第5話 絶望との遭遇 前編
「……暗いな」
俺がダンジョンに入った一言目がそれだった
灯りは一応設置されていたが、どれも消えそうになっていてあまり意味はない
その上寒い
ダンジョンというよりは洞窟に来ている感じがする
「ああそっか。まだ使ってなかったね。『オープン』」
ティンクが変な言葉を言うと同時に視界がよくなった、というより明るくなった
「お、おお……。その、オープン?ってのが明かりをつける魔法か?」
俺の問いにティンクが答える
「明かりをつけた訳じゃないよ。眼を良くしたんだよ。暗がりでも見えるように」
俺はほぉー、と納得する
なる程、それは便利だ
確かにどこも均等に明るい気がする
「それとね、オープン は魔法を使う……、そうだね、万能の呪文みたいなものかな」
「は?」
意味が分からなかった
当たり前だ
万能の呪文って
ただ、開く を英語にしただけじゃないか
「ほら、君たちの世界じゃ、炎を使う時は、ファイアー 。氷を使う時は、アイス、みたいな決まり文句でしょ?」
まぁ、一概にそうとはいえないが、だいたいは合ってるはず
それと何の関係が?
「こっちの世界ではイメージで魔法を作るんだ。だから、使いたい魔法をイメージして、オープン と言う訳さ」
わかった様な、わからない様な……
わかった事にしておこう
「まぁ、言いたい事は分かった。つまり炎をだす時も氷をだす時も同じ言葉でいいんだな。
じゃあ別に、オープン じゃなくていいじゃん」
「うん、まぁ魔法を使う時に何か言わないといけないから、いつの間にか普及しちゃったんだよね」
そうだったのか
ついでにもう一つの疑問もぶつける
「それと、イメージで魔法を作るって言ってたけど、イメージで魔法の威力が変わるのか?」
「まぁ、イメージが強ければ魔法も強くなるけど……魔力によって限界はあるから、そうとはいえないし、下位魔法や上位魔法があって……おいおい分かってくるさ」
うーん
頭が痛くなってきた
考えるのはよそう
それよりダンジョンだ!
「それはもういいとして、全然モンスター出てこないな」
そう
俺たちは歩きながら話していたのだが、一度もモンスターと出会わないのだ
「当たり前だよ、ここらは他の冒険者が倒しているから、次に出るまで時間がかかるよ」
……そんなリアルさはいらん
早くモンスター倒して素材やら金やらでいい思いしたいのに!
早く出てこい〜
そう願いながら進む
……結局、現在いる6階まで出てこなかった
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このダンジョンは塔のようになっており、上に行けば行くほど敵が強くなるらしい
現在は21階まで攻略済みだとか
よしっ、説明終わりっ
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「おい、出てこないじゃん」
「ここまで徹底的に倒されてるとはね……」
俺とティンクが同時にため息をつく
もう出てこないんじゃないか、
俺たちが半分諦めていたその時
ぴょん
と、通路の角から飛び出してきた
耳が長い、ウサギの様なモンスターだ
身体が恐ろしくでかい
金色に光っていた
だが、そんな事はどうでもいい
俺は大きく息を吸いーーー
「モンスターだあああぁぁぁぁ!!!」
うおおぉぉ!
と、モンスターに向かって激走する
ティンクは俺の声にびっくりて、ひゃっ、と間抜けな声を出した
「ど、どうしたんだいリュー?
……うん?あれは、引き寄せラビットか……。ってダメじゃん!?リュー!今すぐ引き返して!!」
ティンクが何やら言っていたが、無視して走る
モンスターは慌てて引き返し、細い通路に入った
俺も後を追いかける
ティンクが何か言っているが、なお無視
そして細い通路を抜けると、広い部屋に出た
「うぉ、広っ。……ってあいつどこ行った!」
見渡すが何もいない
どうやら見失ったようだ
すると、ティンクが深いため息をついた
「はぁ〜。リュー、やっちゃったね。後ろをご覧よ」
「どうした?後ろになに……が……。わお」
ティンクに言われ後ろを向くと、俺が来た細い通路がでかい岩で塞がれていた
「さっきのは “引き寄せラビット” と、言って冒険者らをついてこさせて、強いモンスターがいる場所までおびき寄せるんだよ。しかもここは初心者殺しと言われていて、今まで出られた人は、転移魔法を使える人しかいないんだ」
「なるほど。で、初心者の俺がまんまと引っかかったと。
でも、その話しが本当なら……」
直後
向こうの壁が壊れてモンスターが現れた
そのモンスターは高さ10m程で、カマキリに似ていて皮膚が黒い
そして両腕には鋭い鎌
いかにもボスといった感じだ
極めつけはドス黒いオーラを纏っており見たものを恐怖させる
「……やっぱりいますよね」
ズシンズシンと歩いてくる
「うわぁ、よりにもよって悪魔級かぁ。どうしよう……」
となりでティンクが呟く
その悪魔級が何なのかは知らないが、ヤバイのだろう
「どうしよう、逃げ道は……ないかぁ。うーん、とにかくリュー。あいつには近寄らないでね、多分裏ボスだと思ーーー」
裏ボス
そう聞いた瞬間俺は解析を始めた
「見ためから判断して虫系モンスター。しかしオーラと身体の黒さから闇系の方が強い。打撃は効果が薄そうで魔法は耐性が無いと見た。さらに攻撃は近接と思わしい。不確定要素があるとすればあの鎌。歩幅とスピードから、近接スピード型と思われる」
俺がいきなりの簡単な分析を終えるとティンクが目をぱちくりしてこちらを見ていた
「ん?どうした?」
「いや、凄いなぁと思って。え?何?リューって凄かったの?」
俺はふふんと胸を反らしていう
「まぁな、一端にもゲーマーだし」
「おお、初めて頼りになりそうだよ!」
最強のドラゴンに褒められた
やったぜ!
ってそれどころじゃなかった
俺は敵を見て言う
「まぁ、この世界が向こうと同じか知らんがなーーーっと、止まった?」
敵がいきなり止まった
動揺を隠せない
近接ならさっさと近づいて攻撃すればいいのに
そう思ったからこそ動揺した
やっぱりこっちの世界は違うのか?
そう思った瞬間
敵がこちらを、腕の鎌で斬った
他の人が見れば、何をしてるんだ?と思うだろう
あまりに距離が離れ過ぎているからだ
実際ティンクが疑問に思っていた
だが、俺には直感で分かった
これに似た攻撃方法を知っていたからだ
俺は急いで横に飛ぶ
肩に乗っていたティンクが転げ落ちる
ティンクは何事かと思いさっきまで自分達がいた場所へ視線を向ける
すると
その後ろの壁に、ギギギィィン と、斬った様な跡ができた
「え?な、なんで!?何がーーー」
「恐らく “斬撃” だろう。危ないなぁ。……まぁ、これで敵の手の内が分かった。他に特殊能力が無いのを祈るぜ」
そこで、あれ?と思う
こっちは元ドラゴンとただのゲーマー
対して向こうは悪魔級とかいうボスモンスター
近接も遠距離もいける
この絶望的な戦力差
そして逃げ道はない
それは、こう言うしかないだろう
「……詰んでね?」
果てしなく絶望だった
……帰りたい