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第一章 フシギサークル 08

「おはよう未散!」

 朝っぱらから元気な事で。俺は満面の笑顔を見下ろしながら「おはよう」と蚊の鳴くような挨拶を返した。ぱちぱちと葡萄のように丸い瞳が瞬かれる。

「っていうかお前結構元気なのな」

「え?」

「いや……昨日の放課後の……」

「わーわー!!それは言わない!」

 泣いていた事を言われると思ったのか、大慌てで俺の口を塞いでくる花折。唇の触覚が当たる白い掌を解析して、諸々の情報を脳内に提示する。心拍数の情報、汗の成分の変化……

「ん?」

 いま、何か違和感が。俺は百合のように細い花折の腕を掴んで離す。接触面積を広げた掌を伝って、俺のセンサーが再度彼を解析をしようと回転する。

「こーら!」

 全く予期していなかった後頭部への衝撃。浮かびかけていた情報は思考領域(ソフトウェア)に走ったノイズのせいで敢え無く霧散した。

「朝っぱらからじゃれ合ってないで早く座りなさい!」

 ラフな格好をした担任教師が、出席簿で肩を叩きながら睨んでくる。

 高岡(みちる)教員、同じミチルだがこっちは女だ。男女含めた教師陣の中でも飛びぬけて背が高く、胸は無いもののモデル並みのプロポーション。だがその身体に乗るのが化粧っ気の無い白くつるりとした顔に尖った細いフレームの眼鏡、さらにレンズの向こうには冷気さえも放っていそうな切れ長の瞳が潜んでいるとしたらどうだろう。

 結論、とっても怖い。見下ろされると大抵の生徒は子鼠のように萎縮してしまうことから“睨みの高岡”と呼ばれるほどに恐れられている女教師なのだ。

「あー……すんません」

「……ほんっと加賀君にだけはこの睨みが効かないわー。あー腹立つ」

 高岡教員は息を吐いて肩に掛かっていた髪を手荒く払った。

 残念な事に高岡教員と俺の目線は同じ高さでかち合っている。高い位置にある本も取れるようにと長身型の外殻ハードウェアを支給されただけだったのだが、まさか学生生活二十年目にしてここまで有難みを感じることになるとはいやはや。

「ハイハイもう席に着いてー」

 がたがたと椅子を動かす音が重なる中、俺は何事もなかったかのように静かに席に座る花折の薄い背中を見つめていた。


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