第1話 初転移
「う〜ん」
という声と共に俺は起きた
実にいい気分で起きられたようだ、疲労感が全くない
目覚ましは鳴っていない
目覚ましより早く起きるなんて珍しいなぁと思う
今日は特別な日だからかなぁ、なんてことも考える
すがすがしい気分で体を起こそうとするが、不思議な点があった
ーーー目の前が真っ暗だ
別に人生に絶望してる訳ではない
誰かにバトルで負けて所持金の半分を失ったわけでもない
とにかく暗いのだ
夜中電気を消してもここまで暗くはならないだろうというくらい暗いのだ
なにも見えない
まだ夢の中とも考えたが、目はパッチリ開けている
それともう一つ、上に何か乗っているのだ
これは毛布かと思った
というかそうとしか思えない
でも実際は薄い布をかけられているようだった
…頭からつま先まで
とまぁ、起きるまでの間にここまで疑問が出来たが、全ては起きたら分かることだ
俺はゆっくりと上半身を起こしーーー
「きゃっ!う、動いたわ!」
……。待てい
いま明らかに誰かの声がしたぞ
俺が寝ていたのは自分の部屋のはず
誰か入って来たのか
しかし残念な事に俺は1人暮らしで幼馴染もいない
夢のシチュエーションは無くなった
じゃあ一体何なんだ?
バサッ!っと被さっていた布を取り払う
するとそこには…!!
「……どこ?」
見たこともない場所で見たこともない人達が、俺を取り巻くように人だかりが出来ていた
街は中世ヨーロッパ風
異世界としては最高ですな!
これで夢という逃げ道も無くなった
「ドウイウコトデスカ」
訳が分からないのでカタコトになってしまった
すると周りは
「しゃ、喋ったわ!」
「そして動いた!」
「ぞ、ゾンビよ…。ゾンビになっているのよ!!」
なんか言われ放題だった
無料のストレス発散屋ですか?今なら僕の傷ついた心が付いてきます
そんな冗談は置いといて、彼女達の言い草からして、どうやら俺は死体か何かと間違われているらしい
失敬な
まだピチピチの17歳だ
でもなるほど、だから布を被せていたのか
見ればここもどっかの路地だし
しかし死体と思うのは早計だと思う
ただ路地で寝ているだけではないか
そんな事を考えつつザワザワする路地でボケッとしていると、甲冑が来た
さすが中世ヨーロッパ
向こうの世界では警察であろう位置が甲冑とは
「報告を受けて来ました。なんでも死体が動いたとか…。わっ!本当だ!」
そこまで言うと甲冑は背中から槍を取り出した
お、おいおい、まさかそんな物騒な物をこんな善良な市民に向けませんよね?
しかし甲冑はこちらに槍を突き出した
そして叫んだ
「み、皆さんはさがってください!応援、応援を呼べ!」
どうやら応援が来るようだ
俺は今、かなり危ない状況にあるんじゃないのか?
ここは逃げた方が良さそうだな……
「現場の状況は!?あれは何なのですか!?」
甲冑が後ろの人に説明を求めている
……今だっ!!
甲冑が後ろを向いた瞬間に俺は立ち上がって後ろの路地の奥へ走った
「あ、応援が来ました!って、え?あっ!ちょっ、待て!」
後ろを見ると、甲冑が取り乱している
危なかった
もう少し遅ければあれの応援に会っていたのか
内心ホッとするが、甲冑が気付いてこちらに走って来ている
ガシャンガシャンと甲冑が音を出してとても重そうだ
甲冑を着てるためそこまで足が早くなく、運動不足の俺でも差をつける事ができるので、追いつかれる心配は無さそうだ
それでも一応全力で走る
前を見れば、道が左右に分かれていた
右に行くか左に行くか迷ってしまう
「ーーーッ!…右!!」
少し考えて右にした
しかし、右に曲がるとまた分かれ道が
「……また右っ!!」
今度も右にした
しかしまたまた分かれ道が
「右!」 ← 俺
「左!」 ← ピエロのおっさん
…いや誰だよ
俺が不思議そうに見ていると、それを見てかピエロがキラリと白い歯を輝かせて言う
「やぁ、君も借金で?大変だね」
逃げている理由が最低すぎる
働け
「いや一緒にすんな。あと最悪な理由だなおい」
そう言うとピエロは少し寂しい顔をしたが、また笑顔に戻りなぜか俺に近づいてくる
近い近い!!離れろ!あと顔のメイクが怖いんだよ!
「待て!!そこを動くな!!……お願いだから待って、これ、重たいん、だよ」
後ろで凄い差をつけられている甲冑が弱音を言っていた
まぁ甲冑だし
待たないけど辛そうなのでピエロをプレゼント
いまだに白い歯を輝かせているピエロを思いっきり後ろに蹴った
ピエロは驚きつつ後ろに吹き飛ぶ
頭を打って痛めている間に甲冑に捕まってしまう
「お、お前は!窃盗容疑の!!」
「げぇ!騎士団じゃねぇか!!」
何かいいことをした気分だ
それにしても本当に犯罪者だったのか…
ピエロは手に縄をつけられ捕まった
窃盗って最低だな
「容疑者確保!これより連行します!…あ、あいつを追うの頑張ってください」
後ろでそんな声が聞こえる
本音が漏れてますよ
それはともかく、とりあえず次の路地を右に曲がった
すると、路地を抜けて大通りに出た
ようやく抜けられたか〜、と思ったがこの建物のちょうど反対側に人だかりと甲冑を着た人がいる
なにやら事件があったようだ
「そうですか、一体何が…。ん?おい!あっちにいるぞ!!」
1人の甲冑が俺に気付く
ええと?俺を追っているということは、その場所はさっきまで俺が寝ていた場所であって…
くそぉ!!建物一周しただけだった!!
そういう結論に至った
次は間違えないように、俺は今度こそ考えて必死に逃げた
後ろで甲冑が弱音を吐いていた気がするが、無視して走り続ける
異世界に来て一発目で逃亡しています
俺、この先どうなるんだろ……