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さて、リリの登場ですっかり忘れていたが、本日の遠足…じゃない、遠征の目的、ダンジョンコアの話をしよう。

 戦利品である例の小汚い小箱を取り出しラグに渡す。

「なんですか、この……箱は?」

 ラグはかろうじて「小汚い」という言葉を飲み込んだようだ。別に言ったって構わないのに。わたしもそう思ってるし。

「開けてみて」

 ともあれ、ほんとに魔族には開けられないのか試してみよう。

「分かりました。……ぬ? ぬぬっ!?」

 蓋に手をかけ数秒、ラグの顔は訝しげなものから不審なものへと変わった。力を込めたからだろう、腕の筋肉が服の上からでも分かるほど盛り上がる。

「ぬう……ぐぬぬぬぬ、小癪な箱め! 師匠! この箱はなんですか!?」

「……お莫迦」

 小箱相手に悪戦苦闘しムキになる魔王。シュールな絵面だ。そしてどうやら本当に魔族(ラグ)には開けないらしい。与太話だと思ってた。疑ってごめん。

「これが、例の箱」

 言って、ラグの手から小箱を受け取りリリへと渡す。

「開けてみて」

 先の台詞を今度はリリへと向ける。

「私がですか? 魔王様にも開けられなかったんですよ?」

 相変わらずな目付きでリリがわたしを見上げる。怖いからやめて下さい。

「いいから」

「はあ……」

 首をかしげつつも蓋に手をかけるリリ。わたしとラグが固唾をのんで見守る中、箱はなんの抵抗も見せずにあっさりと開かれた。

「どうして……?」

 自分がやったことが信じられないのか、リリは呆然と呟いている。

「そういう箱らしいから」

 唖然としているリリから箱を受け取り、中の水晶玉もどきを取り出す。さて、どうやって使うんだろう?

「ほほう、それがダンジョンコアですか」

 ラグが興味深げに覗き込んでくる。

「見たことないの?」

 勇者に奪われるまでは先代が持ってたんでしょ?

「ええ。何しろ我と先代は面識がありませぬゆえ」

 ここで明かされる新事実。魔王の位は世襲制ではないらしい。現役の魔王が死ぬなり斃されるなりすると、残った者達のうち一番強い者が後を継ぐんだとか。人事に納得出来なければいつでも殴り込んでいいそう。ついでに言うなら他の役職も同じ。つまり、「この先へ行きたければ俺を斃してから行け」ならぬ、「この職に就きたければ俺を斃してからにしろ」だ。なんという脳筋社会。そしてよくそんなシステムでラグは魔王になれたもんだ。

 待てよ?

「じゃあ使い方も分からない?」

「恥ずかしながら。コアをダンジョン内に持ち込めばよいと伝え聞くのみにござます」

 むう、どうしよう。取り敢えず持って入ってみるか。コアを手にしたまま歩き出そうとした時、

「システム再起動――完了。続いてマスター登録に移行します」

 やけに機械チックな声が耳に届いた。

 ラグを見る。

「我は何も言っていませんぞ」

 リリを見る。

「私も同じくです」

 二人とも首を振る。もちろんわたしでもない。じゃあ誰だ?

「マスター、お名前をどうぞ」

 と、そこで再び声が響く。

「藤花様、それ……」

 リリが怖々とわたしを指さす。人を指さしちゃいけません、って違うか。リリが指したのはわたしの手――正確には手に握られたダンジョンコアだ。見ると、ぺかぺかと発光している。

「マスター、お名前をお願いします」

「…………」

 間違えない。声の出所はこの玉だ。喋くりおったわ、この玉っころ!

「えっと、今の声ってあなた?」

 それでも一応確認してみる。なんというか、まだ信じられないのだ。

「はい、(わたくし)でございます」

「…………」

 あっさり肯定されてしまった。まあいい、こいつが自分でしゃべくってくれるのなら好都合だ。

「じゃあ、いくつか質問」

「どうぞ」

「まず、マスターってなに」

 いや、なんとなく分かるけどね。でも詳しく聞いとかないと。ここって異世界だし、万一ってことがあったら怖いし嫌だ。

「マスターとは、私の主となられるお方のことです。主な権能はダンジョンの創造、維持、改良、閉鎖とダンジョン内を徘徊するモンスターの創生となります。こちらにいるお三方、どなたでもマスターとなる資格がありますが、私のお薦めは断トツで今現在私を持っておられる貴女様です」

 まさかのご指名だった。

「どうしてわたしなの?」

「ダンジョンを創造、維持、改良するには多くの魔力を必要とします。また、それはモンスター創生にも同様です。故に、お三方の中で最も魔力保有量の多い貴女様を推薦した次第でございます」

「おお! さすがは師匠ですな!」

 それを聞いたラグが感嘆の声を上げる。ちょっと黙ってなさい。そもそもこいつ(玉っころ)は致命的な間違えを犯している。

「わたしは魔法が使えない」

 改めて言うと地味にダメージがある。使ってみたかったな、魔法。

「然様ですか」

「なのになんでわたしに魔力があるの?」

 玉っころは暫し明滅を繰り返し、衝撃の真実を口にした。

「多くの方が勘違いをされているようですが、魔法が使えない=魔力がないと言う認識は誤りです」

「…………!」

 そうなの? とラグを振り向くと、わたしと同じく驚いた顔をしていた。どうやらラグも知らなかった模様。

「そもそも、生命には(あまね)く魔力が宿っております。無論、種や個による差はありますが、零という事例を私は寡聞にして存じません。蛇足ながら申し上げますと、貴女様の魔力は種として見ても個として見ても群を抜いておられます。忌憚なく申し上げますと、異常と言ってよいほどかと」

 何か思い当たる節はございませんか? と問われ、ちょっと考える。いや、考えるまでもないか。思い当たる節なんてあれだけだ。即ち、わたしの有する三つの異世界特典。馬鹿力、頑丈、超視力だ。あれどう考えてもおかしいよね。なんも修行してないのにドラゴンを一撃で粉砕とか魔王相手に圧倒とか。

 ついでにわたしが異世界から喚び出された者だということも伝えてみる。リリは驚いていが、玉っころは逆にそれで得心がいったようだ。

「なるほど、合点が行きました。そしておそらく貴女様は、本来なら魔法と身体強化とに振り分けられる魔力を全て身体強化に回しているのでしょう。ですから魔法が使えないのです」

「…………」

 なんてことだ。これはあれだね、絶対に壊せない盾があるけど、ならそれ以上の力でぶっ叩けば壊せるよね! って理論だ。つまりこの世界で一番の脳筋はわたしだった。驚きすぎて涙が出ちゃう。だって脳筋だもの。

「だいぶ話が逸れてしまいましたが、そろそろマスター登録をお願いします」

 わたしが悲嘆に暮れているというのに、空気を読めない玉っころは無責任に急かしてくる。

 煩い、もう少し泣かせろ。

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