第8話 今1番役に立つ道具〜カマキリマスク〜
外へ出ると真っ暗だった
ここに入るのが昼頃だったから、なんだかんだで結構時間が経ったらしい
いまだ検問している人にぺこりと頭を下げ、その場を離れる
これからどうするかなー、そんな事を考えて
「まず寝る場所だよな。腹も減ったし、金が無いと何も出来ないしなぁ」
俺が顎に手をやり考えていると、ティンクが「それなら」と、今まで隠れていた背中から飛び出す
「ギルドで換金すればいいよ、さっきの戦いで取れたアイテムを」
「え、ギルド?でもカードないぞ」
確かギルドカードが無いと色々出来ないんじゃなかった?
捕まるのやだよ
「大丈夫、換金するだけならライセンスの提示はいらないから」
そういう事は早めに言っておくれよ
こいつは毎度毎度後から言うもんなぁ
そう愚痴を呟きつつ、ギルドへ向かう
「あっ、でも顔は見られない方がいいよな。どうしたものか・・・」
そう、それだ
いくらカードが無くてもできるからといっても、今の俺は犯罪者だ
ばれたらすぐに捕まってしまう
「うーん、布か何かで隠せればねぇ」
ティンクも一緒に考える
布か……
顔を隠すのはありだがなぁ
なにか不自然じゃない物……
……
………
…………。
「……仮面とかどうかな?」
結果、出てきたのは1つだった
それもシンプルに仮面、と
「仮面はいいけど……無いんだよね。どこかに落ちてないかなぁ」
「そんな都合のいい事がある訳……待てよ」
頭の中にパッとアイデアが生まれた
そういえば……
「ん?何、どうしたの?落ちてた?」
ティンクがそんな事を言う
いやだから落ちてる訳ないだろ
俺は透明袋に手を入れ、それがあるかを確認する
確かに見た気が……
「いや、落ちてはないが……やっぱりあったか。これで何とかなるだろ」
俺は袋からそれを取り出す
ティンクが覗き込んでくる
「んん?一体なんだーーーなるほどねぇ、そういう事だったのか」
ティンクはそれを見て頷く
これがあればーーー
*
「いらっしゃいませー!」
ギルドの受付娘、ニナ・レントーゼ は、いつも元気だ
年齢15才にしてもうギルドの職員となれるほどの才能を持つが、それは別として明るく、ギルドの看板娘として、せっせと働いている
腰まで届きそうな長いピンク髮のツインテールに、ぱっちりした大きな目、身長は140cmとやや小さいが、それが愛らしい子である
職員からの人気も高い
そして、皆に温かく見守られながら、今日も今日とて働いている
「ニナちゃーん、ちょっと向こうのテーブル空いたから片付けて貰っていいー?」
先輩職員からの指示がきた
もちろんやらない訳がない
ギルド内にはあらゆる施設が備わっており、その中に食事場まで設けられている
昼は仕事人の昼食、夜は冒険者などが主に使用している
一日を通して多忙で、休憩も少ないが、給料はいいし、なにより楽しいのである
ギルド職員になるには、豊富な知識を必要し、いくつかの手順を踏まないといけないのだが、それはまた別のお話
とにかくギルドには、雑務なども多いのである
「はいです!」
先輩職員に返事をし、向かいのテーブルへ向かう
大量の皿にジョッキ、生ゴミなどがあるが、生ゴミは持っている袋に入れ、厨房へ持って行き捨てる
皿やジョッキは両手で積み重ねたりして器用に運ぶ
ーーー昔はよく割って怒られたなぁ
そんな事を思いだす
「あわわわっーーーとと。」
少しバランスを崩すが、難なく持ち直す
そのまま厨房の流し台へ
後は料理人がしてくれる
それが終わるとすることが無くなってしまった
