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 ラグはダンジョンの入り口で堂々と仁王立ちしていた。剣を突き刺しその上に手を重ね、風にマントをなびかせる姿は控えめに言ってもかっこいい。さすがは魔王といったところか。

「お疲れ様でございます、師匠」

 そんな魔王が何故か弟子になっている不思議。……今更か。

「……お疲れ様」

「首尾はいかがですか? こちらは一度襲撃に遭いましたが、なあに、軽くひねってやりましたぞ」

「……うん」

「師匠?」

 反応の鈍いわたしに訝しげに問いかけるラグ。

「……うん」

 いや、さ。そんなことの前に報告すべきことがあるんじゃないの、あんた。

 岩の後ろに隠れ、顔だけ出してこちらを窺っている幼女に視線を向ける。歳はぱっと見十歳くらい。夜の入り口のような濃い紺色の髪をおかっぱにした、なかなか可愛らしい子だ。……目付き以外は。(まなじり)を吊り上げ、菫色の瞳からは殺気が火を噴いている。

「ラグ。あの子、なに?」

「あの者は、その……なんと言いますか……」

 わたしの視線を辿り幼女を認め、言葉を詰まらせるラグ。娘、とか言い出すんじゃないだろうな。って、それならあんなに離れたところから殺気を向けているのはおかしいか。でもそれならなんだ? ふと、幼女に転生して戦場を荒らし回るおっさんの話を思い出す。まさかね。

 ところが、ラグの解答ときたらその斜め上をいっていた。

「……拾ったのです」

 ――は? 幼女って拾えるものなの? 犬や猫と同列なの? いやそうじゃなくて。

「元いた場所に戻してきなさい」

 そう、これが正解だ。うちはペット禁止です。

 ――ん? 幼女だからペットじゃないのか? なんだか混乱してきた。

「いや、師匠……犬猫ではないのですから」

 うん、そうだよね。でもじゃあどうするんだ。

「あの娘は、我が引き取ります」

 そして衝撃のお持ち帰り宣言。そういう趣味があったのか。グレースが可哀想だ。あとほとんどの人とは会ったことないけど他の奥さんたちも。そもそもあの子どう見てもまだ十歳前後だぞ。

「幼女趣味の、変態?」

 じと目を向ける。

「何故ですか、師匠!?」

 いわれのない疑いをかけられ慌ててラグが必死に弁解するには、なんでもあの子、人間軍の一員として先の襲撃に加わっていたらしい。で、まさか国境に魔王がスタンバイしてるなんて夢にも思っていなかった人間軍は魔王(ラグ)を見て激しく狼狽。ラグがパフォーマンスで落とした雷を見て完全に戦意喪失。殿(しんがり)という名の捨て駒を突貫させ、残りはその隙にとんずら。その殿部隊にいたのがあの子、ということらしい。

 子供を戦場に連れてくるな! と憤っていたら、荷物持ちや小間使いとして子供(主に孤児)が付いてくるのは割とよくある話らしい。そういうのって見習いがやるもんじゃないの?

 まあその話は置いておくとして、ならほっとけば国に帰るんじゃない? と聞いてみたら、そう簡単な話ではないらしい。

 魔王に一般兵如きが勝てるはずがない。あの子みたいな幼女なら尚更。なのに生きて返ってきた。さては寝返ったな! そうに違いない! 裏切り者には死を!! という謎の暴論でもって拷問、処刑されるのが落ちらしい。なにそれ、異世界怖い。

「ですのであの娘は、我が魔王城で保護します」

 むう、そういう事情ならしょうがないのか。でも一応本人に聞いておくか。確認って大事だと思う。

「話、聞こえてたでしょ。一緒に来る?」

 幼女に問いかける。それでなくても険しい幼女の目がさらにきつくなった。わたしは何かしたのだろうか?

「……なんで人間が魔王と一緒に居るんですか」

 そして出てきた第一声がこれ。不信と嫌悪と拒絶が混ざったような声だ。

 ふむ。どうして魔王と一緒に居るのか、か。さっきおじいちゃんにも聞かれたな。

「成り行き」

 隠すことでもないので正直に答えてみた。さて、この子はどんな反応をするのだろう。

「正直に話す気はないってことですね」

 信じてもらえなかった。

「師匠! 我と師匠の出会いは成り行きなどではなく運命ですぞ!!」

 代わりにラグが何か言っていたが、まあ無視でいいだろう。

「信じる信じないは自由。で、どうするの?」

 取り敢えず今必要なのは返事だ。「是」なら連れて行く。「非」なら……放置かな。他にどうしようもない。

「……仮に付いて行った場合、私はどうなるんですか?」

 冷め切った声音で幼女は問い、

「どうなるの?」

 わたしが決めることではないので言い出しっぺのラグに聞く(スルー)

「……どうしましょうか?」

 なにも決めていなかったらしい。ますますつり上がる幼女の眦。怖いのでほんとやめて欲しい。というかそういうのは考え無しのラグの方に向けるべきなんじゃない?

「とりあえず、ラグの仕事でも手伝ってもらったら?」

「む? 我の仕事ですか? しかし我もこう見えて魔王の端くれ、人間の幼子に手伝えるような仕事はありませぬぞ」

 魔王の仕事は大変らしい。

「じゃあ三食おやつ付きで遊ばせといたら?」

 子供なんだし。

「それでは他の者達への示しが付きませぬ」

 我が儘な魔王だな。

「――はあ」

 ここで盛大な溜め息が聞こえた。出所は幼女。ダダ漏れだった殺気が薄れ、代わりに呆れの表情が浮き出ていた。

「城でメイドの見習いとして雇って下さい」

 おお! その手があったか! 顔を見合わせうなずき合うわたしとラグ。それを見た幼女が「お莫迦様がふたり……」などと呟いていた気がするが、きっと気のせいか空耳だろう。

 ん? 待てよ。ってことは……。

「一緒に来るの?」

「はい。どのみち私の居場所はもうこの国にはありませんから」

 よろしくお願い致します、と頭を下げる幼女。

「うむ、そうか。我は魔王、ラグ・アジだ。よろしく頼む」

「浅井藤花」

 そうと決まれば自己紹介だ。わたしもラグに続いて名乗る。

「リリです。魔王様、藤花様。改めて、よろしくお願い致します」

 こうしてラグに新しい部下? が出来た。ってことはある程度打ち解けたはずなのに、相変わらずリリの目付きは険しい。どうやらこれが地顔のようだ。……おっかない。

 因みにリリは八歳らしい。体付きといい言葉遣いといい、実に大人びている。西欧圏の子供は成長が早いってほんとだね。

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