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「マスターの変更は後からでも出来るの?」

 真の脳筋はわたしだったいう衝撃の真実から全力で目を背け、質問を再開する。

「可能です。しかしその際は、現マスターと新たにマスターとなられる両名の承認が必要となります」

 ふむふむ。後出しOKと。

 じゃあ次。

「マスターの任期は?」

「譲渡、ないしは本人が死亡するまでとなります」

 つまり任期なしってことか。

「破棄は出来ないの?」

「可能ですがお勧めは出来ません」

「どうして?」

「一方的な契約破棄の代償はマスターの生命だからです」

 怖っ! なのその闇金みたいなシステム。まあ闇金の方が命までは取られないからまだまし……か? いやいや、臓器取られるのだって嫌だ。ものによっては十分死ねるし。つまりどっちもお断りだ。

「じゃあマスターが交代しないまま死んだり殺されたりした場合は?」

(わたくし)に貯蔵された魔力が尽きるまではマスターの最後の命令を実行し、以降は休眠状態へ移行します」

 どうやら今まではこの状態だったようだ。そして新たな人物がコアを手にすると、その魔力で再起動するらしい。つまり今の状態だ。

 質問を続けよう。

「〈ダンジョン創造〉は魔王の固有魔法だって聞いてるけどその辺はどうなの?」

「問題ありません。私はその為に作られたのですから」

 心なしか胸を張っているように聞こえる。まあこの玉っころに胸なんてないんだけどね。気分や雰囲気の問題だ。

「マスターの魔力の続く限り、ダンジョンに関するあらゆる作業が実行可能です」

 所謂魔道書みたいなものか。

「魔王の使う〈ダンジョン創造〉とあなたを通して行う〈ダンジョン創造〉、効率がいいのはどっち?」

「消費する魔力量は変わりません。得られる結果も同様です」

 むう、ここは変わらないのか。じゃあ仮にラグをマスターにした場合は、やっぱり一階層増やすのに二日かかることになる。そうするとラグにマスターをやらせても旨みがない。

「マスター以外の人物が魔力を注ぐことは出来る?」

「不可能です」

「マスター以外の人物がコアを使うことは?」

「不可能です」

「一つのダンジョンに対してマスターと魔王が同時に干渉することは出来る?」

「不可能です。一つのダンジョンに対し同時に干渉が為された場合、マスターの干渉が優先となります」

 融通が利かないな。これじゃあますますラグがマスター登録するメリットがない。じゃあわたしがした場合はどうなんだろう?

 コアの言葉を鵜呑みにするならば、ラグよりわたしの方が魔力量が多いことになる。早速聞いてみたところ、わたしなら一日五階層は増築、整備出来るとのこと。単純計算でラグ(魔王)の十倍だ。それだけの魔力をひたすら肉体強化に費やすわたし。……やめよう、考えたら負けだ。

「どうしようか?」

 取り敢えず相談してみる。

「どうするもなにも、師匠がマスターとやらになればよろしいのでは?」

 うん、ラグならそう言うと思った。わたしもそれが一番効率がいいのは分かってるけど、デメリットがなあ……。いつでも気軽に辞められないのはちょっときつい。まあ最悪ラグに押しつければいいか。なら問題ないのか? いや、待てよ。

「大穴でリリとか」

 すっかり傍観者を決め込んでいる目付きの悪い幼女(メイド見習い候補)に振ってみる。

「私を巻き込まないで下さい」

 即座に拒否された。声音が氷点下だ。ちょっと言ってみただけなのにそんなに怒らなくてもいいと思う。

 まあ仕方ない、わたしがやろう。これも安全な異世界生活の為だ。

「決まりましたか?」

 堪え性のない玉っころもせっついてくることだし。

「では速やかに契約を」

 ぐいぐい迫ってくる玉っころ。イメージはあれだ。兎とよく似た格好の地球外生命体――の、端末って設定だったかな? うろ覚えだ。決め台詞は「僕と契約してダンジョンマスターになってよ」。エントロピーがうんたらとか言いだしたら馬脚を現すサインだ。うん、実に胡散臭い。が、仕方ない。背に腹はかえられないのだ。ああ、世の中って無情。