高度な事は他の職員がしているし、食事場のテーブルも他の職員がしている
やるべき事は無いので、ニコニコ笑顔でギルドのドアの前に立っておく
来た人を必要ならば案内などをしたりする為だ
夜も深まってきており、あくびが出るのを堪えてそのまま立つ
しばらくするとーーー
チャリリン
ドアのベルが鳴る
誰かが来たようだ
急いで前に立ち、いつもの笑顔で挨拶を言ーーー
「いらっしゃ、いーーーまーーー」
ーーーえなかった
これはギルド職員としてあるまじき行動だ
にも関わらず、誰も怒ったり注意したりはしない
皆して固まっていた
中には怯えている人もいた
その、来た人の異様な姿に
「え、え?いらっーーいらっしゃいま、せ?」
皆して齢15才の少女に任せてもいいんだろうか、という衝動に駆られたが、ただ呆然と立ち尽くす事しかできなかった
なぜならーーー
その人は、禍々しいオーラを纏った、カマキリのような頭の被り物をしていたからだーーー
恐怖と不思議が混じり合った気持ちになる
そして、その人が声を発する
「……換金シタイ、アイテムガアルンデスガ」
超カタコトで凄く低音だった
「え、あ、はい!換金ですね!あ、あちらのカウンターへどうぞ!」
ニナは、頑張って応答する
背中を向けるのが怖かったから後ろ足で換金所まで案内する
そして、急いでカウンターの中へ行き、面と向かって話す
「ええっと、それではアイテムを……」
おどおどと言う
それに対してカマキリさんは、腰の辺りにある透明な袋の、エアボックス (私はそう呼んでいる) からアイテムをいくつか取り出した
黒い色の何かのカマ
紅い色の瞳
金属のような鋭い牙
黒い色の何かの宝石
そして、黒く輝く高そうな剣
この五つを出された
「な、何これ……?」
その異様なアイテムを前に、そんな言葉を発した
どれも見たことが無い
ニナはまだ職員になって半年ぐらいで、まだまだ知らないアイテムがあるのは当たり前だが、それでもここまで飛び抜けて凄い雰囲気を放つアイテムは見たことが無かった
(と、とりあえず調べないとですね)
「しょ、少々お待ちください」
そう言ってアイテムを一度取り、カウンターの奥の扉を開け中に入る
アイテムがとても重く、1つずつ運んだ
部屋に入ると、その人から離れることができて、ホッと息をつく
そして、その部屋の真ん中にあるテーブルにアイテムを置き、鑑定を開始する
鑑定の仕方は、アイテムを部屋のテーブルに置いてある鑑定機で鑑定する
鑑定機とはその名の通り、鑑定をする機械で、真ん中に穴が空いており、そこにアイテムを入れるだけで鑑定できるという弁当な物だ
下の方にも穴が空いており、そこに動力源となる『魔石』を入れる
一回の鑑定に少し魔力を使うからだ
そして鑑定したら、レア度として後ろの壁に投映する
その必要が無い程、見た目で分かるほど低いレア度の物は、その場で換金してしまうのだ
大抵は使う機会が無いのだが、今日のは特別だった
とりあえず最初は鑑定しやすそうな牙を鑑定機に入れる
ニナの手が少し震える
ニナはこの作業が初めてではないが、やっぱり機械という高級品に触れるというだけで動揺してしまう
そして、慎重に牙を鑑定機に入れる
少し時間が経って、鑑定を終える
「おおっ、鑑定が終わりましたですね、どれどれ……」
あれほどの物がどれほどのレア度か単純に気になってしまう
(レア度5?それとも6かな)
レア度6というのはみたこと無いが、これはそれ位いくだろう
そう思い、鑑定機の後ろに投映された情報を見やる
そこに書かれていたのは、予想を大きく超えるものだった
?????
