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46.その前にやること

『へぇ?』


 突然の香奈の提案に、思わず頓狂な声を上げてしまった。


 聴き間違いだろうか?


 真相解明の為の会議は、最終盤を迎えたこれからって時に、突如として幕を下ろされた。


『あ、ごめんなさい。菜々子が……』


 香奈の指差す先には、菜々子が恨めしそうな表情で佇んでいた。


『お腹減ったぁ』

『……みたいだから』

『な、なるほど』


 その後、菜々子は彩の相手を俺に任せ、台所へと消えていった。勿論夕飯の支度をするために。別に俺と香奈が話し合っている間に済ませれば良かったのではなかろうか、との疑問を投げかけると、「彩の面倒は誰が見るのよ?」と苛立ちを隠さない口調が返ってきた。

 話しながらでも見れたとは思うが、そこは菜々子も、真剣に話し込む俺達に気を使ったようだ。


『じゃ、私もそろそろ行くね』

『えっ、食べていきなよ!』

『有り難いけど今日は遠慮しておくわ。図書館の帰りにちょっと彩ちゃん見に寄っただけだったから。それとちょっと調べたい事があって。だからさっきの続きもまた今度にしましょう』


 なるほど、図書館へは調べ物の為の書籍を借りに行ってきたようだ。何だろう、調べ物って。

 興味本位で訊いてみたものの、答えは笑顔付きの「内緒」という言葉だけだった。気にはなるが、人には他人から触れられたくない事が多分にあるものだ。


『あれ? 香奈帰るの?』

『うん、彩ちゃんと会えたし。また来るよ……あ、そうだっ』

『えっ、どうした香奈ちゃん?』


 何かを思い出したのか、香奈は突然ハンドバッグを漁り出した。


『忘れてた、コレ』

『え、俺に?』


 香奈はコクリと頷きながら、手に持ったチューブバターのような物体を俺に差し出してきた。


『お腹に塗るクリームよ。妊娠線予防用の。今でこそ目立たないけど、もう少しすればどんどん大きくなってくよ……て、菜々子の時にも塗ったでしょ?』

『ほら、一緒に塗ったじゃんコレと同じヤツ。あの時も香奈がくれたって。香奈、ありがとう』

『どういたしまして』



 思い出した。

 妊婦はお腹が大きくなるにつれて、その皮膚も引っ張られて伸びる。臍の中が剥き出しになるくらいスゴく伸びる。でも、実際にはホルモンバランスが変化した妊婦は皮膚が乾燥しやすく、それが「強引に引き伸ばされる」らしく、皮膚がひび割れを起こす。それを妊娠線と呼ぶらしい。何も塗らずに放置すると「こんな事になる」と、菜々子から妊娠線が出来た妊婦のお腹の画像を何度も見せられたもんだ。


 最終的には男に戻るんだから関係ないだろう。男に戻れる、はずなんだから。

 何の根拠もありはしないが、そう思い込む反面、香奈からの折角の真心は大切にしたいので、有り難く受け取った。


 その後、菜々子と軽く別れの挨拶を交わし、香奈は自宅へと帰って行った。





 今日は色々な事が有りすぎた。


 菜々子の作った夕食を平らげ、風呂に入った後はすっかり疲れてしまい、早々に床に着くことにした。


 彩を寝かしつけベビーベッドに移した菜々子が、疲れ果てベッドに寝そべる俺の隣に横になる。


『ねえ』

『ん?』

『真澄さんの事、どうするの?』


 ちらり、と菜々子の顔を伺う。若干暗くてよく見えないが、納得のいっていない表情が見て取れる。


『どうするも何も、訊いてみるしかないわなぁ……でも、その前にやることあるしな。その後だ』

『何、やることって?』

『監視カメラの確認。メールコーナーの。見てみないと』


 もし島谷が嘘をつき、蒼井が犯人でないのだとしたら、チョコ入り封筒を入れたのは島谷本人である可能性が高い。それはカメラの映像に映ってるわけだから、島谷へのアクションはそれをみてからでも遅くはないだろう。香奈の言うとおり、蒼井が犯人でなければの話だが。予想に反して仮に蒼井が犯人だったとしても、映像で確認できれば、裏がとれる事になる。重要証拠として蒼井自身に見せる事で嫌がらせを止めさせることもできるだろう。


『そっか。じゃ、それに真澄さんが映ってなければ犯人じゃないね』

『そういうこと。だから明日早速行動に移そう。わかったら早く寝ようぜ』

『うん、お休み』

『お休み』


 島谷が犯人でない可能性。それはかなり低い気がしていた。だが、そのことは敢えて口には出さなかった。

 菜々子は島谷が犯人ではないと考えている。慕っている先輩を犯人などとは思いたくないのかもしれない。

 島谷と菜々子が、俺と結婚する前から知り合いだったのはつい最近知った事ではあったが、訊くところによると、俺と結婚してからもちょくちょく連絡は取っていたそうだ。近況報告がてらではあったが、たまに会ってもいたらしい。大半は俺への愚痴だったようだが。時々、「以前お世話になった先輩」に会いにいくと言って出かけていった記憶はあるが、その相手が島谷だったのだろう。

 そんな「お世話になった先輩」が、理由は不明だが自分に対する嫌がらせをしている。そんな事、思いたくないのだろう。


 少し経つと菜々子の寝息が聞こえてきた。


『俺も寝るか』


 ともかく明日。犯人の尻尾を必ず掴む。


 そう決意し目を閉じた。

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