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第一章 フシギサークル 15

 愛《I》ある(R)ことはいー(E)ことだ。

 IR=E オームの法則。

 なるほどなるほど、そういう語呂合わせで強引に覚える訳か。なんて涙ぐましい。

 俺は机に埋め込まれたまな板ほどもある低光度液晶タッチパネルに向かって、必死でペンを走らせる顔も知らない上級生の芳しくない勉強進行状況を彼の肩越しに目視すると、その背後から離れた。このボックス席も、まだしばらくは空きそうにない。

 他のボックス席も例に漏れず全て受験生で埋まっていたので早々に諦め、俺は棚から何冊か本を見繕った後に比較的空いているテーブル席を陣取った。手持ち無沙汰になって一番上に積んでいた本をパラパラと捲る。

 そういえばここ数日間まともに本を読んでいない。そろそろ情報の送信を母船へ行わないと、夏の査定に響いてしまう。そもそも生きる楽しみが見出せてない俺としては多く金銭を得たいという思いはないが、生活費くらいは稼げないとまずい。俺は知らず目の前の本に真剣に目を通しだしていた。

「未散?」

 肩口に掛けられた声に驚いて大きく体が跳ねる。しまった、ついつい本気読みしていた。

「さすが図書委員だね。速読って言うんだっけ?」

「いや、ちょっと眺めてただけだ」

 俺の開いていた本を覗き込んだ花折は「文字ちっさ!」と小さく声を上げる。

「本は見つかったのか?」 

「うん、ばっちり!」

 どさりと花折が机に本を置く。優に十冊以上はあった。

「そんなに読めねえだろ……」

「とりあえず目次見て、それっぽいのを当たろうと思って」

「なるほど」

 思わず感心する。それは確かに理に適っている。俺の、どんな本でも徹頭徹尾きっちり読み切るスタイルは、あくまで無差別な情報収集の為だけの行為なのだと今更ながらに気付かされた。向かいに座る花折を真似て、その読み方を初めて試してみる。

「えっと、目次目次……」

 整然と並ぶ章立てを目で追い、気になる所を見つければ頁数を確認してそこまで本を捲る。

「なんか、すっげーめんどくせえ……」

 初挑戦の情報探索は、思いのほか自分の性に合わないものだった。

「そういえば、なんで書籍って未だに紙媒体なんだ?」

 考えれば二十年間の情報収集生活の中、教科書やプリントは粛々と電子データ化されているのに、この図書室に新規追加される本は一向に減る気配が無い。何の弊害も無く任務を続けてこれたのが、逆に不思議になってくる。

「電子書籍化もされてるよ。けど紙の本もちゃんと発行されてる」

「だから、なんでだよ?」

「本能的に分かってるからでしょ」

 俺は首を傾げて花折を見た、伸びすぎた前髪が視界を遮ってきて鬱陶しい。

「だって読込機器リーダーが必須だったら、何時か読めなくなる日が来るかも知れないじゃない」

 確かに。事実俺たちは星を出る際に数億の書物データではなく、劣化しにくい形状記憶素材に直に文字を打ち込んだ数万冊の本を母艦に乗せた。それならば特殊な読み込み媒体を必要とせずに、誰にでも内容を見せることができる。

 星が変わっても考えることは同じなのか。

 ほんの少しだけ、また自分の心が軋んだ気がした。


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