49.純粋な疑問
「なんだよ。やっぱりか」
それが最初の感想。
そして落胆。
決して犯人を自分の手で暴けなかった事によるものではない。別にジッチャンの名にかけて犯人を暴こうとか、小さくなってしまったので怪しい博士に作ってもらった七つ道具を駆使して犯人をとっつかまえようだとか、そんな探偵達の真似事がしたかった訳でもない。そもそも俺のジッチャンなんて見たことないし、小さく変身してもいない。女体化はしてるが。
大体検討はついていたし、驚いた訳でもない。
ひどい脱力感と、その後に湧き上がる言いようのない怒り。そして純粋な疑問。
なんでこの人が?
元々苦手意識はあったものの、「後輩想いの先輩」。それが俺自身の彼女に対する最近の評価だった。何より菜々子が慕っている先輩。詳しい事はわからないが、職場にいた時は本当に良くしてもらったんだ、と懐かしがりながら語っていた。「瑞穂」としてではなく、女になった「瑞希」として再会した、その日の夜に聞いた事だ。よくこき使う先輩としか印象のなかった俺にとっては目から鱗ではあったが、女体化の原因究明に対する助成宣言や蒼井という危険分子への注意喚起、職場での労いなどの振る舞いを身で感じる中で、苦手意識も薄らぎ徐々に信頼へと変わっていった。
なのにこれだ。
何故だ?
何故?
わからない。
その真相は、彼女しか知らないのだから……。
『島谷さん』
『なに? 蓮見君』
『何って……っ』
『あのう?』
意識的に放っていた俺の嫌悪的なオーラを感じ取ったのか、下平さんが声をかけてくる。この人もグルだったのだ。本当に人は見かけによらない。この人の場合は悪い方の意味だが。
敵意の切れ端を飛ばすように一瞥しようとした瞬間、島谷が口を開く。
『あ、管理人さん。この間はありがとうございました。ちょっと急いでいたもので、お礼もロクにせずに立ち去ってごめんなさい。封筒、ポストに入れてもらいありがとうございました』
『いえいえ、あれ程の事でお礼など。お気になさらずに』
どういう事だ?
なにやら、俺が考えている事と事実に若干の差異があるようなやり取り。更に困惑する。
『本当にありがとうございました。あの、どうぞお仕事お続け下さい。私、この人と話があるので』
『これはこれは、お気遣い痛みいります。それでは失礼をば致します』
どうやら下平さんは純粋に頼まれた事を善意の形で行動に移しただけのようだった。危うく下平さんに向けて冷えた視線を投げつけるところだった。だが、敵視の感情を抱いてしまったことは事実だ。仕事に戻る下平さんを謝罪を込めた会釈で見送る。
だが元はといえば……。
再度島谷に向き直る。
『どういう事か──』
『説明しにきたの。ちょっと上がらせてもらえる?』
『あれ真澄さん?』
そこへなにも知らぬ菜々子が戻ってきた。
事の顛末を知ることになる。
そんなことを思いもよらずに。