冬の童話祭
世界には四季があります。
春の女王サマ、夏の女王サマ、秋の女王サマ、冬の女王サマ。
四人の女王サマが、それぞれの季節を作り出すのです。
秋には秋の女王サマが、冬には冬の女王サマが、正しい期間だけ、各々の季節を維持するのです。
世界には、雲にも届く高い塔があります。
その塔は不思議な塔で、昔々に王様が建てたといわれる『季節の塔』と呼ばれるものです。
『季節の塔』の中に、春の女王サマがオコモりになられると、塔の外に広がる世界は春になります。
夏の女王がオコモりになられると、塔の外に広がる世界は夏になります。
世界は、そうした、四人の女王サマと『季節の塔』の働きにより、四季を巡らせます。
王様も、世界の人々も、そうして彩られる四季が大好きでした。
毎日、楽しく暮らしていました。
四人の女王サマは、四つの季節を正しく運び続けました。
長く、長く、皆んなが知るより遥かに長く。
四季は正しく巡り続けました。
あるとき、までは。
あるとき、です。
それは冬のことです。
もう春が来てもいい頃なのに、世界にはまだ雪が降り続けるのです。
人々は困りました。
ーー寒い!、雪かきが大変だ!、野菜が育たない!、果物が育たない!、ウエ死んでしまう!
ーーどうして『季節の塔』から冬の女王サマが出て来られないのですか!このままでは、冬が終わらない!
人々からの苦情に、王様は頭を抱えました。
女王サマが塔から出て来なくては、季節は変わらないのです。
困った王様は、皆に助けを求めることにしました。
【冬の女王サマを『季節の塔』から連れ出し、この長い冬を終わらせてみせよ。
冬が終わり、春が訪れ、次の年にもまた冬がやってくるよう、何とかすること。
私の願いを叶えた者には、私が何でも願いを叶えてやろう】
世界のあちこちに置かれた、王様からの看板が置かれました。
長い、長い、冬のある日。
雪に埋まったその看板を見た、ある女は、"何でも願いを叶える"という言葉に魅せられ、『季節の塔』へと向かいました。
ーーはたして、塔の中にこもり続ける冬の女王サマを、どうにかすることが出来るのでしょうか…?
★
「ワラワには冬が体験出来ない」
褒美を求め、塔を訪ねた女に、冬の女王は言いました。
だから、今回の冬が終わるまでに、塔の中ではない"冬"が知りたい、と。
女は困惑しました。
それは、どうしようもないことだ、と。
なぜなから、塔の中に冬の女王がこもっている間だけが、"冬"なのですから。
冬の女王サマが塔の中にいる間。
冬の間、塔の内側にだけは、冬が訪れることはないのです。
「それは無理なことです、冬の女王サマ」
女は言いました。
「イヤじゃ、イヤじゃ、イヤじゃ」
しかし、冬の女王サマは、駄々をこねます。
首振り、首振り、イヤイヤイヤ。
「では、春の女王サマに冬の話をしてもらいましょう」
女は言いました。
お喋り好きの春の女王サマは、お喋りが出来るとあって、スグに塔へとやって来ました。
「冬っちゅーのはな、凄い寒いんや」
春の女王サマが語りました。
「塔の中は、冬でも暖かいやろ。でも、冬っちゅーのはホンマはとんでもなく寒いんや」
「……お前は嘘つきのようだな」
春の女王サマの言葉に、冬の女王サマはお怒りしました。
「ワラワは知っておるぞ。冬という季節は、子供が外に出て、雪で遊ぶような暖かい季節だとな!」
冬の女王サマは声を荒げ、こう続けました。
「窓から見える、冬はとても楽しく暖かそうではないか!」
なんと、驚きです。
冬の女王サマとあろう方が、"冬"を誤解しているのですから。
女は考えました。
冬の女王サマの望みを叶えることは不可能です。
だけども、それでは王様から褒美を頂くことは出来ません。
女は深く考えました。
そして、ヒラメきました。
「冬の女王サマ、塔の外に出てください。外に冬があります」
女の言葉に従った冬の女王サマは、"暑い"と感じました。
「この暑さが、冬です。冬の女王サマ」
女は言いました。
冬の女王サマは感心しました。
確かに、これは"冬"である、と。
「なるほど、これが冬であるか」
冬の女王サマは言いました。
「まるで、ワラワの知る夏のようであるな。雪で遊ぶ子供の姿も見当たらぬ」
冬の女王サマは、悲しそうな顔になりました。
「これならば、冬という季節は必要ないな……」
冬の女王サマは、もう塔にはこもらないと言い出しました。
それでは、女は困ります。
王様から褒美を頂く為には、冬の女王サマがまた塔にこもることが、必ず必要なのですから。
女は、必死に考えました。
冬がないと、皆んなが困ります。
女は、冬の女王サマを連れて雪だるまに会いに行きました。
「冬がないと僕らは大きくなることが出来ません」
暑さで小さくなった雪だるまは、冬の女王サマに涙を流し訴えました。
「冬がないと僕らは消えてしまうのです」
雪だるまは、ワンワンと泣きました。
冬の女王サマに、次の冬のお願いをして、ついには溶けて消えてしまいました。
「……雪だるまが消えてしまうのは可哀相だな」
冬の女王サマは言いました。
「ワラワはまた、秋の次に塔にこもることにしよう」
溶けた雪だるまを見つめ、冬の女王サマは、物思いにふけた様子で言いました。
"冬"であるはずの今、雪だるまが溶けることはオカシイと、女はドキドキしましたが、冬の女王サマは女にお礼を言いました。
「ワラワに冬を体験させてくれてありがとう。また、秋の次に塔にこもる日まで、ワラワは何処かへ行っておる」
冬の女王サマは、そう言うと、何処かへ行ってしまいました。
長い長い"冬"は、これでお終いです。
ここから先は、春の出番です。
女は、王様の元へ褒美を貰いに行きました。
王様が問いかけます。
「お前は何を望むのか?」
女は答えます。
「春、夏、秋、冬。そのドレでもない、女王の必要のない、誰もが楽しめる新しい季節を」
こうして、女は褒美を手に入れました。
女は、秋の女王サマは、喜びました。
とてもとても、喜びました。
一年に十日だけ、春の穏やかさと夏のヒデルような暑さ。
それに、秋の心地良さと冬の寒さがサイコロの目のように、気まぐれに訪れる不思議な季節が出来ました。
その季節だけは、『季節の塔』の内側に、どの女王サマも必要ありませんでした…とさ。