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50.ツマラナイ

 おっちょこちょいで、少し突拍子もないところがあり、とてもお茶目。そして若干男勝りな性格で誤解も受け易いが、真面目で素直な可愛い女の子。新入社員である彼女の印象はこんな感じ。

 彼女の教育係りを任された事もあり、直ぐに仲良くなったが、色々話を訊くところによると、少し孤独な境遇のようだった。親御さんと一悶着あったらしく高校を卒業して直ぐに上京してきたらしい。最近あまり耳にしない「勘当」みたいなものだろうか。勿論友人もこちらにいたようだが、相手が仕事で忙しく思うようにちょくちょくは会えないそうだ。料理が得意らしくいつもお弁当持参で明るく勤務していて、夕食も勿論自炊ではあったが、人懐こい性格で、たまに一緒に外食しては、仕事、プライベートの事も様々相談してきた。私自身にしても、職場で初めての後輩であった彼女の事がとても可愛く、大切な妹のような存在となっていた。勿論ノーマルな意味である。

 可愛くて料理が得意、なら男どもが黙っている訳がないのがこの世の常というもの。「ああ、またか」と高校時代の新聞部の活動を思い出す。新聞部といえば、どこの部が関東大会出場とか、ナントカコンクール入賞だとかを取材するというのが世間一般から見た印象だろうが、蓋を開ければ、誰が誰を好きだとか、誰と誰が付き合ってるだとかそんな話ばっかり追いかけてた思い出しかないのだ。あの子とあの子がくっついたとか、そんなのばかり。懐かしくもない状景に彼女の環境を重ねながら状況を見守ると、彼女は色々な男に言い寄られながらも、一人の男を選んだ。なるほど、彼女も例外なく納まる鞘を見つけたようだ。

 相手は同じ新入社員の蓮見瑞希。女性の様な名前の通りの女性の様な顔立ち。ただ、噂だと以前に格闘技をやっていたとかで、少し雰囲気がキツそうではある。彼もやはりその容姿から女性からの人気は厚く、私の同期にも狙っている子がいたようだが、残念。美男美女カップルというものは必然性をもって成立するものだ。


 そう。


 残念。


 残念なのだ。


 本来なら祝福すべきだろう。


 何故だかとても残念だった。

 もしかしたら、私も心のどこかで「蓮見君」の事を……いや、ないない。タイプじゃない。私は年上が好きなのだ。


 少し考えて直ぐに結論に達する。


 可愛い可愛い後輩が。

 一人孤独に上京してきた可哀想な後輩が。

 先輩を慕う幼気(いたいけ)な後輩が。


「離れていってしまう」


 私にとってそれは大層残念な光景にしか見えなかった。




「先輩、この書類はどう処理すればいいですか?」

「これね。これはこうして」

「ありがとうございますっ」


「先輩、こちらの事務手続きまだやったことないんですが?」

「これね。じゃ、一緒にやりましょう」

「ありがとうございますっ」


「先輩、アタシ最近なんか寂しくて……」

「わかったわ。今日はトコトン付き合うわよ」

「ありがとうございますっ」


 あの時はこうしてあげた。

 あの時はこう慰めてあげた。

 あの、ワタシを慕うあの目が、他の人間に向けられている。

 その事実が何故か異様に腹立たしい。そう思った。


 程なくして彼女は寿退社。結婚式には誘われたけど、どうしても外せない理由をつくって断った。その時の彼女の顔が忘れられない。とても残念、本当に残念そうな顔。愁いの顔。こちらから別の機会を提示し別口で祝う約束をした時の表情の変化。信頼の眼差し。そして、その後の「ありがとうございますっ」の言葉。忘れられない。

 その時気がついた。


「私は頼られたいのだ」


 このとても可愛いらしく、守ってあげたくなる、若干孤独気味だった女の子。佐々木菜々子という女の子に。


 この子が困っていたら、私が救ってあげよう。

 この子が悩んでいたら、私が相談にのってあげよう。

 この子が泣いていたら、私が涙を拭ってあげよう。


 それが私の生き甲斐になっていた。

 でも。

 彼女が困っていなければ。

 彼女が悩んでいなければ。

 彼女が泣いていなければ。

 私は無価値だ。

 頼られることもない。

 慕われることもない。


 そんなの…………ツマラナイ。

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