「わかった」

 コアが一際強い光を発し、魔法陣らしきものが浮かび上がる。

「お名前をどうぞ」

「浅井藤花」

「個体識別名――浅井藤花――登録完了――。魔力パターン――登録完了――。では最後に、血液の提供をお願いします」

「……え?」

 血がいるんかい。こういう場合のお約束と言えばお約束だけど、出来ればやりたくなかったなあ。自分で切るのはおっかないしね。そもそも刃物持ってないや。

「……ラグ、やって」

 なので頼れる魔王に一任する。

「はっ。お任せを」

 言って大剣を引き抜く魔王。おい待て、それで切る気か!?

「少しでいいんだからね」

 慌てて釘を刺す。ラグのやつは「心得ております」なんて笑ってるけどほんとかよ。

 ラグの大剣が人差し指に宛がわれる。

「いきますぞ」

「うん」

 すっと引かれる大剣。わたしの指先に小さな痛みが――走らない。どうやら思っていたほど痛くはないのもらしい。或いはラグの切り方が上手いのか。なんて考えていたら、

「師匠、強化を解いて下され。これでは剣が欠けてしまいます」

 ラグから苦言を呈された。どうやら恐怖心から無意識のうちに頑丈を発動させていたようだ。道理で痛くないわけだ。そしてチキンと言うなかれ。例えちょっとだろうと怖いものは怖いのだ。

「うぅ、ごめん……」

 いやいや頑丈を解除しようとして、

「そういえばどうやって解除するの?」

 根本的な疑問に行き当たった。発動はある程度任意で出来るが、解除は今まで試したことがなかった。その必要がなかった、と言い換えてもいい。気付けば解除されていて、それで問題なかったからだ。

「師匠の能力なのですから、師匠に分からないのなら誰にも分からないのでは?」

 ラグの言い分ももっともだ。どうしよう?

 これまでの解除条件から鑑みるに、おそらくは緊張や恐怖状態から脱すればいいのだろう。よし、リラックスだ。力を抜いて、深呼吸。

「よし。お願い」

「ははっ」

 剣を一閃させるラグ。おいっ!

 思わず超視力を発動して全力で回避してしまった。

「師匠、よけないで下され」

 文句を言うラグ。無茶言うな。だったらあんなスピードで振り回さないでくれ。

「ふむ。師匠が構える暇もなく切ってしまえばいいと思ったのですが、どうやら我程度の腕前では土台無理な相談だったようですな。さすがは師匠」

 心臓に悪い気遣いをどうもありがとう、弟子よ。

 ラグの中でのわたしの株は上がったようだが、わたしの中でのラグの評価はだだ下がりだ。しかも問題はまるで解決していない。さて、どうしたものか。

「……藤花様、よろしいでしょうか?」

 二人して困っていたら、リリが躊躇いがちに話しかけてきた。

「ん。なに?」

 答えず、右手を差し出すリリ。握れってことか?

「握手です。人肌の温もりは心を落ち着けると言いますし」

 そういうことらしい。いい子だ。今までさんざん目付きが悪いとか怖いとか言ってごめん。

 心の中で謝罪してリリの手を取る。

 ん? なんか今、ちくっとしたような……?

 右手を見る。人差し指からわずかに出血していて玉を作る。

「リリ……?」

「不意を突けばよかったようなので」

 縫い針の先端を拭いながらしれっと答えるリリ。あれで刺したのか。

「余計なお世話でしたでしょか?」

 いや、助かったんだけど、ね? ふるふると首を振るも、なんというか腑に落ちない。見事に一杯食わされた感じだ。

「早速お役に立てたようで何よりです」

 そんなわたしの葛藤など素知らぬ顔で、リリはスカートをつまんでちょこん、とお辞儀をしてのけた。


 リリ、恐ろしい子!

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