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47.入れたのは?

 箱。

 幅30㎝、高さ15㎝程の箱。

 銀色のそれが壁一面に敷き詰められている。それぞれが上部に細長の蓋付きの口を持っており、口の下にはプレートが一枚づつ。丁度中央に位置する箱のプレートには「303 蓮見」の文字。マンションのメールコーナーの光景が色彩薄くディスプレイに映っている。


 やけに狭い管理人室に俺、菜々子、抱っこされた彩、そして我がマンションの管理をしている管理会社の人間が一人が立ち並ぶ。


『それではご確認下さい。私はマンション内の確認で席を外しますが、どうぞごゆっくりと』

『ありがとうございます』


 管理人室を退出する彼に一礼しディスプレイに視線を戻す。

 先週の香奈との話し合いの中で出てきた、「ポストにチョコ入り封筒を入れた犯人」を確定する為の手段。それは、メールコーナーの防犯カメラの映像を確認する事だった。24時間監視しているカメラの映像は、管理会社にてバックアップされており、事情を説明すると見せてくれることになった。


 管理人室に設置されたディスクの上には小型のディスプレイが一台あり、メールコーナーの映像が延々と流れている。画面右下には撮影日時が表記され、現在の表示内容は封筒が入っていた日の午前2時。こんな嫌がらせをするのは一目の少ない夜中だろう。勿論、前日にポストを開けた時間からの映像は確認済みだ。

 ポストを確認する自分の姿。女の姿になってから初めて見たが、我ながらスタイルが良かった。そんな事口にする俺に、彩を抱きながら呆れた表情を浮かべる菜々子。


『真面目に見ろ』


 俺としては、「犯人が島谷かもしれない」と心配する菜々子の堅い表情を少しでも和らげようと気遣ってやったつもりなのだが……。

 封筒を見つけた時間まで、残り12時間。3倍速再生とはいえ、4時間もかかる。もう既に午前中に2時間見ている。気になる箇所などは標準速で再確認する為、もっと長く見ているかもしれない。何はともあれ、昼食を挟んだ事による眠気と飽きとが一斉に襲い来るのだが、犯人の特定の為には、菜々子の言うとおり真面目に見るほかない。

 ディスク上に広げたノートには、これまでに蓮見家のポストへとアプローチを試みた人物、その時間が記されている。といっても、現時点で記入されているのは俺の名前だけだ。


『じゃ、気合い入れて見ますかね!』

『初めから入れとけ』


 やはり島谷の事を考えているのか、ツッコミに勢いがない。まあ、勢いのあるツッコミはこちらの身体にも負担が強いられるので、無きゃ無いで良いのだが。

 ともかく映像に集中する事にした。







 来ない。

 なかなか来ない。

 全く来ない。

 俺がポストを確認し、チョコ入り封筒をゲットするまで残り時間も僅かとなったが、未だに蒼井も島谷も画面に現れない。


『おいおいおいおい、どういう事だよこれは。蒼井も島谷も何してんだよ?』

 管理人室に独り言が響く。さすがに四時間も彩を連れていては可哀想なので、二時間前に菜々子が部屋に連れ帰っている為、現在管理人室には俺しかいない。


『封筒入れに来いよ。ほらっ』


 誰も来ない。


『ほれ、終わっちゃうって。俺来ちゃうって、ほらっ』


 誰も来ない。


『おーい、早く、どっちでも良いから来────あっ』


 来た。

 入れた。

 一瞬でよくわからなかったが、確かにうちのポストに何かを入れた人物が映っていた。時間を戻して標準速で再生する。

 今度ははっきりと確認できた。

 あの封筒だ。

 見覚えのあるピンクの花柄。

 間違いない。

 入れた人物は下平さん。

 間違いない。


『……はぁ? 下平さん?』

『はい、何でしょう?』

『うわっ』


 蒼井でも、島谷でもなかった。

 犯人は、管理人の下平さん。今俺の目の前にいる人だった。

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