レア度ーーー不明
推定額ーーー不明
「……え?」
思わずそんな声が漏れた
レア度というのは現在分かっているだけで、0〜13 まである
多くの人にとってはレア度7より上というのは存在しないも同義であって、見ないまま、一生を終えるのが当たり前である
それでも、この鑑定機はレア度8まで調べられるという優れ物といえるだろう
もしもレア度9以上を鑑定すると、一切の表示がされなくなってしまう
つまりはーーー
「これが、レア度9以上……」
そういう事なのだ
しかも1番上には固有名詞が出るはずなのだが、全て?になっている
「お、おお、落ち着け私!大丈夫、冷静冷静……。ふぅ」
未知の物というのは若い少女の動揺を誘う物らしい
(というかこんな物をなぜギルドに持って来るんでしょう?こんな代物はちゃんとした店で買い取りしてくださいです)
こんな高価な物、ウチでは扱えない
結果が出ない以上、引き取ってもらうしかない
そう思い、五つのアイテムを取り、カウンターへ戻る
重いので1つずつだが
カマキリの人は御親切にカウンター前で待っていたみたいだ
「すいません……。ウチでは扱えない物でして……」
するとカマキリの人は、驚いたようなポーズをし、アイテムを回収した後、エアボックスに手を入れなにやら探しだした
(何をしているんでしょう?もっと安いアイテムを探しているとか?)
少しすると、テーブルの上に何かを置いた
ゴトン←紅い大宝玉
「………。」
(いやいや、無理ですから!!何考えているんですか!明らかに判別不可能ですって!!」
さっきのより高そうな物を出してどうするのか
鑑定結果は火を見るよりも明らかだ
申し訳なさそうに断る
「す、すいませんが、恐らくこちらも……」
カマキリさんが、今度は分かりやすいほどオーバーなリアクションをとる
奇妙な仮面のままやられると、身震いするものがあった
すると、カマキリさんはなにやら焦って次々と物を取り出し始めた
ゴトン←神秘な感じの水晶
ゴトン←虹色の鉱石
ゴトン←瑠璃色の鱗
何をしたらそんなに取れるのか
見たことないアイテムばかりだ
当然お引き取り
しかし
カラン←普通そうな剣
んん?
普通……に見える剣だよね
カマキリさんはいまだにアイテムを並べる作業をしているが、構わずその剣を調べる
まずは持ってみる
特別に重いということは無い普通の剣だ
さっきの黒い剣はとてつもなく重かった
ニナはステータスが高いためなんとか持てたが
次に素材
使われているのは、少し高いがなんてことない鉱石だ
恐らく鍛冶屋が失敗でもした物だろう
ところどころ傷や、凹みがあったりする
最後にーーーいや、ここまで分かれば充分だろう
そう結論に至ったニナは早速伝える
「ええと、こちらの剣ですが、多分換金できると思います」
「!?」
仮面越しにも動揺が伝わってくる
何で!?と言った感じだ
「少々お待ち下さい」
慣れた営業言葉でその場を離れ、剣と一緒に部屋へ入る
部屋に入るとすかさずアイテムを上の穴へ入れる
そして少し待つ
鑑定結果が出てくる
固有名詞ーーー無し
レア度ーーー3
推定額ーーー10000
やはり、結果が出た
なぜ1つだけまともな物を持っているんだ、という疑問はあるが、今は考えないようにする
固有名詞が無いのは失敗作だからだろう
とりあえず鑑定結果がでたことにホッとする
剣を取り出し、ドアを開け、カウンターへ向かう
ようやく慣れてきたカマキリさんの顔を見つつ言う
「お待たせしました。先ほどの品物に鑑定費用と税を引きまして、合計で8000ミルとなります」
そう言い終わると、カウンター下のお金から、お札を8枚取り出し渡す
カマキリさんはお金を受け取ると、クルッと後ろを向き、即座に帰ろうとした
(結局何だったんだろう)
この場にいる全員が思っていることだが、あの人は不明要素が多すぎる
何か分かれば……
「!!」
すると、ニナが何かを思いつく
(そうだ!ステータスを見ちゃえばいいんだ!私魔法覚えているし!)
幼いながらのイタズラごころが芽生えたようだ
すぐにカマキリさんを狙って魔法を唱える
「『オープン』」
情報系の魔法になるよう頭で処理をしておいた
すると、ニナの前にカマキリさんの情報が出てくる
「さてさて、どんなに凄いステータスなのかな?」
してやったり顔でそれを見る
しかしーーー
「………え…?」
ニナはまたしても驚く事になった