冬
肌寒い朝、この頃寒すぎて顔を洗うにも抵抗がある。
こたつでメイクをしパンを食べて会社に行く。
枯れ葉を踏みながら、手はポケットにいれて。
これがいつもの始まりだ。
♪
♪朝早く僕はいつもベランダからタクシーに乗る君を見送る
♪とてもせつなく寂しい
♪誤解を招かないようにしたいけど理解し合うのは難しい
♪
こんな歌詞の歌を聞きながら、
昔の自分を思い出す。
昔といっても、ほんの半年前だ。
彼氏も居なかった私は暇潰しのため
いわゆる出会い系サイトを利用するようになった。
毎日一人暮らしの家に帰り、会社に行くだけの往復に飽きていた、
そんなよくある理由だった。
ただ一緒に少しの時間、側に居てくれる人が欲しかったかもしれない。
出会い系サイトは恋愛経験が少ない私にはとても刺激的だった。
掲示板というところには、同じ地域に住む
独身者、既婚者、お爺ちゃんまで沢山の男がいた。
自分が既婚者であることも堂々とプロフィールに書く。
それも彼らにとって大切な行動なのだろう。
普通に恋人を求める男もいたが、
それについてはあまり理解は出来なかった。
サイトを覗くうちに、ひとりの既婚者とやりとりするようになった。
たくさん来る"お誘いメール"のなかで
一番マトモな人に思えたからだ。
ストレートに、
最初は食事、慣れてお互い合意すればセックスしませんか。
その人は、裕也さんと名乗り
わたしより10も年上だった。
普段は内勤のサラリーマンらしい。
本当か嘘かも分からないなかで不思議と信じることができた。
裕也さんはたとえサイトでの出会いだったとしても
嘘をつかない人だった。
自分が結婚していて子供がいること、
こんな顔をしていると写真まで見せてくれた。
サイトでは何度か女の子と会ったと言っていたが、
セックスまでは至らなかったらしい。
裕也さんは既婚者で、金銭的な援助を求める女の子が多いのもその原因だそうだ。
その点、わたしは金銭的なことを求めておらず
ただ単純に温もりが欲しかった。
裕也さんもセックスがしたいだけ。
裕也さんはまず食事に誘ってくれた。
食事といっても、大衆おでん屋さんだった。
カウンターに二人で座る。
それだけで、
わたしはもしも会社の人に見かけられたら、
裕也さんはもしも家族に見つかったらと、
ドキドキした。
おでん屋さんでは、なんでもない話をした。
仕事終わりに初めて会ったおじさんとお酒を交わす。
うん、悪くない。楽しい。
そして初めて会った、この日に約束した。
"必ずお互いに何があっても恋愛感情をもたないこと"
"お互いのプライベートを守ること"
"ふたりでいる時間は大切にしお互い大事に思うこと"
おでん屋さんを出ると、裕也さんは手を繋ぎたがった。
だけど私は見られたら困るので拒否した。
その日から週に一度は、仕事終わりのご飯を共にした。
なんでもない話をしつつ、
本当に少しずつ裕也さんは私に触れてくるようになった。
それも誰にも気づかれないように、
テーブルの下で手を握ってみたり、太ももに手を置いたり。
そんな日々が続き、わたしも毎日の生活がすこし色付いた。
いつもと同じ会社の帰り、裕也さんからいつものお誘い。
お誘いはいつも裕也さんからで、私から送ることはなかった。
どのタイミングで裕也さんの奥さんにバレるか分からないからだ。
だけど、平日の毎朝おはようメールは嬉しかった。
裕也さんとは会社が終わる夕方頃までしかメールはしないようにした。
だからこそ会ってる時間を大切に出来たのかもしれない。
食事ばかりの私達だったが、本来の目的はセックス。
そろそろだなと思っていたときに、裕也さんから
今日は個室のお店、予約したよ。とメール。
その日はなんだか仕事が手につかなかった。
約束の時間にいつもの人気の少ない待ち合わせ場所に向かう。
笑顔の裕也さんと目的地へ向かう。
裏路地に入ったあたりで、手を繋いできた。
この人、本当に手を繋ぐの好きだなぁ。
そんなことを思ってると個室のお店に着いた。
部屋に通されると、てっきり正面でのテーブルだと
思っていたが、隣に座るタイプの個室だった。
裕也さんはわたしを奥に座らせる。
夜景が見える景色の良い個室でお酒と美味しい料理を頂きながら、
少しのイチャイチャも楽しんだ。
ちょっと酔っぱらってきたところで
帰る時間になってしまった。
帰り際、駅の改札口で初めてキスをされた。