかな、多分。


「そうだな。流通する通貨の総量が増えたことで物価の上昇も始まっており、その上昇率は……」


 僕はベータの報告をさりげなく披露し、しっかり情報収集能力と知識をアピールする。


「ジョンはん、そこまで調べていんしたか……」


「当然だ」


「ジョンはんを味方にして正解でありんした。この計画はジョンはんがいなければ成功しなかったでありんしょう」


「俺だけの力ではない。ユキメの力も大きかった」


「嬉しい言葉でありんす」


 ユキメはニッコリと微笑んだ。


 僕らはどちらともなく手を差し出し、握手を交わす。


「それでは、おしまいの仕事といきんしょう。ジョンはんは引き続き無法都市とこの施設の間を警戒してくんなまし」


「分かった」


「わっちはその間に、この紙幣を大商会連合で換金してきんす」


「――ん?」


 ユキメの言葉に、僕は違和感を覚えた。


 大商会連合に参加しているユキメの商会は『雪狐商会』だ。代表として彼女の幹部のナツとカナが会合に参加していた。


 ユキメはこの計画で、まだ一度も表に立っていないはずだ。


 なぜならユキメは僕と一緒に『世界の商を支配する陰の大組織のボス』になるからだ。表には立たないはずなのだ。


「ユキメ自ら行く必要があるのか?」


 もちろん『雪狐商会』の代表であるナツとカナに行かせるわけにはいかない。


 しかし、ユキメがいかなくても他の人に行かせればいいのだ。


 ユキメも『陰の実力者』なのだから、陰に隠れるべきなのだ。


「これは、わっちが行くことに意味がありんす」


 ユキメは目を逸らし、少し悲しそうに微笑んだ。


 そっか。


 まあ、人それぞれ美学ってものがあるからね。


「わっちの片思いでなければ、ジョンはんともだいぶ仲良うなれたと思いんす。少し、わっちの昔話を聞いてくんなまし……」


 そう言って、ユキメは話し出した。


「前に、幼いわっちが母上と暮らしていた話をしんしたね。その続きでありんす。


 母上が狩りに出かけた隙に、わっちの村は敵対部族の襲撃にあいんした。三本尻尾の母上以外、ほとんど戦える力のなかった村人たちは逃げ惑い、わっちもベッドの下に隠れて震えていんした。でもすぐに家の扉が蹴破られ、わっちの隠れている部屋に男たちが入ってきんした。


 わっちはベッドの下から引きずり出されて、下劣な目で見られたのでありんす。もうおしまいかと思ったその時、窓から一人の男が現れて下劣な男たちを切り捨てたのでありんす。


 その男はわっちらの部族と同盟を結んでいた大狼族の援軍で、艶のある漆黒の耳と尾を持つ美青年でありんした。


 彼は月丹と名乗り、わっちを安心させるように微笑んで抱きしめてくれんした。わっちが14歳、月丹が17歳の頃の話でありんす……」


 ユキメの澄んだ水のような瞳は、遠い昔を懐かしんでいるようだった。





 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇





 月丹との出会いがユキメの初恋だった。


 敵対部族からの襲撃の後、ユキメの村は大狼族の協力もあって復興が進んでいった。


 当時、大英雄シヴァが倒れたばかりで、獣人の国は戦乱の世だった。力のある部族は他の部族を侵略し、次の大英雄にならんと力を求めていた。


 そんな中、同盟をより強固なものにしようとする動きが出るのは当然だった。


 そして村唯一の三本尻尾の娘であるユキメと、大狼族の族長の息子である月丹が婚約の相手に選ばれたのだ。


 月丹に憧れていたユキメは喜んで受けた。ユキメの母もユキメを助けた月丹を気に入っていたし、月丹も美しいユキメを少なからず想っていた。


 二人は皆に祝福され婚約することになったが、正式な結婚はユキメが成人する15歳になってからということになった。


 正式に結婚するまで、まだ二人は一緒に暮らすことができない。


 二人は別々の村で暮らし、月に何度か月丹がユキメの村を訪れる。そのかけがえのない時間を二人は大切にした。


 それがユキメの人生で最も幸せな時間で、彼女は結婚する日を想いながらずっとこんな日々が続けばと願っていた。


 しかし、平穏は長くは続かなかった。


 近くで大部族の衝突が起こり、妖狐族と大狼族はそれに巻き込まれていったのだ。

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― 新着の感想 ―
[一言] んー、この辺のストーリーはやってることの無駄感があって微妙。 ていうか金本位制をスルーして通貨の信用創造って市民の理解する段階的に無理くねーかな。 いや金貨を発行してる国家の方が無視するの…
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