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第一章 フシギサークル 09

「じゃあ記念すべきサークル活動一日目始めよっか!」

 放課後になった途端、またしても花折は快活な笑顔を向けて、たった数歩の距離を駆け寄ってきた。

「何故にサークル活動……」

「部として認められてないからね!サークルぐらいに留めておいたまでだよ。そもそも学校に申請なんてしてないけど!」

「ただの無許可活動じゃねーか……」

 こちらが眩暈すら起こしそうな輝く笑顔を向けられれば、もう反論も何もあったものじゃない。

「……で、まず何処に行くんだ?」

 各々の部活に向おうとするクラスメイト達の、ちらちらと窺うような視線が痛い。俺がこいつのことを苛めてるようにでも見えるのだろうか。待て待て苛められているのはむしろ俺だぞ。だが対面する花折の方は全くそれを気にかけることなく小首を傾げる。

「うーん、何処行こう?」

「決めてねえのかよ!」

 激しくつっこんですぐに後悔。クラスメイトの顔は今や鳩が豆鉄砲を食らった状態だ。

 やってしまった、この一学期の間積み上げてきた俺の陰のある無気力なキャラクターが一瞬にして崩れ落ちた。周りがあえて関わってこない絶好のキャラ設定だったのに。

 きっと彼らは後から「加賀君のつっこみキレキレだったねー」とか「きっと今までしゃべれる友達が居なかったからテンションあがってんでしょー」とか言ってるに違いない。恥ずかしすぎる。

「これはキツい……」

 俺はがっくりと机に伏せた。花折は小首を傾げて前の席の椅子に座った。

「とりあえず四時四十四分までにこの魔方陣を広げるところを探さないといけないんだよね。後顔を洗っておかないと」

「あー夏だしな、汗もかくよな」

「違うって!未散あの記事読んだんでしょ!?顔を洗って気合を入れろって書いてあったじゃん!」

 “準備は顔を水で洗って行え、だがその熱には気をつけろ”あー成る程、あの文章をそんな爽やかな心構えへと変換するとは御見それした。俺は曖昧に相槌を打つ。

 花折はクリアファイルからいそいそと昨日見せてくれた図を取り出す。細いペンで手描きされた白い紙は、殆どの授業をタッチパネルのタブレット端末で行うペーパーレス教育の中で、酷く反社会的なものに見えた。

「頑張ったんだけど一枚しか写せなかったんだ。この模様すっごい細かいから……」

「じゃあ明日から俺も写してくるよ」

「ほんとに!?夜勉強もあって厳しいから助かるよ、っていっても魔方陣を広げたところに居ないといけないからこの一枚でいいのかもしれないんだけどね」

 でもありがとう、と顔を綻ばせる花折。そんなお前の背を俺は崖から突き落とそうとしているのだよ、と俺は若干の罪悪感を感じて、その顔を直視できずに視線を本日も凶器のように青々と晴れ渡る空へと逃がす。

 しかし勉強の合間を縫って魔方陣製作に勤しんでいたとは驚きだ。そこまでして彼が放課後の錬金術師というオカルトめいたものに傾倒する理由が分からない。どうせならあの記事を掲示した奴を突き止めると共に、花折の涙の理由も解明してしまおうか。

 花折が排除容認対象と化す前に、明らかにできるのであればの話しだが。

「で、お前は今までどの場所で試したんだ?」

「えっと……屋上でしょ、後階段の踊り場とか、空き教室とか……」

「……ちょっと待て、全部人の居ないとこじゃねーか」

「え、だって人の居るとこは恥ずかしいし……」

「おめー真面目にやる気あんのかよ!!」

「ごめんごめんっ!!」

 俺に(はた)かれた花折は、頭を抱えて机に突っ伏した。

「周りから変な目で見られるようになったら嫌だったから、どうしても人気の無いところでしかできなくて……」

 非日常に憧れながら異端にはなりたくないと言う所だろうか。確かに学校生活とは、狭い檻に押し込められた中で、お互い傷付け合わないように振舞うことを学ぶ場であるとも言える。後一年半もその生活を残す中で、オカルトマニアや頭のおかしい人間というレッテルを貼られるのは嫌だという気持ちも分からなくはない。

「でも、今日からは大丈夫!だって未散も一緒に居てくれるし」

 腕の隙間から顔を上げて花折がはにかむ。仲間を得たことが相当嬉しいらしい。

「絶対見つけようね!放課後の錬金術師を!」

 思わず溜息。

「……じゃあとりあえず今日の儀式の為の場所を決めねえとな」

 こうなったらとことん付き合うしかない。その中で、さっさと真相に自ら気付いてくれれば僥倖だ。俺が教えてしまっては受動的な秘匿保持となり排除対象とならない。

 それでは意味が無い。

「花折が気になってる場所はあるのか?」

 彼はおずおずと声を上げた。

「ベタだけど……化学室」

 なるほど、錬金術師だけに。


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