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 連れて来られたのは神殿の奥の部屋。こんなところに不用心に飾ってあるのかと思えばもちろんそんなことはなく、なにやら壁に向かってぶつぶつ唱え出すおじいちゃん。そして最後に大声で、

「ごま、ごま、ごま!」

 すると目の前の壁にぽっかりと人が通れるくらいの入り口が出来た。

「…………」

 なんという無駄な前振り! そしていつからここはアリババと四十人の盗賊の世界になった! なんかもう色々どうでもよくなったので、おじいちゃんの向けた得意げな顔は気付かなかったことにした。

 入り口を抜けると目の前には下り階段が続いていて、魔法で灯りを出したおじいちゃんの後ろをてけてけ付いて行くこと数分。その間時々立ち止まってなんやかんやしていたのは罠の解除だろうか? ともあれ無事階段を下りきった先のどん付きにて、再びおじいちゃんがぶつぶつやってごまごまごま、とロックを解除。現れた小部屋に入ると中は金銀財宝で足の踏み場もないほどごった返していた。坊主ボロ儲けの法則は異世界でも健在らしい。

 そんな金銀財宝を惜しげもなくげしげし踏みしめ奥へと分け入っていき、おじいちゃんは半ば埋もれ掛けていた絵画を発掘。こんなところにあるってことは結構な値打ちものだろうに、躊躇なく引き千切る。続いてこれまた半ば埋まっていた謎の像を叩き壊し、止めとばかりに財宝タワーの頂点に突き刺さっていた杖をへし折り投げ捨てる。

 ……そんなにストレスが溜まっていたのだろうか。まああの愚王の下にいたんじゃしょうがないか。

 突然蛮行に走った挙げ句肩で息をするおじいちゃんを哀れみの目で見ていると、ガコっという音と共に部屋の奥にさらなる隠し部屋が現れたではないか。まさか一連の行動が扉を開ける儀式みたいなもんだったのか? なんて斬新なセキュリティ解除法。ついでにストレス発散も出来て一石二鳥だね。

「藤花殿、こちらへ」

 呆れ半分、関心半分でぼんやりしていたわたしを手招きするおじいちゃん。誘われるままに奥の隠し部屋へと入ると、そこは二畳ほどの狭い空間だった。そのうち一畳を祭壇のようなものが占め、上には祭壇の豪華さとは裏腹に小汚い小箱が乗っている。

「どうぞ」

 小箱を持ち上げわたしに向かって差し出すおじいちゃん。ひょっとしてこれが例の箱なのだろうか。

「こちらがダンジョンコアを封印した聖櫃となります」

 箱は、聖櫃なんて大仰な言い方が滑稽に思えるほどみすぼらしい。これならそこらの倉庫に置いといても誰も気付かないのではないだろうか。こんなところに隠しておくよりその方が意外性という意味でも逆に安全かもしれない。

 ともあれ、ようやく手に入れたダンジョンコアだ。まずは受け取り、目の高さに持ち上げ()めつ(すが)めつ。見れば見るほどただの汚い箱だ。

 箱の底には一枚のお札が貼られていた。――封印の札かな? 箱と同じように薄汚れた札に目を近づけると、なにやら文字が書かれていることに気がついた。

「……あ、これ日本語だ」

 なになに……久しぶりに見た日本語に懐かしい気分になりながら読んでみる。


 ――パンドラの箱――


 札には、そう書かれていた。思わず二度見する。うん、間違えない。掠れていて若干読みづらいが、やはりパンドラの箱と書かれていた。

 確信する。これを書いた勇者は間違えなく召喚されたやつだ。なんだこれは。シャレのつもりか? まあ確かに「厄災の入った箱」という意味では正しいのかもしれないが……。

 とりあえずその札は剥がしておいた。その時、ぴりっとした静電気のような痛みが指先に走る。

「な……封印の札がこうもあっさりと……!」

 後ろでおじいちゃんが驚いていたが、こんな札にそんな力絶対ないと思う。

 ともあれ、これで箱は手に入った。問題は、これがほんとにこの箱魔族には開けられないのということだ。

 ま、現物があるんだから試したほうが早いか。まずはわたしにふたが開けられるかを確認しよう。無理だったらおじいちゃんに開けてもらえばいいや。

 箱は、上の四分の一くらいが後ろに倒れて開くタイプ。上部を掴み、いざ――。

 多少の抵抗はあるかと思ったが、あっけないほど簡単に蓋は開いた。中に入っていたのは直径十センチくらいの水晶玉のようなもの。透明度は結構高い。おじいちゃんが作った灯りを反射して、きらきらと輝いている。

「ん、ありがと」

 取り敢えず蓋をして、箱ごともらっておくことにした。おじいちゃんはなんとも曰く言いがたい顔をしていた。強いて言うなら苦虫をかみつぶしたような、だろうか。まあ人間側の秘宝? を奪われたんだから仕方ないか。

 帰りもおじいちゃんの先導に従い進んでいく。長い上り階段が地味にきつい。元からさして体力がない上に、このところの運動不足が原因だ。エレベーターはないのか。ぜえぜえ喘ぐわたしとは対照に、息一つ乱していないおじいちゃんがうらやましい。この人、恐ろしいことに汗一つ掻いてないよ。

 城に戻ると、レグナートは言いつけ通りにおとなしく待っていた。わたしを認めると嬉しそうにしっぽを振った。それを囲むへっぴり腰の兵士の皆さんが微笑ましい。なお愚王は逃げ出した模様。座る者の居ない玉座が部屋にぽつんと残されていた。

「お待たせ、レグナート」

 手を振り返す。

「るが」

 速く乗れ、と言わんばかりに首を下げるレグナート。なんだろう? ドラゴンでも兵に囲まれたこの状況はストレスなのだろうか。それともうっかり人間を踏みつぶさないよう気を遣うのがストレスなのかな? 或いは両方とか? ともあれもうここに用はないので促されるままレグナートの背によじ登る。

「じゃあね、おじいちゃん」

「……お元気で」

 上から手を振ってみれば、苦い顔で返答された。ま、仕方ないか。今のわたしは完膚なきまでの襲撃者だし。

「行こう」

 ぽん、とレグナートの背を叩く。

「るがあああああ!」

 答え、力強く羽ばたくレグナート。ふわりと浮き上がり、国境へと向け飛翔を開始する。みるみる小さくなっていく城を眺め、ふと思った。あの時、もしラグが現れなければ、わたしは愚王の願いを聞き入れ魔の国を攻めていたのだろうか。

 ……ないな。結論はすぐに出た。元々愚王との交渉は決裂していたのだ。力尽くで城を出て、あちこちぶらぶらして最終的には魔の国に流れ着いていたような気がする。そう考えればあそこでラグと逢えたのは僥倖だ。レグナートに乗って楽ちんしているが、この道を歩いていたらと考えるとぞっとする。途中で干からびていたかもしれない。

 その道を全力疾走している一団を発見した。あれは来る時見かけた人間軍か。一目散に遁走している為、騎馬と(かち)の兵の間がだいぶ開き、縦に伸びきっている。よっぽど手ひどくラグにやられたらしい。博愛主義のラグにしては珍しいことだ。何かあったのだろうか。

 少し考え、疑問を放棄する。行けば分かるだろう。

 再び上空に現れたドラゴンに慌てふためく人間たちを尻目に、わたしはのんきに欠伸を漏らした。

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