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「変……態!!」

 筋肉は変態だった。や、違う。筋肉は変態した。

 ……どっちにしろ酷い字面だ。

 間違ってはいないんだよ。むしろ言葉の意味的には何ら問題ないんだよ。ただ、ねえ……。

 受ける印象ってもんがある。その言葉の持つイメージってもんがある。

 なんでよりにもよって「変態」を選ぶかな、この筋肉は。

 ともあれ筋肉は変態した。筋肉第二形態へと。どう変わったかというとスリムになった。細マッチョとかいうやつだ。先頃復活して銀幕デビューしたF様で例えるなら、第二をすっ飛ばして第三になった感じ。筋肉もいつかあの人みたいに金色になるのだろうか……。想像したら目が痛くなってきた。

「ふっふっふ。この姿になるのは二百年ぶりだ。あの時はそう――」

「うん。もういいから」

 なにやら語り始めた筋肉の頭をひっぱたき、地面にめり込ませる。今度は復活してこないよう、念入りに足踏みして止めを差しておいた。

「変態、成敗」

 こうして今度こそ筋肉は沈黙した。因みに筋肉第一形態と第二形態、見た目以外でどう違うのはわからずじまいだった。

 ま、どうでもいいけどね。

 取り敢えず勝利宣言でもしておこうか。

「今度こそ、わたしの勝ち」

 降参したのっぽ。昏倒中の骸骨。そしてわたしの脚の下に埋まる筋肉。うん、文句なしの完勝だね。

「さすがですな、師匠」

「うむ。ラグ殿に聞いた時には正直疑ったが、話以上の実力ですな」

 わたしに傾倒しているラグはともかく、三魔王の内唯一意識の残るのっぽまで褒めそやしてくる。非常にむず痒い。そんなに褒めないでくれ。わたしは褒められ慣れてないんだ。

「じゃあ、行くから。残りが目を覚ましたら来て」

 照れ隠しにそっぽを向きながら言う。こういうときは逃げるに限る。偉い人だって言いました。三十六計逃げるにしかず。


 そして一時間後。わたしの前には四人の魔王が正座していた。なぜ正座かといえばラグへのお仕置きであり、他の三人はただのとばっち……げふんげふん。

「魔王ズには、ダンジョン改造を手伝ってもらう」

 お茶を一口飲んでから沙汰を言い渡す。

「ほう。ンジョン、ですか」

「っかし、なんだって今更ダンジョンなんだ?」

「幾分か前にコアを奪われ今では機能していないはずじゃが」

 相変わらず劇団魔王の役割分担は完璧だ。三位一体で綺麗に疑問を完成させた。

「コアはこれから奪い返しに行く。箱はわたしが開ける」

「であるから、お主等にやってもらいたいのはその間のこの城の守りと国境ダンジョンの奪還となる」

 一息吐いたらラグに残りの説明をかっさらわれた。

「……他に質問は?」

 仕方ないので質疑応答の時間に移行する。

「ふむ。では儂から」

 骸骨が手を上げてから発言する。さすがいい人、礼儀正しい。

「なに?」

「と、言ってもダンジョンのこととは関係ないのじゃが……」

 そこで一度言葉を切り、ぐるりと残りの魔王を見回す。それぞれの魔王が頷いたのを確認し、言葉を続ける骸骨。

「藤花殿は儂等四人の魔王に勝利した。従って、慣例に則り藤花殿には儂等を統べる魔神となっていただく」

「――――は?」

 なんですと?

「誇っていいぜ。長い魔の国の歴史でもそこまで上り詰めたのはお前を含め三人だけだ」

 筋肉が何か言っている。

「さすがは我が師匠」

 ラグも何か言っている。

「まさか魔神の誕生に居合わすことが出来るとは思いませんでしたな」

 のっぽも何か言っている。

 でも残念。聞こえない。何故なら聞きたくないから。

 魔神? 魔神だあ?

 冗談じゃない。勇者ってだけでも恥ずかし過ぎて人には言えないのに、何故か次には魔女呼ばわりでその上終いにゃ魔神ってか! 冗談じゃない。何が楽しくて異世界に来てまで黒歴史を作らにゃならんのだ!

「いや。絶対いや。断固拒否」

 全力で拒絶する。

「いや、と言われましても……」

「俺等を負かし、俺等が認めたんだ」

「藤花殿がどう言おうと、すでに藤花殿は魔神なのじゃ」

「うむ。さすがは師匠ですな」

 拒否権無しかよ!!

「さて、魔神サマ。ダンジョンだったな。早速行くのか?」

 筋肉が追い打ちをかけてくる。やめろ、魔神って言うな!

「…………」

「魔神様。いい加減認められては?」

「何事も諦めが肝心じゃて」

 魔王共のあまりの言い種に頭を抱える。

「師匠?」

「……もういい。もう、今日は寝る」

 取り敢えずわたしは、全部投げ出してふて寝することにした。

 ああそうさ。現実逃避だとも。文句あるかちくしょう!!


 翌日。

 昨日の一幕はなかったことにしようと決めたわたしは、改めて魔王ズと対面した。魔王達の間でも何らかの合意がなされたのか、わたしに対して魔神と言ってくる奴はいなかった。

 あのままだったらわたしは確実に逃げ出していたからな!

 ……閑話休題。

 さて、ダンジョン改造計画だが、新たに魔王ズ(労働力)が加わったことでだいぶ余裕が出てきた。四魔王の実力はどんぐりだ(大差ない)というから、城の守りにのっぽを残し、わたし、ラグ、筋肉、骸骨の四人で国境ダンジョン制圧及びダンジョンコア奪還に乗り出した。

 城から国境まで結構な距離があるが、そこはレグナートに乗ってひとっ飛び。

 ふと思ったんだけど、こんだけ戦力あるなら人間界制圧した方が早いんじゃない?

 早速提案してみたら、こいつ等口を揃えて「自衛以上の戦いはしたくない」ときたもんだ。どんだけ平和主義なんだよ魔王ズ。それでも魔王か。そんなんだから人間如きに侵略されんだよ。

 極めつけがラグのこの一言。

「このダンジョンを閉鎖して、人間共が魔の国に侵入出来なくなればそれでいいではありませんか。我々には侵略する意図などないのですし」

 平和主義の魔王。もはや魔王という概念に真正面から喧嘩を売るレベルだ。お前等はスイス(永世中立国)でも目差してるのか!

 ……まあ、嫌いじゃないんだけどね、こういう考え方。私の理想たる一億総無関心にも通じるものがある。

 ともあれ、国境ダンジョン魔の国側の入り口で二人の魔王(筋肉と骸骨)を下ろす。一人は入り口の封鎖、もう一人が虱潰しに中にいる人間の排除を担当する。そして残る一人(ラグ)を連れ人間界側の入り口へ。これで人間界側入り口の封鎖も完了。魔王を突破出来る戦力なんてそうそうないだろうから、取り敢えずは万全だ。

「じゃあ、行ってくる。後よろしく」

「ははっ、お任せを。師匠もお気をつけて」

「ん」

 ラグに後を託し、わたしは愚王の待つ城を目差して飛び立った。

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