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「わたしのことは気にしないで」

 ほら続けて続けて、と促してみるも――どうやら両者は完全に戦意を削がれてしまったようだ。くそう、あの筋肉共め。

「大体なんでこんな所に女がいるんだ」

「いちゃ悪い?」

 お前それさっきも言ったな。ひょっとして男尊女卑主義者か?

「無礼な口を叩くな勇者よ。このお方は我の師匠にして我ら魔王を統べる魔神だぞ」

「な!? 魔神だと!」

「ラグ! このお莫迦」

 せっかくか弱い一般人を演じようと思ったのに台無しじゃないか。それにわたしを魔神と呼ぶなと何度言えば分かるんだ。

「なぜですか師匠!?」

「待て、魔神ってのはどういうことだ!?」

「お答え下され、師匠!」

「煩い」

 そしてもう色々ぐだぐだだ。三人が三人、それぞれ別方向に疑問や関心を持っているせいで収拾がつかなくなってきた。どうすんだこれ。

「もういい! これだけはっきりしろ。お前は俺の敵なんだな?」

 最初に切れたのは勇者だった。若いもんは切れやすくて嫌だね。……まあ同年代なんだろうけど。たぶん二十歳前。言動からして十五、六って所かな。色々と患っている次期だ。この次期に上手く処方しておかないと不治の病と化すぞ。

 そんな勇者くんを改めて見てみる。ごてごてしたこっちの世界の鎧を身に纏い、険しい目付きでわたしを睨んでいた。ま、日頃からリリに鍛えられ(睨まれ)ているわたしからしてみれば、全く大したことないんだけどね。髪は茶髪。これは染めてるんだろうな。この世界に来てからそれなりに日数が経っているのだろう、上三分の一くらいは黒髪になっていた。いわゆるプリン頭だ。それにしても軽そうな男だ。わたしのタイプじゃない。

「答えろ! お前は敵なんだな!?」

 煩いなあ……。こんなに近いんだから怒鳴らなくたって聞こえてるよ。軽男(かるお)の上にかまってちゃんか。目も当てられないな。

「あんたが勇者なら、そう」

 仕方がないので相手をしてやる。

「なるほど。なら魔王もろとも纏めてたたっ切る!」

「そう、頑張って」

 おまけに短絡的だ。敵・即・斬ってか。どこの組長だ。

「なに他人事みたいに言ってんだ、お前を斬るって言ってんだよ! ついでに仲間の敵討ちだ!」

 そんなの分かってるし。皮肉の通じないやつって嫌だね。知性がないから会話する気にもならないよ。

 そんなことより勇者くんが口にした仲間というフレーズが引っかかる。ついさっき戦場に到着したばかりのわたしは戦闘らしい戦闘なんてまるでしていない。それで仇と言われても困るな。……もしや人間の得意技、勘違いからの逆恨みコンボか?

「お前がさっき吹っ飛ばした三人だよ!!」

 表情から読んだのか、勇者くんが親切に説明してくれた。それで思い出す。ああ、いたねえそんな三人組。元から障害物って認識しかなかった上に、勇者くんが騒々しいから完全に記憶から飛んでたよ。

「大丈夫、峰打ちだから」

 手にした剣を掲げてみせる。

西洋剣(それ)にそんなもんあるかっ!!」

 気色ばむ勇者くん。まったくもう。

「これだから(わび)(さび)を理解しないやつは」

 世の中には鉄の棒で思いっきり急所を強打して、「大丈夫、逆刃だから」と不殺を謳う寡夫だっているのだ。それに比べれば可愛いもんだろう。

「はあ、はあ。くそっ。なんで俺はこんなに疲れてんだ……」

 愚痴る勇者くん。そりゃあそんだけ大声上げれば息だって切れるだろうさ。

「自業自得」

「明らかにお前のせいだろうがっ!」

 まあた無責任な責任転嫁が始まったよ。これだから人間ってやつは。

 脇ではラグが、「勇者をこうも容易く翻弄するとは、さすがは師匠……」なんて勘違いして感心している。違うぞ、ラグよ。わたしがしているのは翻弄じゃなくて問答だ。でも、それも終わりだね。

「はあ。疲れるだけだしもういいや」

 同じ喚び出された人間としてどう考えているのか、多少の興味があったのだが、どうやら勇者くんはこの世界にどっぷりと嵌まり込んでいるらしい。ならもう話すことはないかな。

「師匠、お下がり下され。此奴めは我が片付けます」

 会話の終了を見極めたのか、控えていたラグがずいと前に出る。

「いい。わたしがやる」

 大体あんた、さっきまでやられかけてたでしょうが。だからわたしが呼ばれた(来た)んだよ。

「なんだ、選手交代か? ――まあいい、お前等はこの俺、勇者・八原颯太が成敗してやるよ!」

 名乗りを上げた勇者くんが、手にした剣を構え直す。むう、名乗られたからには名乗り返すのが礼儀。

「浅井藤花」

 わたしも名乗り返し、ラグを押し遣り前に出る。剣は無造作にぶら下げたまま。所詮素人の付け焼き刃(体育剣道)だ。構えようが構えまいが大差ないだろう。

「ん? 浅井藤花って――お前、日本人か!?」

 わたしの名乗りを聞いたとたん、素っ頓狂な声を上げる勇者くん。それ以外のなんだと思ってたんだ、まったく。

 基本わたし達の感覚でいうところの西洋ファンタジーなこの世界に、黒髪黒目の人間はいない。それは魔族にもいえることで、「師匠は変わった色合いをしておりますなあ」なんて褒めてるんだか貶してるんだか判別しがたい感想をラグは漏らしていた。

 まあそういうことだから、黒髪黒目=日本人と考えて間違えないのだ。ま、最近じゃ勇者くんみたいに染めてるやつも多いけどね。ところがどっこい、わたしは天然物なのだ。

「浅井藤花……浅井藤花……どっかで聞いたような…………」

 そして勇者くんはわたしの名前をぶつぶつと繰り返し、なにやらお考えのようだ。一頻り記憶を手繰ったあと、ようやっと思い至ったのか、わたしを指さし勢いよく叫んだ。

「お前が魔女かっ!!」

「魔女って言うな!!」

 言われたわたしは、間髪入れずに叫び返したのだった。

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